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第二章 後編
第二十九話
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「つっ…」
グレアは左腕を抑えてうずくまる。
戦闘中、彼女は「キリカナム教団」の「非 元素属性」魔法:「接木」によって骨折部を接着した。だが、これは自然治癒とは異なる。
砕けた骨の細かな破片が刺さり、骨に走ったひびが疼く。
アドレナリンの分泌が収まった今、骨折時のそれに肉迫する激痛がグレアを襲っているのだ。
彼女は痛みに耐えながら、情報を整理していた。
セインの持つ異常な身体能力と体捌き。
それは武術に由来するものであると彼女は断定し、自らの生存を改めて喜ばしく思った。
だが、それ以上に、魔法使いでもない一人の人間が「腕輪」もなしに結界を展開したことを不思議に思った。
地下にある牢獄の中は暗く、冷んやりとして炎と血による地上の混乱とは縁遠かった。
「はあ、はあ、はあ」
そんな中、一人の男が息を切らして階段を降りてくる。
男は暗闇で目を凝らし、最奥の独房の中に目標を見つけるや否や、我をも忘れて走り寄った。
そこには、四肢の第二関節から先を欠損した中年の男が壁にもたれて座っていた。
凄まじい悪臭を放ち、その髪や髭は伸び放題だが、その目にだけは未だに強い意志が宿っていた。
「教祖様!」
男が声を掛ける。
「助けに参りました」
すると、「キリカナム教団」教祖のホーバは、ゆっくり、声の方に首を傾けた。
「遅かったじゃないか。死んだかと思ったぞ」
「貴方様がいらっしゃる限り、私は死ぬわけに行きません」
そう言うと、彼は鉈を取り出し、自分の左腕の第二関節の上に構えた。
「私の手足をお使い下さいませ」
彼は右手を残して、自らの手足を全て切断し、嬉々として教祖に投げ渡した。
ホーバはそれらと自分の手足の断面を合わせると、「接木」を使用して接合した。
そして、暗闇の中ぬるりと立ち上がる。
手足を捧げた男は血溜まりの中でその姿を仰視し、歓喜に震えて言葉を失っている。
ホーバはその手から鉈を丁寧に受け取ると、振り上げる。
「貴殿の献身に感謝する」
次の瞬間、男の右腕が地面を跳ね飛び、ホーバの手の中に収まった。
ホーバは男の頭を「喰」で消滅させると、右腕を繋げながら既に自分のものとなった両足で階段を上っていった。
ラーラの周囲には、一般兵の屍がうず高く積み上がっていた。
その中には一人の近衛兵も含まれていた。
それらの隙間から、また一人の兵士が飛び出してくる。
ラーラはその頸を「星滅刀」でさも呼吸するかのようにごく自然に、容易く切断する。
後方から現れたさらなる二人の首にも、同じように黒い斬撃が舞い落ちる。
「星滅刀」。
この魔法は一度の発動に用いる消費魔力が少なく、迅速で強力で、かつ挙動が読みにくいという、利点に溢れたものではあるものの、二、三十人を相手取って、既にラーラの体内魔力は三分の一が失われていた。
(まずいですね…)
ラーラは更に出現した数人を効率的に屠殺しながら、次の手を考えていた。
その時、廊下の端で二人の人物が杖を振りかざした。
突如、ラーラの頭上に「水矢」が連続して降り注ぐ。
ラーラが後方への「影渡り」で辛うじて回避すると、その雨に向かって電撃が放たれる。
電撃は水の中に溶け込み、ラーラに嫌な想像をさせた。
「『矢雨』に『電撃』の併せ技ですか」
彼女は、敵の姿をしっかりと視界に捉えた。
「成長しましたね、二人とも」
例の事件以来、心身ともに損傷して引き籠もりきりだった「ドラ息子」ジェテム・ゲーレントと、二年前にラーラが試験官を務め、自ら城内での勤務を認めた水魔法の使い手、「雨降らしのレイ」だった。
グレアは左腕を抑えてうずくまる。
戦闘中、彼女は「キリカナム教団」の「非 元素属性」魔法:「接木」によって骨折部を接着した。だが、これは自然治癒とは異なる。
砕けた骨の細かな破片が刺さり、骨に走ったひびが疼く。
アドレナリンの分泌が収まった今、骨折時のそれに肉迫する激痛がグレアを襲っているのだ。
彼女は痛みに耐えながら、情報を整理していた。
セインの持つ異常な身体能力と体捌き。
それは武術に由来するものであると彼女は断定し、自らの生存を改めて喜ばしく思った。
だが、それ以上に、魔法使いでもない一人の人間が「腕輪」もなしに結界を展開したことを不思議に思った。
地下にある牢獄の中は暗く、冷んやりとして炎と血による地上の混乱とは縁遠かった。
「はあ、はあ、はあ」
そんな中、一人の男が息を切らして階段を降りてくる。
男は暗闇で目を凝らし、最奥の独房の中に目標を見つけるや否や、我をも忘れて走り寄った。
そこには、四肢の第二関節から先を欠損した中年の男が壁にもたれて座っていた。
凄まじい悪臭を放ち、その髪や髭は伸び放題だが、その目にだけは未だに強い意志が宿っていた。
「教祖様!」
男が声を掛ける。
「助けに参りました」
すると、「キリカナム教団」教祖のホーバは、ゆっくり、声の方に首を傾けた。
「遅かったじゃないか。死んだかと思ったぞ」
「貴方様がいらっしゃる限り、私は死ぬわけに行きません」
そう言うと、彼は鉈を取り出し、自分の左腕の第二関節の上に構えた。
「私の手足をお使い下さいませ」
彼は右手を残して、自らの手足を全て切断し、嬉々として教祖に投げ渡した。
ホーバはそれらと自分の手足の断面を合わせると、「接木」を使用して接合した。
そして、暗闇の中ぬるりと立ち上がる。
手足を捧げた男は血溜まりの中でその姿を仰視し、歓喜に震えて言葉を失っている。
ホーバはその手から鉈を丁寧に受け取ると、振り上げる。
「貴殿の献身に感謝する」
次の瞬間、男の右腕が地面を跳ね飛び、ホーバの手の中に収まった。
ホーバは男の頭を「喰」で消滅させると、右腕を繋げながら既に自分のものとなった両足で階段を上っていった。
ラーラの周囲には、一般兵の屍がうず高く積み上がっていた。
その中には一人の近衛兵も含まれていた。
それらの隙間から、また一人の兵士が飛び出してくる。
ラーラはその頸を「星滅刀」でさも呼吸するかのようにごく自然に、容易く切断する。
後方から現れたさらなる二人の首にも、同じように黒い斬撃が舞い落ちる。
「星滅刀」。
この魔法は一度の発動に用いる消費魔力が少なく、迅速で強力で、かつ挙動が読みにくいという、利点に溢れたものではあるものの、二、三十人を相手取って、既にラーラの体内魔力は三分の一が失われていた。
(まずいですね…)
ラーラは更に出現した数人を効率的に屠殺しながら、次の手を考えていた。
その時、廊下の端で二人の人物が杖を振りかざした。
突如、ラーラの頭上に「水矢」が連続して降り注ぐ。
ラーラが後方への「影渡り」で辛うじて回避すると、その雨に向かって電撃が放たれる。
電撃は水の中に溶け込み、ラーラに嫌な想像をさせた。
「『矢雨』に『電撃』の併せ技ですか」
彼女は、敵の姿をしっかりと視界に捉えた。
「成長しましたね、二人とも」
例の事件以来、心身ともに損傷して引き籠もりきりだった「ドラ息子」ジェテム・ゲーレントと、二年前にラーラが試験官を務め、自ら城内での勤務を認めた水魔法の使い手、「雨降らしのレイ」だった。
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