魔王メーカー

壱元

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第二章 後編

第六話

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「作戦開始」

ラーラの指示に呼応し、私は両手に即座に「火球パシア」を準備する。

ジェテムはこれに遅れて杖を構えた。

予想通り、適切なタイミングでの一斉攻撃、とはいかない。

私が一足先に攻撃し、それらは無事に着弾する。

敵は一瞬怯み、身体を縮小させた。

だが、すぐに立ち直って速度を上げ、突撃してくる。

ラーラは黒い球体、「闇球ヌーヴィア」を掌に生成し、目標に発射した。

液状の肉体に無数の穴が発生する。

穴は一瞬のものだが、普段は使わぬこの魔法が、確実に体積を削り取った証明でもあった。

スライムにも痛覚はあるようで、攻撃を受けて移動を中断し、その場で激流のように荒々しくのたうち回った。

私は頭上に追撃用の「大火球ビシア」を準備しつつ、密かに立ち位置を調整した。

その際にふと見ると、あの黄色い役立たずの杖の先端は、揺れていた。

いつまでも電撃が辺りを照らさない理由が理解できた。

「ジェテム様、結界が貴方を護りますから、安心して攻撃してください」

彼はハッとした顔で私を見ると、裏返った声で虚勢を張った。

「わかってるに決まっているだろう!   様子見をしているんだ!」

その「様子見」とやらも、いつまで続くだろうか。

次の瞬間、スライムが高波のように浮き上がり、ジェテムにぶつかる。

「ああああああ」

ジェテムは後方に3mほど吹き飛んで樹に激突し、身体に傷は無いが、落ちて来た虫やら葉やら実やらに塗れて泣きそうな顔になっている。

「大丈夫ですか!?」

大袈裟に、でもなるべく自然に、先程バレないように取った分も含めた相当な距離を颯爽と駆け抜け、いかにも献身的な様子で寄っていく。

当然、スライムは自らの真横を過ぎる目標に反応し、殺意を持って追いかけてくる。

その時、ラーラが’’何故か’’「指示、予告無し」で「闇球」を連射。

スライムの身体を貫通したそれらは、威力は減衰しつつもジェテムと私に牙を剥く。

私は「その場で即座に」判断し、身を呈し、自分の液体魔力を犠牲に新人を庇った。

そして攻撃が一旦止み、スライムも動きを止めた所で「必死になって」訴える。

「ラーラ様!!   攻撃が私達にも及んでいます!   一旦落ち着いてください!!」

だが「秘密のラーラ」は聞く耳を持たない。

再びスライムに向けて「闇球」を連射し、それらは流れ弾となる。

私はそれらを一部防ぎ切れず、とうとう結界が破れ、「無」が彼の右太腿と左肩を掠める。

「があっ!!」

声にならない苦痛の悲鳴がジェテムの口から漏れる。

「ラーラ様!!!」

私は叫び、憤り、「秘密のラーラ」に「火球」を放つ。

「火球」は結界と衝突して爆発音と衝撃を発し、ラーラは正気を取り戻し、やっと攻撃を止める。

「ラーラ様、何を!?」

「ちょっと攻撃に夢中になって…」

いかにも狼狽した様子。

彼女も大した演者である。

「とにかく、ジェテム様の手当を!」

私達は慌てた様子で城へと戻った。


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