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第二章 後編
第三十五話 後編
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大量の瓦礫と埃の中に、グレアは敵の影を見た。
躊躇いなくその胸部に「光槍」を見舞う。
一瞬の煌めきの後、放ったばかりの光線にその身を掘削されたのは、グレアの方であった。
「へ?」
魔力不足による疲労と大半が消滅した脇腹に走る激痛で、彼女は思わず跪いた。
厚い砂埃が晴れて見えた敵の姿は、想像を絶するものだった。
頭部以外が、幾つもの「偽金」の塊で覆われ、同様の素材で作られた、鳥にも似た翼が背中から生えていた。
それらの部品全てに水晶部と満タンの「液体魔力」が備わっていた。
「『契約』の関係で魔力は有り余っているのでな。過剰に備えさせて貰った。…だが『光』属性魔法を使うなら、反射を常に考えろ」
「くっ…うっ…」
屈辱と痛み、そして絶望に震えるグレアに、敵は杖の先端を向けた。
「まあ、無駄な助言かもしれんが」
「やめろ!!」
絶叫に近い怒声と共に「闇」が発生し、敵の全身を包み込む。
だが、宵闇を貫通して魔力が飛び出し、ラーラの腹に一瞬にして生成された「偽金」の柱が衝突する。
「がはっ」
ラーラは地面に倒れると、激しく吐血し、そのまま嘔吐した。
「無力だな」
ただ一言だけそう吐き捨てると、ゼゼゾームは立ち上がろうとするグレアに向き直り、その頭を生成した「偽金」塊で素早く強打した。
彼女は気絶し、地面に伏した。
眠る彼女に、怪物は再び杖を向ける。
「待って下さい」
ラーラの掠れた声。
そのアメジストのような瞳には大粒の涙が溜まって落ち、端正な色白の顔は、綯い交ぜになった様々な負の感情によって歪み切っていた。
「その人は、私の大事な人なんです...! どんなに死にたくても死にたくても、我慢して十六年生きてきて…やっと見つけた、大切な宝物なんです…」
何とか声を絞り出すと、ラーラは再び咳き込んだ。
口から噴出した血液が地面に跳ねて水音を立てる。
「お願いします…何でもしますから、どうか、その人を殺さないで…!! お願い、します…!!」
吐瀉物に額を突っ込むことも厭わず、彼女は平伏する。
その曲げた手足はぷるぷると震えていた。
無限にも思われる十数秒の沈黙の後、ゼゼゾームは口を遂に開いた。
「そうか、こいつはお前の愛する者なのだな。気が変わった。殺さないでおこう」
ラーラがぐしゃぐしゃになった顔を上げる。
ゼゼゾームの口元が暗いフードの中で三日月形に歪む。
「丁度、お前達を使って実験したいことがある」
そう言うと、杖を翳し、グレアに魔法を放つ。
グレアの身体がピクリと跳ね、目が見開かれる。
「『秘密のラーラ』、お前に催眠が効かないのは知っている。それが発端で城中がこうなったこともな」
グレアがゆっくりと立ち上がる。
「しかし、こいつは違う。お前によって運良く私の『鍛造』から逃れただけだ。それが気に食わない。それも動機の一つだ」
「この実験の目的は…」とゼゼゾームは再度グレアに魔法を掛けた。
「お前のような厄介者が心砕けた場合に、『鍛造』が有効になるかどうかを検証することだ」
躊躇いなくその胸部に「光槍」を見舞う。
一瞬の煌めきの後、放ったばかりの光線にその身を掘削されたのは、グレアの方であった。
「へ?」
魔力不足による疲労と大半が消滅した脇腹に走る激痛で、彼女は思わず跪いた。
厚い砂埃が晴れて見えた敵の姿は、想像を絶するものだった。
頭部以外が、幾つもの「偽金」の塊で覆われ、同様の素材で作られた、鳥にも似た翼が背中から生えていた。
それらの部品全てに水晶部と満タンの「液体魔力」が備わっていた。
「『契約』の関係で魔力は有り余っているのでな。過剰に備えさせて貰った。…だが『光』属性魔法を使うなら、反射を常に考えろ」
「くっ…うっ…」
屈辱と痛み、そして絶望に震えるグレアに、敵は杖の先端を向けた。
「まあ、無駄な助言かもしれんが」
「やめろ!!」
絶叫に近い怒声と共に「闇」が発生し、敵の全身を包み込む。
だが、宵闇を貫通して魔力が飛び出し、ラーラの腹に一瞬にして生成された「偽金」の柱が衝突する。
「がはっ」
ラーラは地面に倒れると、激しく吐血し、そのまま嘔吐した。
「無力だな」
ただ一言だけそう吐き捨てると、ゼゼゾームは立ち上がろうとするグレアに向き直り、その頭を生成した「偽金」塊で素早く強打した。
彼女は気絶し、地面に伏した。
眠る彼女に、怪物は再び杖を向ける。
「待って下さい」
ラーラの掠れた声。
そのアメジストのような瞳には大粒の涙が溜まって落ち、端正な色白の顔は、綯い交ぜになった様々な負の感情によって歪み切っていた。
「その人は、私の大事な人なんです...! どんなに死にたくても死にたくても、我慢して十六年生きてきて…やっと見つけた、大切な宝物なんです…」
何とか声を絞り出すと、ラーラは再び咳き込んだ。
口から噴出した血液が地面に跳ねて水音を立てる。
「お願いします…何でもしますから、どうか、その人を殺さないで…!! お願い、します…!!」
吐瀉物に額を突っ込むことも厭わず、彼女は平伏する。
その曲げた手足はぷるぷると震えていた。
無限にも思われる十数秒の沈黙の後、ゼゼゾームは口を遂に開いた。
「そうか、こいつはお前の愛する者なのだな。気が変わった。殺さないでおこう」
ラーラがぐしゃぐしゃになった顔を上げる。
ゼゼゾームの口元が暗いフードの中で三日月形に歪む。
「丁度、お前達を使って実験したいことがある」
そう言うと、杖を翳し、グレアに魔法を放つ。
グレアの身体がピクリと跳ね、目が見開かれる。
「『秘密のラーラ』、お前に催眠が効かないのは知っている。それが発端で城中がこうなったこともな」
グレアがゆっくりと立ち上がる。
「しかし、こいつは違う。お前によって運良く私の『鍛造』から逃れただけだ。それが気に食わない。それも動機の一つだ」
「この実験の目的は…」とゼゼゾームは再度グレアに魔法を掛けた。
「お前のような厄介者が心砕けた場合に、『鍛造』が有効になるかどうかを検証することだ」
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