魔王メーカー

壱元

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第二章 後編

第十五話

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    交渉の結果、午前中はバセリアの元で剣術の技術を高め、午後はラーラの元で魔法習得、ということになった。

どちらも順調で、体力の節約によってラーラと夜に話をする時間を取り戻すことも出来た。

無論、私達の「計画」について話し合う時間も。

そんなある日、円卓上での夕食中のこと。

「君達に連絡したいことがある」

伯爵は言った。

曰く、来月中旬に西にあるクリロン地方に赴き、その統治者と面会するそうで、その為に二週間ほど我々近衛兵を駆り出すということらしい。

「なるほど。その任務ですか」

私から話を聞き、ラーラは頷く。

「その任務は昨年の春にもあって、その時は私も同行しました」

「どうでしたか?」

「道中も安全だし、城内の治安もいいので、殆ど遊びに行くようなものでした」

「なるほど」

だが、今回に限っては「遊び」などしている暇はないだろう。

「なら、いっぱい仕入れてきますよ」

「はい。是非ともお願いします」

これはジャサー地方から脱する貴重な機会であり、情報収集の為の絶好の機会である。

私は「前例」の流れの詳細をラーラから聞いてから部屋を去った。


    約1ヶ月後、伯爵は珍しく馬車に乗り込み、私達もその後ろに馬に跨って並んだ。

「では出発しよう」

主君の声に応じ、一団はゆっくりと動き出した。

最初から最後まで旅に使っていたのは馬車二台がすれ違える程度には幅が広い道で、視界は常に開けていて、どこまで行っても左右に何かしら人の活動の産物が見えた。

これなら確かに平和に違いない。

私はお咎めを受けない程度にバセリアや他の同僚達と軽口を叩きあっていた。

移動は三日間に渡り、野営の夜間に見張りの番が回ってきても、ただ暗闇を見つめて呆然と遠くの土地のラーラに思いを馳せるばかりだった。

    気の抜けた旅は終わり、ベージュ色の荘厳な城壁が目に映った。

近付くと、我々の姿を認めるなり番人は自ら門を開けた。

城下町は私達の持つそれとほぼ同じ構造と趣を有していて、負けず劣らず活気に溢れていた。

間もなくして入城し、全員が乗り物から降り、それらを相手方の使用人たちに預けた。

「やあ、遠くからよくぞお越しなすった」

「いやいや、貴殿との面会が待ち遠しく、道中などまるで一瞬のようであったよ」

クリロン辺境伯は、老齢の執事一人のみを侍らせ、直々に私達を歓迎した。

城内では私達は近衛兵という立場も忘れるほど手厚くもてなされ、お気に入りお付のバセリア以外は伯爵の許しを得て、暇をもらった。

   …いきなり初日の昼間から自由放免となった私は暇を持て余し、同じく持て余している貯金を使って片っ端から屋台飯を喰らい尽くしていた。

かなり職人歴の長そうな老店主が作っているものもあり、そういう店の品に関しては、私は見ているだけで年甲斐もなく涎を垂らしてしまった。

    満腹になった私は、空が焼ける頃まで町歩きを継続した後、帰城して夕食を摂った。

城主は相当人をもてなすのが好きなのだろう。

食事は最高級、浴場も貸し切りで、割り当てられた部屋は、全てが私が近衛兵に就任して与えられた部屋よりも優れていた。

私の諜報活動の一日目は、雲のようなベッドの中で終わった。

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