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第二章 後編
第十七話
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「始め!!」
戦闘が始まった瞬間、私は速攻「駿馬」を使って敵に接近した。
そして速度を維持したまま、全力の「隼斬り」を見舞った。
相手はこれに反応し、剣を立てて防御の体勢を取った。
次の瞬間、敵の剣は手から外れて落ち、本体もそれに振り回されてバランスを崩して尻もちをついた。
私は無意識の内に追撃しようとしたのだが、道場主の「そこまで」という、よく通る制止の声によって、雷に打たれたように止まった。
門下生達は呆気にとられて何一つ音を立てなかった。
道場主が
「両者の健闘を称えよ」と指示してからようやく、雨粒のような拍手が聞こえ始めた。
私はほっと胸を撫で下ろし、対戦相手の手を取って立ち上がらせようとした。
だが、
「立てない。腰が抜けちゃったの…」と彼女は首を横に振った。
門下生二人に支えられ、彼女は退場した。
私は密かにバセリアとハイタッチを交わした。
落ち着いてから、「さて」と道場主は言った。
「次にグレアさんと戦うのは、ゲンフだ。準備しろ」
次に入場したのは、私よりやや年上とみられる中肉中背の少年。
私は休憩を止めて、試合に臨んだ。
この試合も結局「駿馬」と「隼斬り」二発で、向こうの攻撃を受ける間もなく、すぐに終わらせてしまった。
もしかして、私は案外強いのだろうか。それとも流派の相性か。
さらに休憩を挟んで立ち合った三人目は、バセリアと似た、長身で目付きの鋭い女性だった。
しかし、この剣士にも、結局試合開始と同時に「駿馬」で突撃して剣を落とさせ、呆気なく勝利となった。
「…」
道場主は、峻厳な顔のまま、石像のようにしばらく沈黙していた。
まさかとは思うが、ひょっとして、彼らの面目を潰してしまったのではないか、と私は水を飲みながら危惧した。
だがそんな心配もよそに、道場主は次なる使者を指名した。
「クオーテ、お前が出ろ」
「了解しました」
出て来たのは、夜の湖のような深青色の、ところどころ跳ねた長い髪と水色の吊り目が特徴的な、私より少し年上に見える美少年。
「グレアさん」
「はい」
「こいつは『見習い』の枠に収まらないかもしれない。それでもいいでしょうか?」
「構いません」
格上…いや、互角に張り合ってくる相手が出て来たということか。
少年は剣を構え、風に揺れる小枝のように、ゆったりとフットワークを始めた。
立ち姿が格段に美しいわけではないが、果たしてどれほどの技術を見せてくれるだろうか。
「始め!!」
戦闘開始と同時に、私は足に魔力を込め、思いっきり地面を蹴り、突進する。
その勢いを最大限に活用し、想像上の隼を空間ごと切り落とす。
少年は今までの対戦相手と違って、防御しなかった。
代わりに姿勢を低くして、私の足に木剣を伸ばした。
「くっ」
その意図に気付いた私は、思わず前方向への加速度を維持したまま飛び上がり、相手とすれ違って地面に転がった。
相手の木剣の先端は、''ちょうど私の脛の辺り''にまだ留まっていた。
向こうは機動力を奪うつもりだ。いや、あの正確性から説明するなら、「今頃奪っている予定」だったろう。
相手はすぐに回れ右してこちらに近付き、素早く剣を振った。
私はそれを辛うじて防いだ。
そして急いで立ち上がろうとしたが、その過程にあって不完全な体勢で足払いを受け、再び地面にぶつかった。
尻餅を付く私の頭に素早く剣が振り下ろされる。
「そこまで」
私が思わず恐怖で目を閉じた時、試合は終了した。
「立てますか?」
少年は優しく語りかけ、手を差し出してくれた。
「はい」
私はその手を取って立ち上がった。
まるで意趣返しだ。
私は最初に負かしたあの子の意趣返しを食らっているのだ。
少年や師匠に復讐の意思は感じられなかったが。
拍手と驚嘆に包まれながら、私は退場した。
続いて、バセリアと最初に指名された青年が対戦した。
さすがというべきか、文字通り瞬く間に勝負は決していた。
次に指名された威厳ある中年男性の剣士も、その次に呼ばれた血気盛んな少年も、一撃で沈黙した。
そんな「ワンサイドゲーム」を見かねたのか、とうとう向こうの大将が重い腰を上げた。
「私と立ち合って頂いてもよろしいですか、バセリアさん」
「ああ。構いません」
二人は各々自分の流派の基礎的な構えを取った。だが、どちらも我々見習いとは比べ物にならない程美しい。
静かな鬼気が空気中をゆっくりと渦巻く。
観戦者全員が、固唾を呑んで見守っていた。
そして、とうとう審判が手を振り上げる。
「始め!!」
刹那、窓が破れ、太く長い緑色のものが勢いよく飛び出してきた。
戦闘が始まった瞬間、私は速攻「駿馬」を使って敵に接近した。
そして速度を維持したまま、全力の「隼斬り」を見舞った。
相手はこれに反応し、剣を立てて防御の体勢を取った。
次の瞬間、敵の剣は手から外れて落ち、本体もそれに振り回されてバランスを崩して尻もちをついた。
私は無意識の内に追撃しようとしたのだが、道場主の「そこまで」という、よく通る制止の声によって、雷に打たれたように止まった。
門下生達は呆気にとられて何一つ音を立てなかった。
道場主が
「両者の健闘を称えよ」と指示してからようやく、雨粒のような拍手が聞こえ始めた。
私はほっと胸を撫で下ろし、対戦相手の手を取って立ち上がらせようとした。
だが、
「立てない。腰が抜けちゃったの…」と彼女は首を横に振った。
門下生二人に支えられ、彼女は退場した。
私は密かにバセリアとハイタッチを交わした。
落ち着いてから、「さて」と道場主は言った。
「次にグレアさんと戦うのは、ゲンフだ。準備しろ」
次に入場したのは、私よりやや年上とみられる中肉中背の少年。
私は休憩を止めて、試合に臨んだ。
この試合も結局「駿馬」と「隼斬り」二発で、向こうの攻撃を受ける間もなく、すぐに終わらせてしまった。
もしかして、私は案外強いのだろうか。それとも流派の相性か。
さらに休憩を挟んで立ち合った三人目は、バセリアと似た、長身で目付きの鋭い女性だった。
しかし、この剣士にも、結局試合開始と同時に「駿馬」で突撃して剣を落とさせ、呆気なく勝利となった。
「…」
道場主は、峻厳な顔のまま、石像のようにしばらく沈黙していた。
まさかとは思うが、ひょっとして、彼らの面目を潰してしまったのではないか、と私は水を飲みながら危惧した。
だがそんな心配もよそに、道場主は次なる使者を指名した。
「クオーテ、お前が出ろ」
「了解しました」
出て来たのは、夜の湖のような深青色の、ところどころ跳ねた長い髪と水色の吊り目が特徴的な、私より少し年上に見える美少年。
「グレアさん」
「はい」
「こいつは『見習い』の枠に収まらないかもしれない。それでもいいでしょうか?」
「構いません」
格上…いや、互角に張り合ってくる相手が出て来たということか。
少年は剣を構え、風に揺れる小枝のように、ゆったりとフットワークを始めた。
立ち姿が格段に美しいわけではないが、果たしてどれほどの技術を見せてくれるだろうか。
「始め!!」
戦闘開始と同時に、私は足に魔力を込め、思いっきり地面を蹴り、突進する。
その勢いを最大限に活用し、想像上の隼を空間ごと切り落とす。
少年は今までの対戦相手と違って、防御しなかった。
代わりに姿勢を低くして、私の足に木剣を伸ばした。
「くっ」
その意図に気付いた私は、思わず前方向への加速度を維持したまま飛び上がり、相手とすれ違って地面に転がった。
相手の木剣の先端は、''ちょうど私の脛の辺り''にまだ留まっていた。
向こうは機動力を奪うつもりだ。いや、あの正確性から説明するなら、「今頃奪っている予定」だったろう。
相手はすぐに回れ右してこちらに近付き、素早く剣を振った。
私はそれを辛うじて防いだ。
そして急いで立ち上がろうとしたが、その過程にあって不完全な体勢で足払いを受け、再び地面にぶつかった。
尻餅を付く私の頭に素早く剣が振り下ろされる。
「そこまで」
私が思わず恐怖で目を閉じた時、試合は終了した。
「立てますか?」
少年は優しく語りかけ、手を差し出してくれた。
「はい」
私はその手を取って立ち上がった。
まるで意趣返しだ。
私は最初に負かしたあの子の意趣返しを食らっているのだ。
少年や師匠に復讐の意思は感じられなかったが。
拍手と驚嘆に包まれながら、私は退場した。
続いて、バセリアと最初に指名された青年が対戦した。
さすがというべきか、文字通り瞬く間に勝負は決していた。
次に指名された威厳ある中年男性の剣士も、その次に呼ばれた血気盛んな少年も、一撃で沈黙した。
そんな「ワンサイドゲーム」を見かねたのか、とうとう向こうの大将が重い腰を上げた。
「私と立ち合って頂いてもよろしいですか、バセリアさん」
「ああ。構いません」
二人は各々自分の流派の基礎的な構えを取った。だが、どちらも我々見習いとは比べ物にならない程美しい。
静かな鬼気が空気中をゆっくりと渦巻く。
観戦者全員が、固唾を呑んで見守っていた。
そして、とうとう審判が手を振り上げる。
「始め!!」
刹那、窓が破れ、太く長い緑色のものが勢いよく飛び出してきた。
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