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第二章 後編
第四話
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今日で勤務開始から丁度四ヶ月。
近頃は専ら「魔法の盗用」に夢中である。
狂信的な「キリカナム教団」が開発に心血を注いだ魔法たちは、律儀にも書籍の中に詳細に収まっていたので、ラーラの持ち出しのおかげで、こうして私達のものになっていくことになった。
少し前に修正されて再誕生したばかりの大義を成すために、順調に力を付けられている。
今日の訓練では新しくあの「重力を操る魔法」、「死天」を習得した。
心強い味方である。
訓練からの帰城後、玄関ではいつかの青髪の美少年執事、セインが出迎えた。
「閣下がお呼びです」
ラーラにそう伝言だけし、挨拶をして去っていった。
緊急召集の目的も気になったが、それ以上に一つ気になる事があった。
私はそれなりに長い訓練の末、魔力をより繊細に感知出来るようになった。
だが、あの執事からは微塵も魔力を感じ取れない。
全ての生物は、あらゆる活動の度に多かれ少なかれ魔力を体外に漏洩させる。
何も術を持たない一般的な人間が、ここまで放出魔力を抑えることができているというのは異常であった。
入浴と夕食を終え、自室に戻ってくると、扉が叩かれた。
「グレア様」
「どうぞ」
ラーラは入室すると、フードを取り、ベッドに座っている私の前に立った。
「どうしたんですか? 貴女の方から来るなんて珍しいですね」
「お伝えしたいことがありまして」
厳格なトーン。ただ事ではないと確信できた。
「実は、貴女の他に、新しく補助兵が入ることになりました。彼の名前はジェテム、年齢は十四歳。名家の出身で魔法学校卒業。『雷』魔法を専攻していたそうです。魔法学校出身ということで、試験が免除され、直接補助兵に抜擢されました。来週の初日から訓練に参加します」
ここまで言うと、その言葉を反芻する私に対し、ブーツとローブを脱ぎながら「隣、座ってもいいですか」と打ち解けた様子で語り掛けてきた。
「はい」
「失礼します」
彼女はゆったりした様子で座り、しばらく神妙な顔をしていたが、やがて
「本音を言うとですね…」
と切り出した。
「直接本人にも会ってみましたが、政治権力に後押しされた、如何にもなドラ息子なんですよ。見た所、能力も高くありませんし、なんだか上司である私にも上から目線な感じで話しますし、嫌な感じです。それに…ね?」
「私達の計画の妨げになりますね」
「ですよね。ですから、ここだけの話、事故に見せかけて排除しようと思っています」
一気にきな臭くなった。
それに疑問も残る。
「でもそれがラーラ様の過失だとみなされたら、伯爵から『お仕置き』を受けることになりませんか? 二人きりになった所であいつを殺害して、私達の計画をもう既に開始してしまう算段ですか?」
「そうではありませんよ。私が責任を負って円卓の一員から降ろされ、『キリカナム教団』戦で活躍し、かつ”ラーラに責任のある事故を止めようとした”貴女が”優秀な”代役として昇格するのです。その方が私は『裏』で動きやすく、貴女は『表』で動きやすくなるのです。その方がお互いの性に合っているでしょう?」
確かに、「秘密のラーラ」として舞台の上で「顔」を隠したまま踊るより、どの観客からも見られず、故に隠れる必要もない裏方に徹する方が、いっそのこと合理的かもしれない。
一方、私はここまで「期待の新人」として評価を連ね、伯爵等からの負の印象は少ないように思う。疑われずに、機が熟すまで「助演」することができる。
計画自体については問題ないだろう。
だが、彼女は質問の一部に未回答だった。
「『お仕置き』にあったら、どうするのですか?」
「それは仕方がありません。洗脳に掛かった振りをして大人しく。貴女も洗脳に掛かっていないことが悟られないよう、くれぐれも助けには来ないでください」
彼女の声色と表情から、覚悟が垣間見えた。
「そうですか」
胸が詰まったが、止めることは出来ない。
ただこう言う他なかった。
「その時が来たら、気をつけて」と
こうして、私達は解散した。
近頃は専ら「魔法の盗用」に夢中である。
狂信的な「キリカナム教団」が開発に心血を注いだ魔法たちは、律儀にも書籍の中に詳細に収まっていたので、ラーラの持ち出しのおかげで、こうして私達のものになっていくことになった。
少し前に修正されて再誕生したばかりの大義を成すために、順調に力を付けられている。
今日の訓練では新しくあの「重力を操る魔法」、「死天」を習得した。
心強い味方である。
訓練からの帰城後、玄関ではいつかの青髪の美少年執事、セインが出迎えた。
「閣下がお呼びです」
ラーラにそう伝言だけし、挨拶をして去っていった。
緊急召集の目的も気になったが、それ以上に一つ気になる事があった。
私はそれなりに長い訓練の末、魔力をより繊細に感知出来るようになった。
だが、あの執事からは微塵も魔力を感じ取れない。
全ての生物は、あらゆる活動の度に多かれ少なかれ魔力を体外に漏洩させる。
何も術を持たない一般的な人間が、ここまで放出魔力を抑えることができているというのは異常であった。
入浴と夕食を終え、自室に戻ってくると、扉が叩かれた。
「グレア様」
「どうぞ」
ラーラは入室すると、フードを取り、ベッドに座っている私の前に立った。
「どうしたんですか? 貴女の方から来るなんて珍しいですね」
「お伝えしたいことがありまして」
厳格なトーン。ただ事ではないと確信できた。
「実は、貴女の他に、新しく補助兵が入ることになりました。彼の名前はジェテム、年齢は十四歳。名家の出身で魔法学校卒業。『雷』魔法を専攻していたそうです。魔法学校出身ということで、試験が免除され、直接補助兵に抜擢されました。来週の初日から訓練に参加します」
ここまで言うと、その言葉を反芻する私に対し、ブーツとローブを脱ぎながら「隣、座ってもいいですか」と打ち解けた様子で語り掛けてきた。
「はい」
「失礼します」
彼女はゆったりした様子で座り、しばらく神妙な顔をしていたが、やがて
「本音を言うとですね…」
と切り出した。
「直接本人にも会ってみましたが、政治権力に後押しされた、如何にもなドラ息子なんですよ。見た所、能力も高くありませんし、なんだか上司である私にも上から目線な感じで話しますし、嫌な感じです。それに…ね?」
「私達の計画の妨げになりますね」
「ですよね。ですから、ここだけの話、事故に見せかけて排除しようと思っています」
一気にきな臭くなった。
それに疑問も残る。
「でもそれがラーラ様の過失だとみなされたら、伯爵から『お仕置き』を受けることになりませんか? 二人きりになった所であいつを殺害して、私達の計画をもう既に開始してしまう算段ですか?」
「そうではありませんよ。私が責任を負って円卓の一員から降ろされ、『キリカナム教団』戦で活躍し、かつ”ラーラに責任のある事故を止めようとした”貴女が”優秀な”代役として昇格するのです。その方が私は『裏』で動きやすく、貴女は『表』で動きやすくなるのです。その方がお互いの性に合っているでしょう?」
確かに、「秘密のラーラ」として舞台の上で「顔」を隠したまま踊るより、どの観客からも見られず、故に隠れる必要もない裏方に徹する方が、いっそのこと合理的かもしれない。
一方、私はここまで「期待の新人」として評価を連ね、伯爵等からの負の印象は少ないように思う。疑われずに、機が熟すまで「助演」することができる。
計画自体については問題ないだろう。
だが、彼女は質問の一部に未回答だった。
「『お仕置き』にあったら、どうするのですか?」
「それは仕方がありません。洗脳に掛かった振りをして大人しく。貴女も洗脳に掛かっていないことが悟られないよう、くれぐれも助けには来ないでください」
彼女の声色と表情から、覚悟が垣間見えた。
「そうですか」
胸が詰まったが、止めることは出来ない。
ただこう言う他なかった。
「その時が来たら、気をつけて」と
こうして、私達は解散した。
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