138 / 205
第三章
最終話
しおりを挟む
黒い影が森から飛び出し、目にも止まらぬパドラマドラに襲い掛かる。
パドラマドラの頭部目掛けて鋭い飛び蹴りが繰り出され、彼女は上半身を反らして紙一重で回避する。
外れた蹴り足は崖を砕き、「襲撃者」はそれで出来た凹みに足を掛けて一瞬バランスを取ると、崖を蹴って再びパドラマドラに接近し、空中から二連続の回し蹴りを見舞う。
パドラマドラは一撃目は回避したが、二発目は間に合わず右腕で防御する。しかし衝撃を殺しきれず横に吹き飛んでいく。
彼女は吹き飛ぶ勢いを利用して一回転し、ふわりと着地する。だがその余裕気な振る舞いと異なり、右腕は腫れ上がり、表情は必死だった。
「キミは何者…? 『遊び』の邪魔をするなんて許されないんだけど?」
「グルルルル…」
「襲撃者」は静かに佇み、両腕に力を込めながら唸り声を上げていた。
その姿を見ているうちに私はハッとした。
全身に生えた紫色の体毛、長い尻尾、手足に生えた鋭い爪、狼に似た顔立ち…
角がなく、身体の大きさが私達とあまり変わらないところ以外、まさに本で読んだ「魔王」の容貌そのものだったのだ。
「小さな魔王」はひとしきり睨みつけた後、地面を力強く蹴って走り出した。
パドラマドラは瞬時に迎撃体勢を取り、両者による至近距離での超高速徒手格闘戦が展開された。
拳と拳、足と足が幾度となく交差し、その中でパドラマドラは「魔王」の放った爪による斬撃をもう使い物にならないかと思われた右腕で受けると、そのまま「氷面流し」で流して無効化した。それが起点となり、全体重と魔力を乗せたパドラマドラの渾身の横蹴りが「魔王」のみぞおちにクリーンヒットする。
「魔王」は吹き飛んで背中から木に直撃し、苦し気に吐血した。
その様子を見ていて、何故だか少し胸が苦しくなった。正体は定かではないが、私の代わりに敵に立ち向かう「魔王」を、無意識の内に応援していたのかもしれない。
「はあ…はあ…」
荒い息をしながらも「小さな魔王」は立ち上がる。
「…ずっと休んでればいいのに。こっちだって疲れてるから、キミとは本気でやりたくないの」
パドラマドラは何かしらの魔法発動の準備をしながら言った。
だがそんなことも意に介さず、「魔王」は再度敵に近づき、目を狙って引っ搔いた。
その刹那、絶妙なタイミングで地面が盛り上がり、攻撃は空を切る。
さらにそのまま地面が両足を取り込み、不安定な姿勢のままで「魔王」を拘束する。
「これで終わり」
パドラマドラは「魔王」の顎を肘で撃ち抜いた。
嚙み切られた舌先が血液と共に地面に落ちる。
「魔王」は遂に沈黙した。
地面が元の形に戻され、「魔王」は力なく地面に倒れた。
パドラマドラは骨折した右腕を気にしながら私の方に近付いて来る。
「さて、よく分からない邪魔も入ったけど、そろそろクリムビークも来る。一緒に楽しみましょ」
その時、パドラマドラの脇腹が大きく斬れ、血潮が吹き出す。
見ると、「魔王」の目が閉じられ、左腕が力なく落ちる。
パドラマドラは傷を抑えて膝をつき、激しく狼狽した。
「ヤバい! 死ぬ! 死ぬ!」
そのうち地面が大きく揺れ、風が強く吹いたかと思うと、先程の巨大な「赤い鷹」が地面に降り立った。
「クリム! 早く飛んで!」
敵は慌ててその背中に乗り、私を拷問して遊ぶことなど忘れて飛び去っていってしまった。
意識が遠くなっていくーー
「これは中々ヤベー麻痺毒だ。薬を使って一時的に良くはなるが、完治には時間がかかるぜ」
誰かが私を見下ろしながら言っているのが聞こえた。
私がその姿を見ようと首を回すと、彼は目を丸くした
「おいマギク! このガキんちょ、『伯爵殺し』じゃねえか!?」
「何だって?」
もう二人がやって来る。
黒ローブを被った方が何やら取り出して確認し、「間違いない」と呟いた。
「帯刀、魔力の痕跡、そしてこの顔と髪色…」
「どうする、首を刎ねちまうか」
「いや…」
黒ローブは首を横に振った。
「それを決定するのは王であって僕らではないからね。それにもし万が一、人違いだったら洒落にならない。…『伯爵殺し』グレア、僕たち『夜明けの旅団』は君を拘束する」
パドラマドラの頭部目掛けて鋭い飛び蹴りが繰り出され、彼女は上半身を反らして紙一重で回避する。
外れた蹴り足は崖を砕き、「襲撃者」はそれで出来た凹みに足を掛けて一瞬バランスを取ると、崖を蹴って再びパドラマドラに接近し、空中から二連続の回し蹴りを見舞う。
パドラマドラは一撃目は回避したが、二発目は間に合わず右腕で防御する。しかし衝撃を殺しきれず横に吹き飛んでいく。
彼女は吹き飛ぶ勢いを利用して一回転し、ふわりと着地する。だがその余裕気な振る舞いと異なり、右腕は腫れ上がり、表情は必死だった。
「キミは何者…? 『遊び』の邪魔をするなんて許されないんだけど?」
「グルルルル…」
「襲撃者」は静かに佇み、両腕に力を込めながら唸り声を上げていた。
その姿を見ているうちに私はハッとした。
全身に生えた紫色の体毛、長い尻尾、手足に生えた鋭い爪、狼に似た顔立ち…
角がなく、身体の大きさが私達とあまり変わらないところ以外、まさに本で読んだ「魔王」の容貌そのものだったのだ。
「小さな魔王」はひとしきり睨みつけた後、地面を力強く蹴って走り出した。
パドラマドラは瞬時に迎撃体勢を取り、両者による至近距離での超高速徒手格闘戦が展開された。
拳と拳、足と足が幾度となく交差し、その中でパドラマドラは「魔王」の放った爪による斬撃をもう使い物にならないかと思われた右腕で受けると、そのまま「氷面流し」で流して無効化した。それが起点となり、全体重と魔力を乗せたパドラマドラの渾身の横蹴りが「魔王」のみぞおちにクリーンヒットする。
「魔王」は吹き飛んで背中から木に直撃し、苦し気に吐血した。
その様子を見ていて、何故だか少し胸が苦しくなった。正体は定かではないが、私の代わりに敵に立ち向かう「魔王」を、無意識の内に応援していたのかもしれない。
「はあ…はあ…」
荒い息をしながらも「小さな魔王」は立ち上がる。
「…ずっと休んでればいいのに。こっちだって疲れてるから、キミとは本気でやりたくないの」
パドラマドラは何かしらの魔法発動の準備をしながら言った。
だがそんなことも意に介さず、「魔王」は再度敵に近づき、目を狙って引っ搔いた。
その刹那、絶妙なタイミングで地面が盛り上がり、攻撃は空を切る。
さらにそのまま地面が両足を取り込み、不安定な姿勢のままで「魔王」を拘束する。
「これで終わり」
パドラマドラは「魔王」の顎を肘で撃ち抜いた。
嚙み切られた舌先が血液と共に地面に落ちる。
「魔王」は遂に沈黙した。
地面が元の形に戻され、「魔王」は力なく地面に倒れた。
パドラマドラは骨折した右腕を気にしながら私の方に近付いて来る。
「さて、よく分からない邪魔も入ったけど、そろそろクリムビークも来る。一緒に楽しみましょ」
その時、パドラマドラの脇腹が大きく斬れ、血潮が吹き出す。
見ると、「魔王」の目が閉じられ、左腕が力なく落ちる。
パドラマドラは傷を抑えて膝をつき、激しく狼狽した。
「ヤバい! 死ぬ! 死ぬ!」
そのうち地面が大きく揺れ、風が強く吹いたかと思うと、先程の巨大な「赤い鷹」が地面に降り立った。
「クリム! 早く飛んで!」
敵は慌ててその背中に乗り、私を拷問して遊ぶことなど忘れて飛び去っていってしまった。
意識が遠くなっていくーー
「これは中々ヤベー麻痺毒だ。薬を使って一時的に良くはなるが、完治には時間がかかるぜ」
誰かが私を見下ろしながら言っているのが聞こえた。
私がその姿を見ようと首を回すと、彼は目を丸くした
「おいマギク! このガキんちょ、『伯爵殺し』じゃねえか!?」
「何だって?」
もう二人がやって来る。
黒ローブを被った方が何やら取り出して確認し、「間違いない」と呟いた。
「帯刀、魔力の痕跡、そしてこの顔と髪色…」
「どうする、首を刎ねちまうか」
「いや…」
黒ローブは首を横に振った。
「それを決定するのは王であって僕らではないからね。それにもし万が一、人違いだったら洒落にならない。…『伯爵殺し』グレア、僕たち『夜明けの旅団』は君を拘束する」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる