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第二章 後編
第十三話
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夕食を摂った後、私は寝間着に着替え、枕を持って再び部屋を訪れた。
ラーラも既に着替えていて、私達は図らずもお揃いの白色のドレスだった。
「ねえ、本当に一緒に寝るのですか?」
枕を抱きながらベッドの上に座る彼女は、心配そうな顔をしていた。
「もうかれこれ五年以上このままですから、もう身体は慣れていて、そんなに寝相が悪い訳でもないですけれど、それでも、もし角が当たったら、結構痛いと思いますよ」
「大丈夫ですよ。ラーラ様を信じていますし、当たって怪我しても、私なら直ぐに治りますから。そう考えた上で、一緒に寝たいんですよ」
「…分かりました」
私達は一つのベッドに横になり、同じ布団を被った。
「…こんなに近くで貴女の顔を見るのは、初めてですね」
ラーラはそう言って私の髪に指を絡ませた。
「本当に柔らかくて綺麗ですね。…お顔の方も、絵本の中から飛び出してきた人みたい」
「貴方だって綺麗ですよ。でも綺麗なだけじゃなくて、いつも本当に可愛いです」
「…もう」
自分から始めておきながら、彼女は甘ったるい「反撃」に耐えきれず、卑怯にも布団を引き上げて顔を隠した。
そのまま寝てしまうのかと思ったが、やがてひょこっと笑顔を見せて、
「おやすみなさい」と囁いた。
「おやすみなさい」
と私も返し、蝋燭の火を消した。
深夜、頭に何かがぶつかり、目が覚めた。
当然、それはラーラの角であった訳だが、私がすぐ寝直さなかったのは痛みのせいではない。
ラーラは酷くうなされていた。
その表情を見て、実際に指で触れてみると、やはり目元が濡れていた。
彼女は何かを求めるように、断続的に寝言を発していた。その一部が辛うじて聞き取れた。
「おかあさん…」
彼女は間違いなくそう発音した。
医者曰く、私が死の危険に瀕した時も、彼女は泣いていたという。
彼が自身の経験から導く答えとしては、私はラーラにとっては「娘」のようなものだろうということらしい。
だが果たしてそうなのだろうか?
彼女は外から見えているよりもずっと弱かったのでは無いだろうか?
今までずっと''寂しかった''のではないだろうか?
親を失い、故郷を失い、「秘密」を貫き、一人だけ洗脳から逃れて孤独に生き、捨てる場所のない全ての痛みを、そのまま背負って生きてきた。
そんな矢先に私が現れ、昨日のやり取りの結果、現に彼女が私の存在を求めている事が証明された。
「拠り所」としての私(グレア)を、我を忘れるほどに強く。
彼女がその傷だらけの心の支えに出来るのは私だけなのだ。
私はラーラの小さな手を、包み込むようにしっかりと握った。
呼吸が安定し、彼女の表情は徐々に和らいでいった。
「…ちゃんと年相応な所もあるのですね」
そのうち私も深い底へ落ちていき、途中で目覚める事はなかった。
目が覚めた時、ラーラは既にローブを羽織って立っていた。
私が上半身を起こすと、彼女は振り向き、
「おはようございます。グレア様」
と、平常の落ち着いた様子で挨拶してきた。
「おはようございます」
私も挨拶を返し、洗面所を借りて洗顔し、口をゆすいだ。その後、ラーラと雑談をしながら身支度をし、枕を脇に挟んで扉の前に立った。
「グレア様、昨晩は楽しかったですよ」
「私もです」
「また城門で会いましょう」
「そうですね」
私は一旦別れを告げ、扉を閉めた。
ラーラも既に着替えていて、私達は図らずもお揃いの白色のドレスだった。
「ねえ、本当に一緒に寝るのですか?」
枕を抱きながらベッドの上に座る彼女は、心配そうな顔をしていた。
「もうかれこれ五年以上このままですから、もう身体は慣れていて、そんなに寝相が悪い訳でもないですけれど、それでも、もし角が当たったら、結構痛いと思いますよ」
「大丈夫ですよ。ラーラ様を信じていますし、当たって怪我しても、私なら直ぐに治りますから。そう考えた上で、一緒に寝たいんですよ」
「…分かりました」
私達は一つのベッドに横になり、同じ布団を被った。
「…こんなに近くで貴女の顔を見るのは、初めてですね」
ラーラはそう言って私の髪に指を絡ませた。
「本当に柔らかくて綺麗ですね。…お顔の方も、絵本の中から飛び出してきた人みたい」
「貴方だって綺麗ですよ。でも綺麗なだけじゃなくて、いつも本当に可愛いです」
「…もう」
自分から始めておきながら、彼女は甘ったるい「反撃」に耐えきれず、卑怯にも布団を引き上げて顔を隠した。
そのまま寝てしまうのかと思ったが、やがてひょこっと笑顔を見せて、
「おやすみなさい」と囁いた。
「おやすみなさい」
と私も返し、蝋燭の火を消した。
深夜、頭に何かがぶつかり、目が覚めた。
当然、それはラーラの角であった訳だが、私がすぐ寝直さなかったのは痛みのせいではない。
ラーラは酷くうなされていた。
その表情を見て、実際に指で触れてみると、やはり目元が濡れていた。
彼女は何かを求めるように、断続的に寝言を発していた。その一部が辛うじて聞き取れた。
「おかあさん…」
彼女は間違いなくそう発音した。
医者曰く、私が死の危険に瀕した時も、彼女は泣いていたという。
彼が自身の経験から導く答えとしては、私はラーラにとっては「娘」のようなものだろうということらしい。
だが果たしてそうなのだろうか?
彼女は外から見えているよりもずっと弱かったのでは無いだろうか?
今までずっと''寂しかった''のではないだろうか?
親を失い、故郷を失い、「秘密」を貫き、一人だけ洗脳から逃れて孤独に生き、捨てる場所のない全ての痛みを、そのまま背負って生きてきた。
そんな矢先に私が現れ、昨日のやり取りの結果、現に彼女が私の存在を求めている事が証明された。
「拠り所」としての私(グレア)を、我を忘れるほどに強く。
彼女がその傷だらけの心の支えに出来るのは私だけなのだ。
私はラーラの小さな手を、包み込むようにしっかりと握った。
呼吸が安定し、彼女の表情は徐々に和らいでいった。
「…ちゃんと年相応な所もあるのですね」
そのうち私も深い底へ落ちていき、途中で目覚める事はなかった。
目が覚めた時、ラーラは既にローブを羽織って立っていた。
私が上半身を起こすと、彼女は振り向き、
「おはようございます。グレア様」
と、平常の落ち着いた様子で挨拶してきた。
「おはようございます」
私も挨拶を返し、洗面所を借りて洗顔し、口をゆすいだ。その後、ラーラと雑談をしながら身支度をし、枕を脇に挟んで扉の前に立った。
「グレア様、昨晩は楽しかったですよ」
「私もです」
「また城門で会いましょう」
「そうですね」
私は一旦別れを告げ、扉を閉めた。
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