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第三章
第十九話
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私達は河辺で一息ついてから、持ってきた干し肉を齧った。
「それにしても、ここまで長かったですね」
「そうね。足、疲れたでしょ? 久しぶりに長く運動したんだし」
「そうですね」
私は頷いた。正直かなり過酷な道だった。だが、一方で実戦を見据えたリハビリとしては十分に有効で、ありがたく思っているのも事実だ。
「でも良かったですよ」
「…そう」
私達は口数少なく、ゆったりと休憩していた。
そのうち、キアがおもむろに石を拾い上げ、川面に向かって軽快に投げた。
石は水面を何度か跳ねた後、勢いを失って沈んだ。
「おお! なんですか、それ?」
「水切り。やってみる?」
私はキアに教えてもらいながら水切りに挑戦した。そのうちコツを掴み、安定して複数回跳ねさせることが出来るようになった。
「どっちの方が多く跳ねさせられるか、競ってみませんか? 先に五回跳ねた方が勝ちで」
私が提案すると、キアは頷いた。
二人交互に投げていく。
まずは私から。
投げた石は水面を二回打って沈んだ。
「まだまだね」
今度はキアがそう言いながら投げる。
キアの石は四回跳ねた。
「すごいですね」
私もさらに一個投げる。今度は四回。
「よし! 見ましたか?」
「…負けないわ」
キアが一段と素早い動作で投げた石は、先程よりも速く飛んだが、たったの二回しか跳ねなかった。
「あれ?」
「この勝負、もらいました」
私は得意顔で投げたが、一回跳ねたのみですぐ沈没。
「あちゃー」
その後、勝負はさらに続いたが、結局二人とも四回が限界で、引き分けということになった。
「楽しかったですね」
「そうね」
私達は河辺に寝転がりながら笑い、その後静かになった。
「トロールの方と、まさかこんなに仲良くなるとは思っていませんでした」
私は思うままに話し始めた。
「私、本当はトロールが怖かったんです。私はジャサー地方の山奥の村の出身なんですが、村に現れたトロールと一人で戦うことになって、斧が当たったり転んだりして沢山怪我したし、好きだった男の子に間違って魔法を当ててしまって…。その結果、人殺しとして村を追われることになったんです」
「そう…。…大変だったわね」
キアは静かに目を閉じながら、ゆっくりとそう言った。
「…あなたの話に比べたら、ずっと些細なことよ」
しばらくして、キアは穏やかな口調で話し始めた。
「私も、昔は人間が怖かった。もう死んでしまったけど、私の父、人間から買った酒が大好きだった。よく飲んで酔って、まだ小さかった私と姉を殴った。でも医者だから、傷が目立たないようにするの。私、人間は悪い物を運んで来て、それでお金稼いでる怖い人たちだと思ってた。それに、人間とトロールの間の子供は『忌み子』だから」
「『いみご』?」
言葉の意味が気になって聞き返した。
「人間とトロール、『血』が違うの。だから、その間に産まれる子供、身体がおかしかったり、気が違っていて変なことをしたりするの。それで、親も子も不幸になる。村全体が不幸になることもある。だから、昔から不吉の象徴として避けられてるの。…私が小さかった頃、同じくらいの歳の『忌み子』が居たの。今の私はその子が本当は『不吉』じゃないのを知ってる。でも、その子が避けられたり、いじめられているのを見て、子供の私、『不吉』なのは本当のことだと思ったの」
「なるほど…」
詳しいことは分からないが、種族が違うと子供が上手く作れないことがあり、その子供は障害を持って産まれることがある。それが村に損害をもたらすということが多くあった為、半トロールは不吉だということにして、人間とトロールの夫婦の子作りを牽制しつつ、産まれてきた子と村民が接触しないようにもした。
だが、例外も居たと考えるのが自然ではないだろうか。
心身ともに健常な子供も、障害を持ちながらも他人を傷つけることのなかった子供も、「不吉」という一単語の下に問答無用で有害なものとして押しつぶされたのではないか。…例外だろうが、そうでなかろうが、存在しているだけで忌避されて虐げられた「忌み子」の気持ちを想像すれば心が痛い。
「…さっき村にトロールが現れたって言ってたけど」
考えごとをしていた私に、キアが話し掛けてくる。
しかし、
「それは…いや、なんでもない」
と、少し気まずそうな様子で口籠った。
その後、私達は元来た道を辿り、村に戻った。
その時、重大な情報を耳にした。
クリロン地方からの軍勢は、一週間以内にジャサー城に到着するだろう、ということだ。
ラーラはまだ眠ったままで、残念ながら目覚める気配は微塵も感じられない。だが、行かねばならない。
私は明日のジャサー城訪問に向けて、荷造りをした。
「それにしても、ここまで長かったですね」
「そうね。足、疲れたでしょ? 久しぶりに長く運動したんだし」
「そうですね」
私は頷いた。正直かなり過酷な道だった。だが、一方で実戦を見据えたリハビリとしては十分に有効で、ありがたく思っているのも事実だ。
「でも良かったですよ」
「…そう」
私達は口数少なく、ゆったりと休憩していた。
そのうち、キアがおもむろに石を拾い上げ、川面に向かって軽快に投げた。
石は水面を何度か跳ねた後、勢いを失って沈んだ。
「おお! なんですか、それ?」
「水切り。やってみる?」
私はキアに教えてもらいながら水切りに挑戦した。そのうちコツを掴み、安定して複数回跳ねさせることが出来るようになった。
「どっちの方が多く跳ねさせられるか、競ってみませんか? 先に五回跳ねた方が勝ちで」
私が提案すると、キアは頷いた。
二人交互に投げていく。
まずは私から。
投げた石は水面を二回打って沈んだ。
「まだまだね」
今度はキアがそう言いながら投げる。
キアの石は四回跳ねた。
「すごいですね」
私もさらに一個投げる。今度は四回。
「よし! 見ましたか?」
「…負けないわ」
キアが一段と素早い動作で投げた石は、先程よりも速く飛んだが、たったの二回しか跳ねなかった。
「あれ?」
「この勝負、もらいました」
私は得意顔で投げたが、一回跳ねたのみですぐ沈没。
「あちゃー」
その後、勝負はさらに続いたが、結局二人とも四回が限界で、引き分けということになった。
「楽しかったですね」
「そうね」
私達は河辺に寝転がりながら笑い、その後静かになった。
「トロールの方と、まさかこんなに仲良くなるとは思っていませんでした」
私は思うままに話し始めた。
「私、本当はトロールが怖かったんです。私はジャサー地方の山奥の村の出身なんですが、村に現れたトロールと一人で戦うことになって、斧が当たったり転んだりして沢山怪我したし、好きだった男の子に間違って魔法を当ててしまって…。その結果、人殺しとして村を追われることになったんです」
「そう…。…大変だったわね」
キアは静かに目を閉じながら、ゆっくりとそう言った。
「…あなたの話に比べたら、ずっと些細なことよ」
しばらくして、キアは穏やかな口調で話し始めた。
「私も、昔は人間が怖かった。もう死んでしまったけど、私の父、人間から買った酒が大好きだった。よく飲んで酔って、まだ小さかった私と姉を殴った。でも医者だから、傷が目立たないようにするの。私、人間は悪い物を運んで来て、それでお金稼いでる怖い人たちだと思ってた。それに、人間とトロールの間の子供は『忌み子』だから」
「『いみご』?」
言葉の意味が気になって聞き返した。
「人間とトロール、『血』が違うの。だから、その間に産まれる子供、身体がおかしかったり、気が違っていて変なことをしたりするの。それで、親も子も不幸になる。村全体が不幸になることもある。だから、昔から不吉の象徴として避けられてるの。…私が小さかった頃、同じくらいの歳の『忌み子』が居たの。今の私はその子が本当は『不吉』じゃないのを知ってる。でも、その子が避けられたり、いじめられているのを見て、子供の私、『不吉』なのは本当のことだと思ったの」
「なるほど…」
詳しいことは分からないが、種族が違うと子供が上手く作れないことがあり、その子供は障害を持って産まれることがある。それが村に損害をもたらすということが多くあった為、半トロールは不吉だということにして、人間とトロールの夫婦の子作りを牽制しつつ、産まれてきた子と村民が接触しないようにもした。
だが、例外も居たと考えるのが自然ではないだろうか。
心身ともに健常な子供も、障害を持ちながらも他人を傷つけることのなかった子供も、「不吉」という一単語の下に問答無用で有害なものとして押しつぶされたのではないか。…例外だろうが、そうでなかろうが、存在しているだけで忌避されて虐げられた「忌み子」の気持ちを想像すれば心が痛い。
「…さっき村にトロールが現れたって言ってたけど」
考えごとをしていた私に、キアが話し掛けてくる。
しかし、
「それは…いや、なんでもない」
と、少し気まずそうな様子で口籠った。
その後、私達は元来た道を辿り、村に戻った。
その時、重大な情報を耳にした。
クリロン地方からの軍勢は、一週間以内にジャサー城に到着するだろう、ということだ。
ラーラはまだ眠ったままで、残念ながら目覚める気配は微塵も感じられない。だが、行かねばならない。
私は明日のジャサー城訪問に向けて、荷造りをした。
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