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しおりを挟む第一章 ザマス眼鏡のブリギッド
「ブリギッド・グリンブルスティ! あなたはクビよ!!」
雇い主の妻、カット夫人が金切り声をあげて、手紙と小箱を突き出した。
小箱には有名ブランドのネックレスが入っている。
王立魔法学園中等部の受験対策専門として、通いの女性家庭教師――一般市民の裕福な家庭の子どもたちに読み書きや算数を教える――をしているブリギッドは、銀縁眼鏡の奥からカット夫人に冷たい目を向けた。
「……人の荷物を勝手に開けたんですか?」
下品ですね、ブリギッドは小さくつぶやく。
カット夫人はカッと顔を赤くして乱暴に手紙を開くと、内容を読みだした。
「『親愛なるブリギッド嬢 あなたの髪と同じ色の美しい石を見つけました。ここにネックレスを贈ります。ぜひ妻となり、ずっと私のもとにいてください。あなたの主人 ローリー・カット』ですって!」
ローリー・カットとはこの屋敷の主人である。
しかし、鼻息荒く読みあげられても、ブリギッドは動じなかった。
「旦那様から頂いたお手紙です。でも、きちんとお断りしました」
飄々と答える。
(こういう誤解が嫌だから、わざわざザマス眼鏡と馬鹿にされるだて眼鏡をかけて、髪もひっつめて、お洒落だってしてないのに。なんでこうなるのよ……)
ブリギッドは自分の努力が無駄になり馬鹿らしくなる。
――ブリギッド・グリンブルスティ。
領地を持たない名ばかりの貴族であるグリンブルスティ子爵家の令嬢で、二十三歳。
背は小さいが胸は大きく、癖のある亜麻色の髪をひとつにまとめ、流行遅れの服装を着た垢抜けない女だ。両端の尖った特徴的なフレームの眼鏡をかけていることから、『ザマス眼鏡のブリギッド』とからかわれている。
二十歳で父オグマの死亡通知を受け取ったブリギッドは、病弱な母と幼い弟を養うため、一家の大黒柱として働いていた。
(……ま! 辞めたいと思ってたところだったから渡りに舟ね。仕事はまた探せばいいのだし)
ブリギッドはあっけらかんとしていた。
王立魔法学園の受験対策用のガヴァネスとして評価が高いため、引く手あまただからだ。次の仕事の心配はない。
王立魔法学園とは学問をはじめ、あらゆる分野において優れた教育機関である。中等部・高等部・大学部からなり、大学部を卒業できれば、国内の要職に就くことができる。
十三歳から十六歳の子どもたちが通う中等部へは数学・語学・歴史に関する筆記試験と身辺調査を踏まえて、毎年、貴族の子どもを中心に五十名ほどが入学する。
入学金や学費は高いが、学園内の安全性や人脈作り、約束された将来などの観点から、最近では成り上がりの商人たちのあいだで、我が子を入学させるのが一種のステイタスになっていた。
結果、以前よりもはるかに受験の倍率が高くなり、入学するためにはガヴァネスの力が必須だった。
「こんな有名ブランドのネックレスを受け取っておいて断った!? そんな言い訳が通ると思っているの? 私に隠れていやらしい!」
カット夫人に般若の形相でつめ寄られても、ブリギッドは平然としている。
「ネックレスは転売しようと思っていました」
「この守銭奴!! それなら手紙は何よっ!」
「紹介所に証拠として残すためです。ガヴァネスへのセクハラは規約違反とご存じなかったんですか?」
ブリギッドが答えると、カット夫人は金切り声をあげた。
「夫がアンタにセクハラしてるですって!? ザマス眼鏡で、地味な女に? そんなわけないでしょ! 男嫌いだって有名だったから安心していたのに! アンタがそのでかい胸で色目を使ったんでしょ! この泥棒猫!」
そう言いながらカット夫人は手紙をビリビリに破り捨てる。
(これだけ怒ってたら、ネックレスは返してくれそうもないわねー。転売したかったのに)
フーフーと激しく怒る夫人のほうがよっぽど猫みたいだと思いつつ、ブリギッドはペコリと頭を下げた。
ガヴァネスは教育できるだけの躾を受けてきた出自の者に限られる。そのため、給金を受ける身でありながら、もともとは貴族の令嬢などが多い。雇い主より身分が高いこともある。
成り上がりの市民からしてみれば、高嶺の花だった身分の女が自分の手元にいるのである。憐憫と支配欲が彼らを刺激し、屋敷の主人が金や本妻の座をちらつかせて色目を使ってくることも多い。
ブリギッドがクビを言い渡されているのも、雇い主のカットが妻に隠れて色目を使ったせいで、カット夫人の逆鱗に触れたのだ。
(それにしたって、親の醜態を子どもに見せたら害になるとは思わないのかしらね?)
チラリと二階の窓を見ると、先ほどまで授業を受けていたカット家の娘がおびえながら様子を窺っていた。頭に生えた猫耳がヘンニャリと後ろに倒れている。
この子に猫耳が生えているのには理由がある。ここギムレン王国の子どもは十二歳になるまでは、獣人の特性――獣の耳や尻尾、獣性と呼ばれる種別の本能――を残しているのだ。肉食系の獣人の場合、暴力性などの獣性を持つ。
そんな獣人の名残を失くすために、十二歳になると教会で成人秘蹟を受ける。
国の認めた教会で神に奉納品を捧げ、司祭に神聖力――神に仕える者が持つ、人々に癒しを与える聖なる力――で清めてもらい、人として生きることを誓うのだ。一般的に成人秘蹟を受けると、獣の証である耳や尾、翼などが消え、性格的にも獣性が弱まり理性的になる。
そうして獣性を失って初めて、一人前の国民として認められる。
「ちょっと、話を聞いているの!? 子どもが懐いてるからって正妻の座を狙ってたのね!! ガヴァネスのくせに令嬢らしいことは一切できず、勉強しか能がないくせに!! クビよ! クビ!!」
カット夫人が怒り続ける様子に、ブリギッドは肩をすくめてため息をつく。大人の醜い争いを子どもに見せるのは酷だと思った。
「承知いたしました」
正直ブリギッドも辟易していたのだ。
隙あらば二の腕を掴む振りをして胸に触ってくる馴れ馴れしい主人と、それに苛立ち家庭教師以外の仕事を押しつけていじめてくる夫人やメイドに。
「今日までのお給金をいただければ、二度とお屋敷には顔を出しません」
(あなたのお子さんの受験はどうなるか知らないけれど)
子どもには気の毒だと思いつつ、ブリギッドは言った。
その言葉を聞いてカット夫人は乱暴に紙幣を投げつけると、荒々しくドアを閉めたのだった。
「お金に罪はないのに……」
ブリギッドは小さく肩をすくめてから、お金を拾う。
屋敷の窓からメイドたちが「惨めな守銭奴没落令嬢ブリギッド」と笑う声が聞こえてくる。
ブリギッドは彼女たちを一瞥すると、歩き出した。
(とはいえ、証拠の手紙はほかにもあるのよね。少しお休みをしてから、それを紹介所へ提出しよう。いくらになるのかなっ! 臨時ボーナスで推しに課金できるわ)
そう思いながら、ブリギッドはルンルンと孤児院に向かっていた。そこには彼女の生きがいがいるのだ。
――説明が遅れたが、ブリギッド・グリンブルスティは、転生者だ。
彼女は生まれ変わる前、三十代の独身女性だった。小学校の教員をしていたが、残念ながら過労死した。そんな前世で愛読していたWeb小説の中に転生したと気がついたのは、つい最近のこと。
一年ほど前、初夏の熱をはらむ真っ赤な夕焼けの中、ブリギッドは重い足取りで歩いていた。
ガヴァネスとして働き出して八年。未来に希望を持てず、疲れ果てていた。
(お母様のことを考えれば、妾になったほうがいいのかしら……。そうすれば時間ができるし、家事も介護もできるわ。うまくすれば副業も。でも、お母様は悲しむでしょうね。かといって、私を本妻に迎えてくれるお金持ちはいないでしょうし……)
将来を考えれば考えるほど、暗澹たる気持ちになってくる。
人生が変わったのは八年前。王宮騎士団の副団長だった父が仕事を辞めて、行方不明になってからだ。
収入は激減して、デビュタントはできず、学費を払うのも難しくなった。
中等部卒業の際、教師が奨学生として高等部への進学を勧めてくれたが、病弱な母と幼い弟を養うために、ガヴァネスとして働くことを決めた。
しかし、身分差が激しく女が働くことに懐疑的なこの世界で、世間の風当たりは強い。結婚は無理でも、楽ができると妾になることを持ちかけてくる人もいた。
心にもなく女を売り物にしようかと悩んだこともあった。しかし、妾になれば家族も謗られるだろう。日陰者として肩身の狭い思いで生きていくのはどうしても嫌だった。
だが、家族を養っていけるのか自信を喪失しつつもあった。ガヴァネスというだけで、雇用主の妻に敵視され、メイドとグルになりいじめられる。家族のためとはいえ、こんな日々がずっと続くかと思うとやるせない。
(……ただ生きるために働き、生きるために食べ……って、そんなの生きてる意味あるのかしら)
そう思うとため息が零れてしまう。
そんなとき、小さな歌声が聞こえてきた。
小鳥のさえずりのような愛らしい声だ。その小さな小さな声はブリギッド以外には届かないのか、道行く人は誰も気にしない。
ブリギッドは耳を澄ませた。控えめな歌声は、どうやら隠れて歌っているようだった。
あまりに可愛らしい声に、ブリギッドは肩の力がストンと抜け、思わず頬が綻んだ。そして、歌声に導かれるように足取り軽く歩き出した。
着いた先は、うらぶれた孤児院だった。
壊れた壁の隙間からこっそりと覗くと、大きな木の根元で、小さな男の子が膝を抱えて座り込んでいた。
月光を編んだような銀色の髪に、同じ色の三角の耳が見え隠れしている。それは、サモエドの子犬のような可愛らしさで、あまりのいとけない様子に目が釘付けになった。
小さな男の子は膝に顔をグリグリとなすりつけてから、頭を上げた。
泣いていたのだろうか。目のあたりが赤い。ゆっくり開かれた瞼の下には、空を写し取ったような青色の瞳が潤んで輝いている。あかね色の空気が男の子を切なく染める。
男の子がブリギッドに気がつく様子はなく、歌い出す。
(聞き慣れた歌詞なのに、個性的な音程。きっと、歌が下手な人が教えたのね)
男の子が音痴なのではない。音程が外れてしまう人と、外して歌う人では歌い方が違うからだ。ブリギッドも父親が音痴で、そのとおりに歌を覚えてしまい、メロディを間違えて歌っていたからわかる。
思わず一緒に歌い出した。男の子の歌声と絡まり合い、小鳥たちのさえずりが加わり、気持ちのいい風が吹いてくる。
一曲歌い終わったとき、木の葉がパラリと男の子の頭に落ちた。
すると、男の子は我に返ったようで警戒して立ち上がり、ギュッと唇を引き結ぶ。ピンと耳を立てると、ジッと壁を見つめる。尻尾はクルリと足のあいだに挟まっていた。
(見つかった!)
そう思ったと同時に、壁の穴ごしに目と目が合った。
男の子はブリギッドの存在を確認すると、力強く睨む。
ブリギッドは驚いて、壁から身を離した。
(こんな瞳、子どもの目じゃない……こんなあまりに凶悪な目ができるのは……)
その瞬間、頭の中を前世の記憶が駆け抜けた。
液晶画面上に横並びに連なった文字。稚拙ではあるが、目の離せない展開。大好きだったWeb小説の内容だ。
子どもだけに向き合っていたいのに、モンスターペアレントからのクレームや職員室でくり広げられる陰湿な政治戦に消耗して、残業で疲れ果てた彼女の唯一の救いが、隙間時間で読めるWeb小説だった。
その中でも最大の推し、悪役のニーシャに男の子はよく似ていた。
(銀の髪、青い瞳、そして孤児院……。もしかして、ニーシャきゅん? この世界はWeb小説の中だったの!?)
そう考えると心当たりはいっぱいある。
(たしかに、国の名前も街の名前も一緒。そして、この孤児院の名前もニーシャきゅんの出身孤児院と同じ!)
そして、指折り数えてみる。
(今年の年号から逆算すれば、Web小説のニーシャきゅんは今、六歳くらいのはず……。あの子は少し小さいけれど、同じくらいにも見える。ああ、そうだ! ニーシャきゅんは子どものころ、体が小さかった設定よ。孤児で栄養不足だったって……)
さらに、記憶を辿っていく。
(ニーシャきゅんは寂しいとき、この子守歌を歌ってた! 間違いない! ここはWeb小説の中。そして、あの子はニーシャきゅん!!)
ブリギッドはビタッと壁の穴に顔をくっつけた。ニーシャはもう孤児院の中に逃げ込んでしまっている。
端から見れば完全に不審者だが、ブリギッドは自分の思考に呑み込まれていた。
(ニーシャきゅんは悪役だったけど、それは彼のせいじゃない。不遇な幼少期が彼を追いつめただけで、彼だって被害者よ)
Web小説の中のニーシャは貧しい孤児院で、愛を知らずに育つ。そして、闇に落ちていく。成人秘蹟で抑えきれなかった獣性を抱えた彼は愛を求め、むやみな暴力をふるうのだ。
カリスマ性のあった彼は、成人秘蹟を受けられず社会からはみ出していた者や流浪の民を集め、犯罪組織の長になる。
最終的に〝狂犬〟と呼ばれるようになったニーシャは、小説の主人公である大聖堂の若き司教に殺される運命にあるのだ。
(……え!? もしかして、今ならニーシャきゅんの未来を変えられる? 私がニーシャきゅんを幸せにできるのでは!?)
ブリギッドは目の前がパァッと明るくなるのを感じた。そして、思わずガッツポーズする。
(そうよ、そうだわ!! 私の今までの苦労はきっとニーシャきゅんに出会うための試練だったんだわ!)
『待っててね! 絶対幸せにするからね!!』
決意を口にした瞬間、肩をポンポンと叩かれる。不思議に思い振り向くと、そこには孤児院の院長がいた。
『君、そこで何をしている?』
『っ! いえ、私は怪しい者では……』
孤児院の壁の穴から覗きこむ不審な女をニーシャが通報したのだろう。しどろもどろに答えながら、孤児院の壁に背中を貼りつけるが、どう見ても怪しさ満点だ。
『素敵な歌声が聞こえてきて……それで、あの~できれば孤児院のお手伝いができたらなって……』
『はぁ……。うれしい申し出ではあるのですが、身元が不確かな方はねぇ。子どもに何かあってはいけないし……』
見定めるかのように、孤児院の院長は胡乱な目を向けてくる。
『わ、私、ガヴァネスをしているので、子どもたちに勉強を教えることができます!』
『ガヴァネス?』
『はい、ガヴァネスのブリギッド・グリンブルスティです。身元は紹介所に問い合わせていただければと思います』
『ガヴァネスのブリギッド様!? あの、合格請負人といわれる? そんな方がどうして、孤児に』
『ここの孤児たちに可能性を感じたのです!』
もっともらしい顔つきで、ブリギッドは答えた。
完全にはったりである。モンスターペアレントと駆け引きするために磨かれた技術だ。不安そうで自信がない教師は舐められる。しかも若い女となればなおさらだ。
『孤児に可能性……ですか……?』
『はい! 彼らには無限の可能性があります!』
これは本心だった。とりあえず自分の小遣いを紙に包んで院長に手渡す。
『まずは少しばかりですが寄付を。申し訳ないのですが、我が家はあまり裕福ではなく……。かわりに無償ボランティアとして協力できたらうれしいのですが』
ブリギッドが伺いを立てると、院長はうれしそうにうなずいてくれた。
『ブリギッド様の指導を受けられるなんて、お金には換えられません! ぜひ、お時間があるときでかまいませんので、遊びに来てください!』
『喜んでお手伝いいたします!』
手のひらを返したように喜ぶ院長に、ブリギッドは内心ほくそ笑む。
(これで、ニーシャきゅんを幸せにできるわ。まずは孤児院を少しでも暮らしやすくしなきゃ!)
顔を上げると、赤い夕日は紫に色を変えていた。細い月がナイフのように輝いている。
『まるで、ニーシャきゅんみたいな月ね』
その月はブリギッドの生きがいを示してくれているようだ。
彩りのなかった世界が、ニーシャの存在で輝きだす。白月の横で一番星が瞬いていた。
そんな出会いを思い出し、ブリギッドはホッコリとした気持ちになった。それ以来、せっせと孤児院にボランティアや寄付をおこない、ニーシャの周辺環境を整えている。
「あーあー! それにしてもあのネックレスは惜しかったわね。転売すればお金になったのに」
思わず歯がみする。〝守銭奴〟と呼ばれながらもお金を稼ぐのは、第一は家のためで、第二は孤児院にいる推しのためだ。
ニーシャの暮らす孤児院は町の有志たちが運営しているため、国からの支援はなく寄付金頼りで、いつも経営は苦しい。ブリギッド自身も金銭的な余裕はなく、充分な寄付ができないため、どうにか資金を集められないかとアイデアを絞り協力していた。
「でも、違約金は確実に入るはず。……もしかしてそのお金が入ったら、ニーシャきゅんのお母さんになれるかも!? 引き取れるか確認してみよう。そしてちゃんとした成人秘蹟を受けさせてあげるのよ!」
ブリギッドは気合を入れる。
「さーて、お賃金持って、ニーシャきゅんに会いに行こう!」
そして、推しの住む孤児院に向かってスキップする。
今から月に一度のチャリティーコンサートがあるのだ。
これは前世の知識を生かし、孤児院に提案したものである。コンサート自体は無料で、誰でも参加しやすいようにして、グッズ販売や募金によって孤児院の経営を助けることにした。
結果、金銭面の足しになるだけではなく、孤児と養父母を繋ぐイベントにもなっていた。
可愛らしい子どもたちが歌を歌い、演劇や演奏する姿を見せることで認知度が上がり、社会的な問題として注目を集めるようになったのだ。
(孤児だったニーシャが愛を知らずに闇落ちしてしまうなら、幼少期に愛を注いでくれる養父母に出会えるチャンスを作ればいいのよ)
本当は自分が継母になりたいが、なれない可能性もある。貧乏な自分より、もっといい環境が整えられる人が現れるならそのほうがよい。
そんなことを考えながら孤児院に着くと、まずグッズ販売で推し色のウチワを買った。もちろんすでにすべて持っているが、少しでも孤児院の売上になればよいと毎回購入しているのだ。
白いウチワには、青い文字で『こっち見て!』と書いてある。
こうしたグッズに関するアイデアもブリギッドのものだ。ウチワのほかにもショッピングバッグや、ぬいぐるみなども販売している。子どもたちとボランティアが作るグッズは好評で、最近は売り切れが続出していた。
孤児院の中庭へ進むと、簡単に作られた野外ステージの上にブリギッドの推し、ニーシャがいた。
迷子になった子犬のようにプルプルと震えながら、あたりを見回している。耳も尻尾も垂れ下がり、怖がっているようだ。
(この子が将来、王国を揺るがす狂犬になるなんて信じられない)
遅れてやってきたブリギッドは最後列でウチワを振るが、目の前には黒髪で背が高い男が立っていて見えづらい。
「もう! 壁男のせいでニーシャきゅんが見えないじゃない!!」
思わず憤慨すると、前の男が振り向いてブリギッドを見た。そして、ウチワを見て不思議そうな顔をしてから、スッと脇に避ける。
「……あ、ありがとうございます」
ブリギッドは少々の気まずさを覚えながらも礼を言い、ニーシャに向かって大きな声をかける。
「ニーシャきゅーん! こっち見て!!」
その声はちゃんと届いたようで、ニーシャがブリギッドのほうを見た。
その途端オドオドとしていた瞳がキラキラと瞬きだす。耳はピンと立ち上がり、尻尾はブンブンと揺れている。喜んでいるのが、誰から見てもわかるほどだ。
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