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第二章 後編
第二十六話
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私は多忙を偽ってパンを貰い、自室で食べながら思いを巡らせた。
「計画」の中で、ほぼ間違いなく私はバセリアと対戦する。
その時、私は本当に師匠を手に掛けることが出来るだろうか。
「キリカナム教団」の信徒達を殺害した時、余計な感情による妨害は受けなかった。だが、それが首に残る幻痛やラーラの涙から生じた復讐心、「他人」に対する無感情な思考に裏打ちされたものであることは否定できない。
「そういえば」
午後、私は魔法訓練中、何気ない様子を装ってラーラに質問してみた。
「『催眠魔法』って、それを発動している魔具を対象者から外すことが出来れば、対象者に掛かっている魔法の効果は消失するものなのですか?」
「…随分と回りくどい言い方ですね。要は『ネックレスを外せば、或いは壊せば、洗脳は解けるか』ということですね。それは…」
私は全身を耳にして彼女の回答を待った。
「不可能です」
曰く、「催眠魔法」による「洗脳」は思考の過程そのものを歪に変形させ、その変化は不可逆的である。
「ですので、一生そのままなのです。『洗脳』された者は、不治の病の罹患者と同じで、病む前には二度と戻れないのです」
彼女はそう言ってから、少し間を空け、最後に
「残念なことですが」
と付け加えた。
この一日で私の情緒は大いに掻き乱された。
だが、最終的には寝る前のベッドの上、白らかな月光の中でそれは整った。
まず、二者択一にして示されるまでもなく、私が護るべきはラーラであって、「洗脳」済みの連中ではない。
そして連中はどう足掻いても救済不可能で、私が「この道」を歩む以上、分かり合うことは出来ないのだ。
そんなバセリアとの間に築いた関係など無いも同然で、これまでの時間のあらゆる行動はただ単に、「村における私の監視」という事実の確定と、奥深い剣の道の体得の為に成されたのだ、無感情に合理的に。
そういうことなのだ。
そういうことであって欲しいのだ。
来週の今日、全てが終わる。
感慨にふけるのは一週間後でもいいだろう、と自分を苦し紛れに納得させ、亡骸のような気持ちで無理やり眠った。
「計画」の中で、ほぼ間違いなく私はバセリアと対戦する。
その時、私は本当に師匠を手に掛けることが出来るだろうか。
「キリカナム教団」の信徒達を殺害した時、余計な感情による妨害は受けなかった。だが、それが首に残る幻痛やラーラの涙から生じた復讐心、「他人」に対する無感情な思考に裏打ちされたものであることは否定できない。
「そういえば」
午後、私は魔法訓練中、何気ない様子を装ってラーラに質問してみた。
「『催眠魔法』って、それを発動している魔具を対象者から外すことが出来れば、対象者に掛かっている魔法の効果は消失するものなのですか?」
「…随分と回りくどい言い方ですね。要は『ネックレスを外せば、或いは壊せば、洗脳は解けるか』ということですね。それは…」
私は全身を耳にして彼女の回答を待った。
「不可能です」
曰く、「催眠魔法」による「洗脳」は思考の過程そのものを歪に変形させ、その変化は不可逆的である。
「ですので、一生そのままなのです。『洗脳』された者は、不治の病の罹患者と同じで、病む前には二度と戻れないのです」
彼女はそう言ってから、少し間を空け、最後に
「残念なことですが」
と付け加えた。
この一日で私の情緒は大いに掻き乱された。
だが、最終的には寝る前のベッドの上、白らかな月光の中でそれは整った。
まず、二者択一にして示されるまでもなく、私が護るべきはラーラであって、「洗脳」済みの連中ではない。
そして連中はどう足掻いても救済不可能で、私が「この道」を歩む以上、分かり合うことは出来ないのだ。
そんなバセリアとの間に築いた関係など無いも同然で、これまでの時間のあらゆる行動はただ単に、「村における私の監視」という事実の確定と、奥深い剣の道の体得の為に成されたのだ、無感情に合理的に。
そういうことなのだ。
そういうことであって欲しいのだ。
来週の今日、全てが終わる。
感慨にふけるのは一週間後でもいいだろう、と自分を苦し紛れに納得させ、亡骸のような気持ちで無理やり眠った。
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