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第二章 後編
第七話
しおりを挟む帰城後、ジェテムは医務室へ運び込まれ、ラーラと私は兵長室へ報告に向かった。
犯人は鈍臭く、不服そうであり、一方でその部下は頭が切れ、誠実である(少なくともそう見えるよう努力した)。
一通り報告が終わった後、老兵は頷き、私を先に帰らせた。
一人、ドアの向こうで、やるせなさに満たされた。
十時頃、自室に戻る私の耳に、階下から苦しげに咳き込む音が入ってきた。
もはや襤褸布と化したローブに辛うじて身を隠しながら、少女は上がってきた。
私は言葉に詰まりつつ彼女の部屋の扉を開けてやり、急いでお湯で濡らしたタオルを用意した。
だが一見彼女に外傷はなかったのだ。
腹や胸だけ殴られたと、血塗れの口で苦しげに発したのが、辛うじて聞き取れた。
服はそれとは無関係に破かれたという。
深刻な傷は身体の内側にだけある。
胸や腹を冷やしてやる以外何も出来ず、ただ彼女が吐血する様を見ているだけ。
その不甲斐なさといったら、なんとも形容し難いものだった。
同時に、あの男に対する途方もない怒りと殺意が湧き上がった。
数日の療養の後、ラーラは訓練に復帰した。
その間に幹部の間で行われた会議によって、予定通り、私がラーラの代わりに近衛兵として名を連ね、ラーラは私の「補助兵」となった。
就任式では、伯爵が何食わぬ顔でやって来て、円卓の称号である金製の勲章を渡してきた。
私はいかにも、それが至上の栄光であると反応するよう努め、そのお陰か、特に未洗脳であることは悟られずに済んだようだ。
就任式に出席した、傷が塞がりつつあるバセリアは、私の昇進を自分のことのように喜んでくれ、「これで美味しい物が食べ放題だぞ」と私の肩を叩いた。
高級品を食べられなくなったラーラも同様の事を言って私を励まそうと試みた。
だが、実際のそれというのは以前感じたほど香りも味も優れたものではなかった。
今、私を悦ばせ得るのは伯爵の血の香りと味、ただそれだけなのだ。
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