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第三章
第九話
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私が扉を開けた時、ラーラは既に起きていた。
「おはようございます、グレア様」
「ラーラさ…うん?」
見ると、ラーラはベッドの上で一羽の鳩と戯れているのだ。
左手で頭を撫でてやりながら、彼女は私の方を向いた。
「すごい汗ですね。走ってきたのですか?」
ここでようやくその目的を思い出した私は、緊張感とともに話し出した。
語り終えてから、ラーラは「やっぱり、そのことですか」ととぼけたように返答した。
困惑する私に、右手から紙が差し出される。
「丁度同じことが書かれた手紙がついさっき届きました。この子が運んできてくれたんですよ」
伝書鳩の首には魔力が仄かに漏れ出す紫色の球体が括りつけられていた。
それを見れば納得がいった。
クリロン地方からの軍勢がジャサー城に向かっている。城主達はそれを何かしらの方法で知り、魔具付きの伝書鳩を使って私達に助けを求めた…
「どうしますか? グレア様」
疲れ切った小さな英雄を膝の上で眠らせながら、ラーラは私を仰ぎ見る。
手紙から得られる情報を基にして距離のことを考えれば、襲来には間に合うだろう。
ならば迎え撃とう。
私達には「懸命に足掻く弱者」を救うという「大義」と、彼らを今のようにしてしまった責任があるのだから。
「わかりました」
私の発言にラーラは力強く頷いた。
十五時頃、私達は樹の下で蜂蜜を舐め、秋風に吹かれながら休憩をしていた。
「もう少しで今夜の野営場に到着するんですよね?」
髪を手で軽く梳きながら私はふと尋ねた。
殺戮の容疑を掛けられないよう、今回辿る旅路は往復で変えてある。
「そうです。もう少しこの子達を休ませてあげれば、元の速さを取り戻すでしょうから、あと一時間半ぐらいで着きますよ」
「いいですね」
そう相槌打った私の口から魂がほわほわと逃げ出そうとする。
「ふわぁ」
「眠いんですか?」
「今日は早起きしたし沢山走り回ったので、その代償です。目覚めは良かったので大丈夫だと思っていたんですけど、それでも結局この心地よい風には逆らえませんでした」
「ふふ」
ラーラは少し笑うと、私の革枕を取り出しながら
「私が見張っておきますから、少し寝ていたらどうですか?」
「そうさせてもらえると嬉しいです。あ、寝すぎないように丁度いいタイミングで起こしてくれるともっと嬉しい」
「もちろんです」
私は枕に頭を乗せ、目を閉じた。
その瞬間、地面が大きく揺れたかと思うと、左腕が強引に掴まれた。
目を開くと、私達は宙を舞っていた。
「グレア様…!」
左には怯え切った顔のラーラ。右手には反射的に掴んだ剣。目下には想像を絶する惨状が広がっていた。
先ほどまで私達が憩いていた大樹は切り倒され、枝や幹はあたり一面に散っている。私たちの荷物は潰れ、頼みの綱にして日々の癒しでもあった馬二頭は魂のない肉塊となり、血の海がなみなみと広がっている。
元凶は明らかだった。
黒い薄布を組み合わせた、露出度の高い踊り子のような服に浅黒い肌、黒のショートヘア。幼さを残しながらも妖艶さ際立つ端正な顔立ち、鮮血のように真っ赤な瞳。
手には紫色の刃を備えた小刀。
現在確実に言えることは二つ。
一つ、「あいつ」は「私達が何者であるか」を分かった上で明確な殺意を持って私達を攻撃したということ。
二つ、「あいつ」はラーラを超える「闇」魔法使いであるということ。
「おはようございます、グレア様」
「ラーラさ…うん?」
見ると、ラーラはベッドの上で一羽の鳩と戯れているのだ。
左手で頭を撫でてやりながら、彼女は私の方を向いた。
「すごい汗ですね。走ってきたのですか?」
ここでようやくその目的を思い出した私は、緊張感とともに話し出した。
語り終えてから、ラーラは「やっぱり、そのことですか」ととぼけたように返答した。
困惑する私に、右手から紙が差し出される。
「丁度同じことが書かれた手紙がついさっき届きました。この子が運んできてくれたんですよ」
伝書鳩の首には魔力が仄かに漏れ出す紫色の球体が括りつけられていた。
それを見れば納得がいった。
クリロン地方からの軍勢がジャサー城に向かっている。城主達はそれを何かしらの方法で知り、魔具付きの伝書鳩を使って私達に助けを求めた…
「どうしますか? グレア様」
疲れ切った小さな英雄を膝の上で眠らせながら、ラーラは私を仰ぎ見る。
手紙から得られる情報を基にして距離のことを考えれば、襲来には間に合うだろう。
ならば迎え撃とう。
私達には「懸命に足掻く弱者」を救うという「大義」と、彼らを今のようにしてしまった責任があるのだから。
「わかりました」
私の発言にラーラは力強く頷いた。
十五時頃、私達は樹の下で蜂蜜を舐め、秋風に吹かれながら休憩をしていた。
「もう少しで今夜の野営場に到着するんですよね?」
髪を手で軽く梳きながら私はふと尋ねた。
殺戮の容疑を掛けられないよう、今回辿る旅路は往復で変えてある。
「そうです。もう少しこの子達を休ませてあげれば、元の速さを取り戻すでしょうから、あと一時間半ぐらいで着きますよ」
「いいですね」
そう相槌打った私の口から魂がほわほわと逃げ出そうとする。
「ふわぁ」
「眠いんですか?」
「今日は早起きしたし沢山走り回ったので、その代償です。目覚めは良かったので大丈夫だと思っていたんですけど、それでも結局この心地よい風には逆らえませんでした」
「ふふ」
ラーラは少し笑うと、私の革枕を取り出しながら
「私が見張っておきますから、少し寝ていたらどうですか?」
「そうさせてもらえると嬉しいです。あ、寝すぎないように丁度いいタイミングで起こしてくれるともっと嬉しい」
「もちろんです」
私は枕に頭を乗せ、目を閉じた。
その瞬間、地面が大きく揺れたかと思うと、左腕が強引に掴まれた。
目を開くと、私達は宙を舞っていた。
「グレア様…!」
左には怯え切った顔のラーラ。右手には反射的に掴んだ剣。目下には想像を絶する惨状が広がっていた。
先ほどまで私達が憩いていた大樹は切り倒され、枝や幹はあたり一面に散っている。私たちの荷物は潰れ、頼みの綱にして日々の癒しでもあった馬二頭は魂のない肉塊となり、血の海がなみなみと広がっている。
元凶は明らかだった。
黒い薄布を組み合わせた、露出度の高い踊り子のような服に浅黒い肌、黒のショートヘア。幼さを残しながらも妖艶さ際立つ端正な顔立ち、鮮血のように真っ赤な瞳。
手には紫色の刃を備えた小刀。
現在確実に言えることは二つ。
一つ、「あいつ」は「私達が何者であるか」を分かった上で明確な殺意を持って私達を攻撃したということ。
二つ、「あいつ」はラーラを超える「闇」魔法使いであるということ。
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