132 / 155
第三章
第二十六話
しおりを挟む
敵が追い掛けてくる。
今までと同じように「駿馬」を使いながら逃げているが、傷薬を塗ったとはいえ片足に痛手を負っていることで速度は下がっている。
走り出してわずか数分で追い付かれた。
先程やったのと同様に方向転換してみるが、今度は敵がそれに合わせて前足を振り回してきた。
前足からは白い棘のようなものが大きく飛び出している。
スパイクウルフの背中から生えていたのと同じものだ。
私は剣でそれを受けるが、斬撃は直撃せずとも、腕力によって大きく弾き飛ばされ、そのまま近くの木に背中から突っ込んでいった。
咄嗟に「風射」を後方に出して衝撃を緩和すると、この状況を利用し、後方への「風射」連発で空中を飛び、敵の真上に到達した。
背中にあるいくつもの眼球がこちらを監視している。
私が左手に魔力を溜め始めると、背中からバレットマウスが分離し、背中の上を素早く走って助走をつけ、そのまま私の方へ飛んできた。
私は空中で剣を振って撃ち落としたが、潜り抜けてきた一匹が腰から脇腹を切り裂いていった。
かなりの激痛。しかし、痛みで目的を忘れてはいけない。
急いで「光槍」を真下に放った…つもりだったが、鼠に対応している間に想定以上に移動してしまっていたようで、脇腹を掠めただけに終わった。
それでも敵は苦し気に唸り、他の部位の生き物たちで埋め合わせて傷を「修復」する為、一瞬動きを止めた。
私は「風射」によって安全に着地し、敵の動き出すタイミングに合わせて足元に「凍棘」を出現させ、突き刺して拘束した後、関節に「穹砲」を三発お見舞いした。
関節は折れ、千切れ、敵はバランスを崩して地面に倒れた。
さらに地面から「深淵刀」を数本出現させ、敵の身体をバラバラに寸断した。
直後、攻撃に夢中になっていた私の足に再度激痛が走る。
「ぐあっ…」
私は立っていられなくなり、膝から崩れた。
両足の足首やふくらはぎ、脛に合計十数匹のバレットマウスが突き刺さっていた。
だがこれで最後だ。踏ん張れ。
私は頭上に魔力を込めた。
大きな火球が形成されていく。
「これでも…喰らえ」
私が手を振り下ろすと、「大火球」が敵に飛んでいき、その身体を焼き尽くす。
爆風が辺りの木々を震わせた。
「ふう」
一呼吸おいて見ると、敵はもはや跡形もなく、引火した雑草が静かに燃えていた。
そのうち炎は広がっていき、いずれこの森を燃やすかもしれない。
もしそうなれば、それは犠牲になった全ての野生生物たちとトロールたちに捧げる炎だ。
「グレ・セーズ」
「亜人語」でそう告げた後、黙祷を捧げた。
あれから、足の鼠を引き抜き、「のこぎりの草」の傷薬で応急処置をしたものの、やはり満足に歩くことは出来ず、ほとんど這う様にしてデザ村まで戻ってきた。
壊れた家屋にもたれかかり、一息つく。
「はあ」
思い返せば、キアは死んでしまったのだ。それに、他の私に良くしてくれたトロールの人たちも。
視界が滲む。
落ち着いてようやく現実が受け止められてきた。
ひとしきり泣いた後、私は眠くなり、家屋の影で仮眠を取ることにした。
しかし、目の前で物音がして目が覚めた。
その瞬間、私は絶望で吐きそうになった。
あの「大きな狼」が私を面白そうに見下ろしていた。
口が大きく開き、唾液が顔面に滴る。
私は死を覚悟し、目をつむった。
その時、敵は木々をなぎ倒しながら大きく吹き飛び、地面に倒れた。
その腹からは煙が立ち上っていた。
「もう大丈夫だ」
夜明けの空を背景に四人の戦士が舞い降りた。
今までと同じように「駿馬」を使いながら逃げているが、傷薬を塗ったとはいえ片足に痛手を負っていることで速度は下がっている。
走り出してわずか数分で追い付かれた。
先程やったのと同様に方向転換してみるが、今度は敵がそれに合わせて前足を振り回してきた。
前足からは白い棘のようなものが大きく飛び出している。
スパイクウルフの背中から生えていたのと同じものだ。
私は剣でそれを受けるが、斬撃は直撃せずとも、腕力によって大きく弾き飛ばされ、そのまま近くの木に背中から突っ込んでいった。
咄嗟に「風射」を後方に出して衝撃を緩和すると、この状況を利用し、後方への「風射」連発で空中を飛び、敵の真上に到達した。
背中にあるいくつもの眼球がこちらを監視している。
私が左手に魔力を溜め始めると、背中からバレットマウスが分離し、背中の上を素早く走って助走をつけ、そのまま私の方へ飛んできた。
私は空中で剣を振って撃ち落としたが、潜り抜けてきた一匹が腰から脇腹を切り裂いていった。
かなりの激痛。しかし、痛みで目的を忘れてはいけない。
急いで「光槍」を真下に放った…つもりだったが、鼠に対応している間に想定以上に移動してしまっていたようで、脇腹を掠めただけに終わった。
それでも敵は苦し気に唸り、他の部位の生き物たちで埋め合わせて傷を「修復」する為、一瞬動きを止めた。
私は「風射」によって安全に着地し、敵の動き出すタイミングに合わせて足元に「凍棘」を出現させ、突き刺して拘束した後、関節に「穹砲」を三発お見舞いした。
関節は折れ、千切れ、敵はバランスを崩して地面に倒れた。
さらに地面から「深淵刀」を数本出現させ、敵の身体をバラバラに寸断した。
直後、攻撃に夢中になっていた私の足に再度激痛が走る。
「ぐあっ…」
私は立っていられなくなり、膝から崩れた。
両足の足首やふくらはぎ、脛に合計十数匹のバレットマウスが突き刺さっていた。
だがこれで最後だ。踏ん張れ。
私は頭上に魔力を込めた。
大きな火球が形成されていく。
「これでも…喰らえ」
私が手を振り下ろすと、「大火球」が敵に飛んでいき、その身体を焼き尽くす。
爆風が辺りの木々を震わせた。
「ふう」
一呼吸おいて見ると、敵はもはや跡形もなく、引火した雑草が静かに燃えていた。
そのうち炎は広がっていき、いずれこの森を燃やすかもしれない。
もしそうなれば、それは犠牲になった全ての野生生物たちとトロールたちに捧げる炎だ。
「グレ・セーズ」
「亜人語」でそう告げた後、黙祷を捧げた。
あれから、足の鼠を引き抜き、「のこぎりの草」の傷薬で応急処置をしたものの、やはり満足に歩くことは出来ず、ほとんど這う様にしてデザ村まで戻ってきた。
壊れた家屋にもたれかかり、一息つく。
「はあ」
思い返せば、キアは死んでしまったのだ。それに、他の私に良くしてくれたトロールの人たちも。
視界が滲む。
落ち着いてようやく現実が受け止められてきた。
ひとしきり泣いた後、私は眠くなり、家屋の影で仮眠を取ることにした。
しかし、目の前で物音がして目が覚めた。
その瞬間、私は絶望で吐きそうになった。
あの「大きな狼」が私を面白そうに見下ろしていた。
口が大きく開き、唾液が顔面に滴る。
私は死を覚悟し、目をつむった。
その時、敵は木々をなぎ倒しながら大きく吹き飛び、地面に倒れた。
その腹からは煙が立ち上っていた。
「もう大丈夫だ」
夜明けの空を背景に四人の戦士が舞い降りた。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説


【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

忌むべき番
藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」
メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。
彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。
※ 8/4 誤字修正しました。
※ なろうにも投稿しています。
ナンパなんてしてないでクエスト行ってこい!
直哉 酒虎
ファンタジー
ある日異世界転生してしまった芹澤恵莉奈。
異世界にきたのでセリナと名前を変えて、大好きだったアニメやゲームのような異世界にテンションが上がる。
そして冒険者になろうとしたのだが、初めてのクエストで命の危機を感じてすぐ断念。
助けられた冒険者におすすめされ、冒険者協会の受付嬢になることを決意する。
受付嬢になって一年半、元の世界でのオタク知識が役に立ち、セリナは優秀な成績を収めるが毎日波乱万丈。
今日もクエストを受注に来た担当冒険者は一体何をやらかすのやら…

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる