86 / 159
第二章 後編
第二十三話
しおりを挟む
三日間の東進を終え、私達は帰城した。
色々と職務を済ませた後、私はラーラの部屋を訪れた。
「グレア様ですか?」
ドアの向こうから、警戒を含んだ声が聞こえた。
普段はただ柔らかく「どうぞ」とだけ言ってくれるのだが、何かあったのだろうか。
…いや、私の帰還の報が上手く伝わっていなかったのだろう。ラーラに寂しい思いをさせた「あの日」のように私の不器用さが原因であろう。
「はい。…失礼します」
私は入室しようとした。だが扉は一向に開こうとしなかった。
「あれ」
注意深く観察すると、知らぬ間に鍵付きになっている。
私は困惑し、思案に暮れて、硬直してしまった。
その間に内側から解錠し、ラーラは申し訳なさそうな表情を隙間から覗かせた。
「この一週間、本当にお疲れ様でした。座ってください」
私達はベッドの上に座って、報告会を始めた。
まずは私からだ。
クリロン城の周辺地域や城下町、城内の様相について、
クリロン地方の対外関係について、文化的差異について、推定戦力について…等など、メモ・記憶している限りで出来るだけ詳細に語るよう努めた。
「あと一つ、不思議な事があったんです」
私は初日に覚えた違和感について話した。
「城には高齢な人が多かったんです」
屋台の店主から料理店の経営者、道をゆく人に至るまで、少なくとも還暦は迎えていそうな老人の姿がとにかく多く散見された。
「なるほど…。興味深いですね」
彼女は小さな顎に小さな指を当てながら呟いた。
「食生活や発展の度合い、そもそも母数が多いという線も考えられなくはないですが、貴女の報告を聞く限り、原因は別にあると考えるのが自然でしょう。何か、他に感じた事はありませんでしたか?」
「そうですね…」
私は脳内とメモ帳の隅々まで目を光らせた。
そういえば。
「強いて言えば、空気が澄んでいて健康に良さそうでした」
「それかもしれません。疫病が流行りにくいとか。…でも逆に、ジャサー城内に疾病が蔓延り易く、高齢者が少なく、ジャサーが異常であると考えることも出来ます」
結局、考察の果てに結論は出ず、原因の特定は保留とした。
今度はラーラが話を始めた。
「いい報せと悪い報せがあります。どっちから聞きたいですか?」
「『いい報せ』で」
「この一週間の目標が全て達成出来ました」
「ってことは!」
「はい。『教団魔法』全習得と、『結界魔法』『催眠魔法』の解析・再現に成功しました」
「おお!」
私は心の底から彼女を称え、拍手を送った。
ラーラ担当の最後の「教団魔法」はどんなに不利な状況に陥ったとしても、瞬時に形勢逆転出来る革命的な一手である。
もはや、「計画」は間近だろう。
「やりましたね!」
「そうですね。ですが…」
彼女は言葉に詰まった。
緊張が伝わり、私も催促出来なかった。
遂に口を開く。
「『計画』は叶わないかもしれません」
「…え?」
色々と職務を済ませた後、私はラーラの部屋を訪れた。
「グレア様ですか?」
ドアの向こうから、警戒を含んだ声が聞こえた。
普段はただ柔らかく「どうぞ」とだけ言ってくれるのだが、何かあったのだろうか。
…いや、私の帰還の報が上手く伝わっていなかったのだろう。ラーラに寂しい思いをさせた「あの日」のように私の不器用さが原因であろう。
「はい。…失礼します」
私は入室しようとした。だが扉は一向に開こうとしなかった。
「あれ」
注意深く観察すると、知らぬ間に鍵付きになっている。
私は困惑し、思案に暮れて、硬直してしまった。
その間に内側から解錠し、ラーラは申し訳なさそうな表情を隙間から覗かせた。
「この一週間、本当にお疲れ様でした。座ってください」
私達はベッドの上に座って、報告会を始めた。
まずは私からだ。
クリロン城の周辺地域や城下町、城内の様相について、
クリロン地方の対外関係について、文化的差異について、推定戦力について…等など、メモ・記憶している限りで出来るだけ詳細に語るよう努めた。
「あと一つ、不思議な事があったんです」
私は初日に覚えた違和感について話した。
「城には高齢な人が多かったんです」
屋台の店主から料理店の経営者、道をゆく人に至るまで、少なくとも還暦は迎えていそうな老人の姿がとにかく多く散見された。
「なるほど…。興味深いですね」
彼女は小さな顎に小さな指を当てながら呟いた。
「食生活や発展の度合い、そもそも母数が多いという線も考えられなくはないですが、貴女の報告を聞く限り、原因は別にあると考えるのが自然でしょう。何か、他に感じた事はありませんでしたか?」
「そうですね…」
私は脳内とメモ帳の隅々まで目を光らせた。
そういえば。
「強いて言えば、空気が澄んでいて健康に良さそうでした」
「それかもしれません。疫病が流行りにくいとか。…でも逆に、ジャサー城内に疾病が蔓延り易く、高齢者が少なく、ジャサーが異常であると考えることも出来ます」
結局、考察の果てに結論は出ず、原因の特定は保留とした。
今度はラーラが話を始めた。
「いい報せと悪い報せがあります。どっちから聞きたいですか?」
「『いい報せ』で」
「この一週間の目標が全て達成出来ました」
「ってことは!」
「はい。『教団魔法』全習得と、『結界魔法』『催眠魔法』の解析・再現に成功しました」
「おお!」
私は心の底から彼女を称え、拍手を送った。
ラーラ担当の最後の「教団魔法」はどんなに不利な状況に陥ったとしても、瞬時に形勢逆転出来る革命的な一手である。
もはや、「計画」は間近だろう。
「やりましたね!」
「そうですね。ですが…」
彼女は言葉に詰まった。
緊張が伝わり、私も催促出来なかった。
遂に口を開く。
「『計画』は叶わないかもしれません」
「…え?」
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説

なんでもアリな異世界は、なんだか楽しそうです!!
日向ぼっこ
ファンタジー
「異世界転生してみないか?」
見覚えのない部屋の中で神を自称する男は話を続ける。
神の暇つぶしに付き合う代わりに異世界チートしてみないか? ってことだよと。
特に悩むこともなくその話を受け入れたクロムは広大な草原の中で目を覚ます。
突如襲い掛かる魔物の群れに対してとっさに突き出した両手より光が輝き、この世界で生き抜くための力を自覚することとなる。
なんでもアリの世界として創造されたこの世界にて、様々な体験をすることとなる。
・魔物に襲われている女の子との出会い
・勇者との出会い
・魔王との出会い
・他の転生者との出会い
・波長の合う仲間との出会い etc.......
チート能力を駆使して異世界生活を楽しむ中、この世界の<異常性>に直面することとなる。
その時クロムは何を想い、何をするのか……
このお話は全てのキッカケとなった創造神の一言から始まることになる……
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜
仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。
森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。
その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。
これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語
今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ!
競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。
まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで商売をして生計を立てていく〜
西館亮太
ファンタジー
「お前は今日でクビだ。」
主に突然そう宣告された究極と称されるメイドの『アミナ』。
生まれてこの方、主人の世話しかした事の無かった彼女はクビを言い渡された後、自分を陥れたメイドに魔物の巣食う島に転送されてしまう。
その大陸は、街の外に出れば魔物に襲われる危険性を伴う非常に危険な土地だった。
だがそのまま死ぬ訳にもいかず、彼女は己の必要のないスキルだと思い込んでいた、素材と知識とイメージがあればどんな物でも作れる『究極創造』を使い、『物作り屋』として冒険者や街の住人相手に商売することにした。
しかし街に到着するなり、外の世界を知らない彼女のコミュ障が露呈したり、意外と知らない事もあったりと、悩みながら自身は究極なんかでは無かったと自覚する。
そこから始まる、依頼者達とのいざこざや、素材収集の中で起こる騒動に彼女は次々と巻き込まれていく事になる。
これは、彼女が本当の究極になるまでのお話である。
※かなり冗長です。
説明口調も多いのでそれを加味した上でお楽しみ頂けたら幸いです

Worlds of Fate〜世紀末の戦士は異世界に挑む!〜
宇宙星
ファンタジー
核戦争によって荒れ果てた地球。
シンヤ・ホシミは革命派の戦士として、貧困層のために戦い続けていた。
そんなある日、運命の女神が現れ、異世界への扉を開く。そこは剣と魔法が飛び交う、まるでファンタジーの世界。
果たして、シンヤは自らの運命と向き合い、前世を超え、地球と異世界の未来を救うことができるのか?
ー何度生まれ変わっても君とこの世界を守る。
世紀末の地球とファンタジーの異世界を繋ぐ運命の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる