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第三章
第二十四話
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「見なければよかった」と思う一方で、現在地が割り出せたのは喜ばしい。
城があんな惨状ではラーラたちの無事などあまり期待できないかもしれない。
だが認めたくない。諦めたくない。
「…よし」
私は城を目指すことにした。
ここが戦場だというなら、「デザ村」も近い筈だ。
あの周辺の環境や地理はキアとの冒険でよく把握している。このまま謎の森を突っ切るよりリスクは少ないだろう。
私は元来た道を戻り、村を目指した。
一時間ほど歩いただろうか、もうじき何かしら村に関係あるものが見えてくる頃だろう、と思っていると、どこからか声が聞こえた。
そちらを振り返ると、遠くで松明を手にした女性トロールが手を振っていた。
その姿はどことなくキアに似ているような気もする。
私が手を振り返すと、相手はこちらに近付いてきた。私も相手の方に向かう。
「無事だったのね、あなた、グレアさんでしょ?」
「はい。貴方は村の方ですか?」
「うん。デサ村の医者、ケレナよ。…キアの姉って言った方がいいかな」
キアのお姉さん…私はキアの言葉を思い出した。
「もしあの人が出てきたら、きっと槍が降るわ。そうじゃなくても、何か変わったことが起こる」
「ケレナさん、村に何が…?」
ケレナの表情が微かに強張る。
「…三時間ほど前のことだったわ、村に『大きな狼』、現れた。見たことのないほど大きな狼。その狼、家をいくつも壊して、五人の村人を食べたわ。みんな逃げ出して、どこに行ったか分からないの」
「…村には戻ってみましたか? もしかしたら生き残った人が戻ってきてるかも」
「一回戻ってみたわ。誰もいなかった。でも、戻ったのは一時間くらい前だから、今は分からないわね。行ってみたいわ」
私達は、ひとまず村を目指して歩き出した。
もう夜が近いようで、薄暗くなり、冷え込んで霧も出てきた。
「着いたわ」
見せられたのは、もはや見る影のなくなった村の姿だった。
酒場は潰され、村長の豪邸は壁が削られ、私とラーラが宿泊していた空き家は平たくなされている。
ふと歩いた足元に違和感を感じた。
「ん?」
「どうしたの?」
私の声に反応したケレナが近付き、彼女の持つ松明に地面の有様が照らしだされる。
血の気が引いた。
私が踏んだのは目玉だった。
辺りには血や肉片が飛び散り、崩された家屋にぶら下がっている。
原型を留めていないが、それは間違いなく村民だった。
「酷い…」
ケレナが震えながらそう呟いた。
私も同感だ。
実際に目にすると言葉に出来ない。
トロール達は強い。そのトロールをこれほどまで惨たらしく殺すことが出来る「大きな狼」とは何者なのだろうか。
城の方へ行きたいと伝えると、ケレナは頷き、村民探しも兼ねてついていくと言ってくれた。
しばらく東に向かって森を突っ切っていくが、不気味ながら、キアと行ったときはあんなに居たはずの魔物と何故か一切出会わない。
ケレナもそれを不思議に思っているようだった。
三十分ほど歩くと、遠くにトロールの影が見え、こちらに手を振ってきた。
私達は思わず顔を見合わせ、二人そろってそちらに駆け込んで行った。
近付いていくと、なんとそれがキアであることが分かった。
「姉ちゃん! グレアさん!」
「キアさん!」
「キア!」
三人が喜びを胸に駆け寄っていった。その時だった。
キアの後ろに大きな口が現れ、キアはその中に消えた。
地面に大弓の木片と切断された手が飛び散る。
松明の光で照らされたその姿は狼のように見えた。だが、その表面は凸凹としていた。
その正体に気付いた時、私は腰を抜かしそうになった。
この森に生息する数種類の魔物たち。それらが生きたまま溶け、融合して狼の姿を形成していた。
城があんな惨状ではラーラたちの無事などあまり期待できないかもしれない。
だが認めたくない。諦めたくない。
「…よし」
私は城を目指すことにした。
ここが戦場だというなら、「デザ村」も近い筈だ。
あの周辺の環境や地理はキアとの冒険でよく把握している。このまま謎の森を突っ切るよりリスクは少ないだろう。
私は元来た道を戻り、村を目指した。
一時間ほど歩いただろうか、もうじき何かしら村に関係あるものが見えてくる頃だろう、と思っていると、どこからか声が聞こえた。
そちらを振り返ると、遠くで松明を手にした女性トロールが手を振っていた。
その姿はどことなくキアに似ているような気もする。
私が手を振り返すと、相手はこちらに近付いてきた。私も相手の方に向かう。
「無事だったのね、あなた、グレアさんでしょ?」
「はい。貴方は村の方ですか?」
「うん。デサ村の医者、ケレナよ。…キアの姉って言った方がいいかな」
キアのお姉さん…私はキアの言葉を思い出した。
「もしあの人が出てきたら、きっと槍が降るわ。そうじゃなくても、何か変わったことが起こる」
「ケレナさん、村に何が…?」
ケレナの表情が微かに強張る。
「…三時間ほど前のことだったわ、村に『大きな狼』、現れた。見たことのないほど大きな狼。その狼、家をいくつも壊して、五人の村人を食べたわ。みんな逃げ出して、どこに行ったか分からないの」
「…村には戻ってみましたか? もしかしたら生き残った人が戻ってきてるかも」
「一回戻ってみたわ。誰もいなかった。でも、戻ったのは一時間くらい前だから、今は分からないわね。行ってみたいわ」
私達は、ひとまず村を目指して歩き出した。
もう夜が近いようで、薄暗くなり、冷え込んで霧も出てきた。
「着いたわ」
見せられたのは、もはや見る影のなくなった村の姿だった。
酒場は潰され、村長の豪邸は壁が削られ、私とラーラが宿泊していた空き家は平たくなされている。
ふと歩いた足元に違和感を感じた。
「ん?」
「どうしたの?」
私の声に反応したケレナが近付き、彼女の持つ松明に地面の有様が照らしだされる。
血の気が引いた。
私が踏んだのは目玉だった。
辺りには血や肉片が飛び散り、崩された家屋にぶら下がっている。
原型を留めていないが、それは間違いなく村民だった。
「酷い…」
ケレナが震えながらそう呟いた。
私も同感だ。
実際に目にすると言葉に出来ない。
トロール達は強い。そのトロールをこれほどまで惨たらしく殺すことが出来る「大きな狼」とは何者なのだろうか。
城の方へ行きたいと伝えると、ケレナは頷き、村民探しも兼ねてついていくと言ってくれた。
しばらく東に向かって森を突っ切っていくが、不気味ながら、キアと行ったときはあんなに居たはずの魔物と何故か一切出会わない。
ケレナもそれを不思議に思っているようだった。
三十分ほど歩くと、遠くにトロールの影が見え、こちらに手を振ってきた。
私達は思わず顔を見合わせ、二人そろってそちらに駆け込んで行った。
近付いていくと、なんとそれがキアであることが分かった。
「姉ちゃん! グレアさん!」
「キアさん!」
「キア!」
三人が喜びを胸に駆け寄っていった。その時だった。
キアの後ろに大きな口が現れ、キアはその中に消えた。
地面に大弓の木片と切断された手が飛び散る。
松明の光で照らされたその姿は狼のように見えた。だが、その表面は凸凹としていた。
その正体に気付いた時、私は腰を抜かしそうになった。
この森に生息する数種類の魔物たち。それらが生きたまま溶け、融合して狼の姿を形成していた。
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