118 / 159
第三章
第十三話
しおりを挟む
グレアは覚束ない足取りでラーラのすぐそばまでやって来ると、その場に倒れこんだ。
並んで仰向けになった二人。
「はは…」
「ははは…」
彼女らは静かに笑いあった。
「これからどうすればいいんでしょうね…」
グレアが呟く。
ラーラは胸部から腹部にかけて深手を負い、恐らく胃腸まで損傷が及んでいる。
グレアは魔力や体力を使い果たし、無理に身体を動かしたので、全身の筋繊維がずたずたに千切れている。さらには吐き気や脱水の症状。「接木」した左腕にも違和感がある。
唯一の移動手段で、かつ数少ない旅の癒しでもあった馬たちは今やそれとしての形を失い、旅の必需品でいっぱいだった鞄はパンケーキのようにぺしゃんこである。
「『魔王になる』とか息巻いていた連中が、こんな僻地で誰にも知られず野垂れ死ぬなんて、なんだか滑稽じゃありませんか?」
グレアがそう言うと、ラーラも
「しかも救いたい者誰一人助けられずに、掲げた目標は一つも果たせずに…」
と自嘲に参加した。
「はは…」
「ははは…」
「あはは!」
「あはははは!!」
二人は傷が痛むのも意に介さず、やけになって大笑いした。
しばらく笑い合ってから、二人は静かになった。
片方は力尽き、意識を失った。もう片方は流れる雲を眺めながらあれこれ考えていた。
(「責任は取らせてもらいます。必ず貴女を守りますから」)
そのうち、ラーラが覚悟を決めて身体を起こす。
そっとグレアの身体を抱え、地面の上に静かに寝かせた。
ラーラは立ち上がり、キリカの死体の方へ歩いて行った。
敵のネックレス、半日分の兵糧と短刀を拾い上げ、それで服の「魔麻布」をいくらか切り取った。
「さて、私も無理をしてみますかね」
グレアをおんぶして平野に立つと、彼女は遥か遠くを、地平線の彼方をじっと凝視した。
真っ白な世界の中を、一本の黒線がどこまでも伸びていく。
ここまではいつものイメージ。
だが、今回はその線は何倍にも太く膨らみ、遂に爆発して無限に伸び続ける。
キリカナム教団最終奥義:「神力」。
かつてグレアが「どんな不利状況でも逆転できる革命的な一手」とさえ評した最強の魔法。
あらゆる魔法における任意の要素を十倍にする。
今「影渡り」の要素:移動可能距離は十倍になった。
ラーラが一つ瞬きをしてから周辺を見渡すと、そこは見知らぬ森のすぐ脇だった。
口にくわえた「魔麻布」を吞み込んでから、彼女は再び「影渡り」した。
今度はどこか見慣れた景色。
さらに一枚呑み込んでから、彼女は再び「影渡り」した。
遠くに再建途中の城が見えた。
ラーラの表情が少し和らぐ。
次の瞬間、彼女は意識を失い、地面に倒れた。
約二時間後、地面の上に相重なって眠っている少女二人のもとに大きな人影が近付く。
並んで仰向けになった二人。
「はは…」
「ははは…」
彼女らは静かに笑いあった。
「これからどうすればいいんでしょうね…」
グレアが呟く。
ラーラは胸部から腹部にかけて深手を負い、恐らく胃腸まで損傷が及んでいる。
グレアは魔力や体力を使い果たし、無理に身体を動かしたので、全身の筋繊維がずたずたに千切れている。さらには吐き気や脱水の症状。「接木」した左腕にも違和感がある。
唯一の移動手段で、かつ数少ない旅の癒しでもあった馬たちは今やそれとしての形を失い、旅の必需品でいっぱいだった鞄はパンケーキのようにぺしゃんこである。
「『魔王になる』とか息巻いていた連中が、こんな僻地で誰にも知られず野垂れ死ぬなんて、なんだか滑稽じゃありませんか?」
グレアがそう言うと、ラーラも
「しかも救いたい者誰一人助けられずに、掲げた目標は一つも果たせずに…」
と自嘲に参加した。
「はは…」
「ははは…」
「あはは!」
「あはははは!!」
二人は傷が痛むのも意に介さず、やけになって大笑いした。
しばらく笑い合ってから、二人は静かになった。
片方は力尽き、意識を失った。もう片方は流れる雲を眺めながらあれこれ考えていた。
(「責任は取らせてもらいます。必ず貴女を守りますから」)
そのうち、ラーラが覚悟を決めて身体を起こす。
そっとグレアの身体を抱え、地面の上に静かに寝かせた。
ラーラは立ち上がり、キリカの死体の方へ歩いて行った。
敵のネックレス、半日分の兵糧と短刀を拾い上げ、それで服の「魔麻布」をいくらか切り取った。
「さて、私も無理をしてみますかね」
グレアをおんぶして平野に立つと、彼女は遥か遠くを、地平線の彼方をじっと凝視した。
真っ白な世界の中を、一本の黒線がどこまでも伸びていく。
ここまではいつものイメージ。
だが、今回はその線は何倍にも太く膨らみ、遂に爆発して無限に伸び続ける。
キリカナム教団最終奥義:「神力」。
かつてグレアが「どんな不利状況でも逆転できる革命的な一手」とさえ評した最強の魔法。
あらゆる魔法における任意の要素を十倍にする。
今「影渡り」の要素:移動可能距離は十倍になった。
ラーラが一つ瞬きをしてから周辺を見渡すと、そこは見知らぬ森のすぐ脇だった。
口にくわえた「魔麻布」を吞み込んでから、彼女は再び「影渡り」した。
今度はどこか見慣れた景色。
さらに一枚呑み込んでから、彼女は再び「影渡り」した。
遠くに再建途中の城が見えた。
ラーラの表情が少し和らぐ。
次の瞬間、彼女は意識を失い、地面に倒れた。
約二時間後、地面の上に相重なって眠っている少女二人のもとに大きな人影が近付く。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる