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魔帝動乱編 暗躍する闇

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とある喫茶店で一組の奇妙な客が座っていた。


一人は闇の大精霊ヘスティア

黒髪に闇色の瞳に悪魔のような漆黒の翼

黒紫のドレスに身を包んだ令嬢のような姿をしている少女だ。


その向かい側には痩せていて肌が浅黒く

耳の上には闘牛のように太く歪んでいる漆黒の悪魔の角を生やした

銀色が混ざった赤黒い髪の少年であった。


顔立ちはそれなりに整っているが
赤い瞳がまるで地獄の炎の様な感じであった。




すると赤黒い髪の少年はヘスティアに対して蕪村な態度でこう言った。

「それで俺は何をすりゃいいんだ?

めんどくせーのは御免だぜ。」

少年は地面に唾を吐いてそう言うと
ヘスティアはそれを気にも留めずにこう言った。



「この間、帝国で好き勝手を暴れさせちゃったから

迂闊に近づくことが出来なくなってね。

それに鉱山都市にある
あれの封印はオルガンティア帝国の秘宝で

最上級の封印が何重も施されてあるから

解放の儀式だけじゃ時間がかかるからね。」




そう言ってヘスティアは紅茶を飲んでいると

赤黒い髪の少年はヘスティアに対してこう言った。



「それにしてもアルビオンってあんなに弱えなんてなあ

あんな腑抜けた奴が俺よりも上なんて可笑しいぜ。」

少年が笑うとヘスティアは厳しい口調でこう返した。


「彼女はまだ力が目覚めてないわよ。

倒す自信があるの?本調子になった彼女を??」


すると少年が肌にある刺青のようなものを見せるとこう言った。

「倒すさ。そして証明してやるよ。

俺様こそが真の魔王の後継者だってことをな。」

そう言って立ち去るのを見届けたヘスティアは
赤黒い髪の少年の方を見てニッコリと笑っていた。


 
そしてそれぞれ立ち去ったあと残ったのは
金貨と人数分のコップだけであった。










暗殺者や武装集団による被害は拡大していた。



約百人の死者が出てしまっている。


その被害者の中には、わたしのお父様もいた。

しかし、どうゆうわけか被害者達は皆、生きているのだ。




手足を人力で引き千切られていたり
腕のような何かが突き刺さっている痕跡がある者

獰猛な野生動物かなにかに襲われたようにしか思えないが
貫かれた傷の大きさはどれも人間の少女ぐらいの大きさ。

そして、その百名の被害者達は殺された記憶があるのにも関わらず
殺害された後に蘇生でもされたのか、

どうみても重傷を負っているのにも関わらず
被害者達は現に生きている。
それでいて誰も犯人のことを知らないという

容姿、性別、どんな時に襲われたのか

犯人に対する記憶が曖昧になっているというのだ。




そんな物騒な事件とは関係なく

わたしは息抜きに本屋へ来ている。

最近、好みの恋愛小説を見つけたの



勇敢な騎士と優しいお姫様の冒険活劇。
運命の悪戯で巡り合った二人の、身分違いの恋を描いたお話だ。

幾度となく襲い来る困難の中で
時には騎士が知恵を出し、時にはお姫様が勇気を振り絞り
力を合わせて乗り越えていく。
そうして固い絆を結んだ二人はやがて結ばれ、永遠の愛を誓う。


出会ったその日から、私はこの物語の虜になってしまったのである。

特に一番のお気に入りのお姫様の告白の場面は
いったい何度読み返したのか自分でも分からないほど。
最愛の人へ告げた彼女の言葉は「好きです」のたった一言。



そのたった一言に彼女がずっと背負ってきた苦しみが
数え切れないほどの葛藤が
そして、それでも届けること選んだ
愛する人を想う気持ちが、全て込められていた。


わずか四つの文字にそれだけの想いが綴られた美しさは
私を本の世界へと招待してくれる扉を開ける鍵になった。
こんなロマンチックで素敵な恋を、いつかは私も――









「あっ…」

「あっ……!」

「…………ん………。」


同じ本に手を伸ばしていた
恋に恋する三人の少女が出会ってしまった。


「あっ…ご…ごめんさないっ!」

「あ…いえ…こっちこそごめん」

「……お先に…どうぞ……。」


三人の少女はお互い譲ろうとするが延々と続き終わらない。


白銀の少女がわたしに譲ろうとするが

わたしも譲ろうとする。


髪の毛が床に垂れる程長く片目が隠れている
無口な煤けた銀髪の小さな少女


一冊の本を譲り合って日が暮れようとしている時

白銀髪の少女が提案する。


「えっと…三人でお金を出し合って
三人で一緒に見ませんか?」


「そ…そうねっ!」

「……それがいい……。」






「お買上げありがとうございましたー。」



「えっと……あそこに座りませんか?」

「そ…そうだなっ!」

「………ん………。」



公園のベンチに座って三人で


「……貴女達もこの小説が好きなのね」

「はいっ!」

「………まあ……人並みには。 」



「ここで巡り会えたのも運命かもしれません」

「同じ恋愛小説を愛する仲間として自己紹介しましょう。」


「そうね…わたしはモルドレッド・レガリアよ。」

「私はルミナス・メモティック・フォールンナイトと言います。」



「私は------」


被検体Ω-000はこの二人の顔に見覚えがあったが

二人は私のことを覚えていない。

なら、わざわざ前世の名を名乗ることもないだろう。



「私の名前は…久遠…零」

「恋愛小説が好き……友達になってくれる?

モルちゃん」

「モルちゃん…?」

「………ん…雰囲気が…もる~んってしてるから…………
モルちゃん。」

「モルちゃん… 可愛らしい呼び名ですね!」

「私も呼んでいいでしょうか?」

「ええ、良いわよ。」


こうして、私達は盛り上がってしまって

気がついたら空は夕焼けに染まっていた。


「わあ…もうこんな時間っ!?」

「……そろそろ…帰らないと」

「そうね。妹が心配しちゃうかも」


「それじゃあ、また会えると嬉しいわ」


「はいっ!」

「……ん………バイバイ、モルちゃん、ルミちゃん。」



こうして三人は別れそれぞれの帰路についた。



帰り道、被検体Ω-000は記憶消去の魔法を使った。

前世で恋愛という希望を失い世界に絶望している彼女は
あの二人の友達になるのは相応しくないと考えてしまったからだ。



「もう…会うこともないだろう。」

















帰宅したわたしを出迎えた

シャルロットはソファーに寝転がりながらアイスを食べていた。


「あっおかえりお姉ちゃ~ん」

「外暑かったでしょ?アイスでも食べる?」


「そうね…貰っていいかしら?」

「そいっ」

「むぐっ!?」


シャルロットは急にわたしの口に
食べかけのアイスを突っ込んできた。 

イチゴ練乳味でとても甘く、ひんやりとして冷たい

火照った体を冷ましてくれて、美味しい。


「………っていきなり口に物を入れないのっ!危ないじゃない。」


「あはは、そうだね。次からは気をつけるよ。多分」






「……あっ!」

「そういや、お姉ちゃんに伝えとかないといけないことあったんだった」


「…え?なに?」


「パパから明日、お姉ちゃん名指しされて
皇帝陛下…さん?の所に行かなきゃなんだって?」



「……ん???」


皇帝陛下が?わたしを?名指しで?呼び出し?

この国を統治している超偉い人が?

名指しで?わたしを?指名?

どうゆうこと?

訳が分からないわ???


「皇帝陛下に名指しで呼び出し食らうなんて
お姉ちゃんなにやらかしたん?」


「な…何もやらかしてないわよっ!」


「えー?ほんとかな~?」



「まあ、私とパパのせいなんだけどね、アハハ」



「はあ?」


「いやー、我ながら頑張ったんだよー」

「お父様が頻発している物騒な事件の犯人と
武装集団を殲滅する大規模の作戦に名乗り出たんだけど

私が主犯格を捕まえる作戦に参加する人数は最小限にして
帝国最強の実力がある三人だけでって提案して
その一人にお姉ちゃんを推薦してやったのだ。」


「最初はパパも皇帝陛下も否定的だったんだけど

パパと皇帝陛下にお姉ちゃんがどれだけ
最強で有能で最高で努力家で
宇宙一の美少女で可愛らしいのか熱弁してやったんだよー

そうしたら、パパと皇帝陛下が折れちゃったってわけ。」


「な……な……な…な…」


「なにやってくれちゃってるのーーーー!?!?」



「アハハ!イイねえ!その顔が見たかったんだよ」

「まあまあ、安心して、私も一緒だからさ」


「いやああああああーーー!!!!!」


どうして……こんなことになってしまったのよ………!



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