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第二章 前編
第三十二話
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広間の最奥、一際豪華な意匠が施された椅子の上にそいつは座っていた。
「よく辿り着いたね。やっぱり数ある選択肢の中から、わざわざ正面突破を選ぶだけの力はあるみたいだ」
小綺麗に整えられた赤い髪と切れ長の目が特徴的な、私と同世代の少年。
鎧や杖は持っていなかった。
どう見ても丸腰だが、余裕綽々であった。
「流石に訓練中の様子を見ることは出来なかったから、ここまでで君の使用魔法が分かって良かった。それだけでも犠牲になった同志は浮かばれるよ」
「なるほど、じゃあ帰ったら貴方のお仲間をもう一人消さないとですね? いいんですか?」
「構わないよ。潜入がバレなくても俺とか親父が死んだら、彼も自ら死を選ぶだろうし、彼の命に大した価値はないから。浮かばれるとか言ったけど、有象無象の生死なんて『善神』から見たら大きな違いはないからね」
「『善神』?」
この地域で一般的なのは一神教だ。
その派閥の多様さ故に、「キリカナム教団」もその一派だと思っていたのだが。
同時刻、最上階、ガラスの天井の下にて、ラーラは教祖の男、ホーバと対峙していた。
無精に伸びた赤色の髪と髭。
分厚いレンズが嵌まった眼鏡の奥に見えるものは正常な人のそれではなかった。
「私は真実を見た」
男は震える声で語りだした。
「神は二柱おられる。一方は破滅を、もう一方は救済を与える神だ。俗人どもはどうしてか一方を存在せぬものとするまやかしに心を狂わされている」
男は天を仰ぎ、嬉しそうに笑った。
「見よ、雲一つない快晴である。『善神』が見ておられるぞ。我々の勝利を約束しておられるぞ」
「そうですか。そこで一つ、話したいのですが」
「選ばれざる者よ、お前たちには何の希望もない。ただ私達に滅ぼされる運命である!」
そう宣言すると、男は両手に魔力を溜め始めた。
この瞬間、ラーラは「交渉」という選択肢を放棄した。
この男とは意思疎通が不可能であることが察せられたからである。
同時刻、左の回廊の最奥にある広間にて、バセリアは格闘していた。
バセリアが地面を全力で蹴り、勢いを維持したまま剣を叩きつける。
相手はそれを刀身で受け止め、流し、バセリアを横に大きく弾き飛ばした。
「やるな。お前、さては『泰然流』だな」
バセリアが素早く体勢を整え、距離を取る。
「よくご存知ですね…」
両目を布で隠した痩せこけた修道着姿の二刀流女剣士は、霧が囁くように答えた。
「お前、幽霊みたいで魔法が得意そうだが、使わないのか?」
「はい。私は剣士ですので…」
「なるほどな」
バセリアは剣を構え直した。
呼吸は乱れ、その額には汗が光っていた。
「よく辿り着いたね。やっぱり数ある選択肢の中から、わざわざ正面突破を選ぶだけの力はあるみたいだ」
小綺麗に整えられた赤い髪と切れ長の目が特徴的な、私と同世代の少年。
鎧や杖は持っていなかった。
どう見ても丸腰だが、余裕綽々であった。
「流石に訓練中の様子を見ることは出来なかったから、ここまでで君の使用魔法が分かって良かった。それだけでも犠牲になった同志は浮かばれるよ」
「なるほど、じゃあ帰ったら貴方のお仲間をもう一人消さないとですね? いいんですか?」
「構わないよ。潜入がバレなくても俺とか親父が死んだら、彼も自ら死を選ぶだろうし、彼の命に大した価値はないから。浮かばれるとか言ったけど、有象無象の生死なんて『善神』から見たら大きな違いはないからね」
「『善神』?」
この地域で一般的なのは一神教だ。
その派閥の多様さ故に、「キリカナム教団」もその一派だと思っていたのだが。
同時刻、最上階、ガラスの天井の下にて、ラーラは教祖の男、ホーバと対峙していた。
無精に伸びた赤色の髪と髭。
分厚いレンズが嵌まった眼鏡の奥に見えるものは正常な人のそれではなかった。
「私は真実を見た」
男は震える声で語りだした。
「神は二柱おられる。一方は破滅を、もう一方は救済を与える神だ。俗人どもはどうしてか一方を存在せぬものとするまやかしに心を狂わされている」
男は天を仰ぎ、嬉しそうに笑った。
「見よ、雲一つない快晴である。『善神』が見ておられるぞ。我々の勝利を約束しておられるぞ」
「そうですか。そこで一つ、話したいのですが」
「選ばれざる者よ、お前たちには何の希望もない。ただ私達に滅ぼされる運命である!」
そう宣言すると、男は両手に魔力を溜め始めた。
この瞬間、ラーラは「交渉」という選択肢を放棄した。
この男とは意思疎通が不可能であることが察せられたからである。
同時刻、左の回廊の最奥にある広間にて、バセリアは格闘していた。
バセリアが地面を全力で蹴り、勢いを維持したまま剣を叩きつける。
相手はそれを刀身で受け止め、流し、バセリアを横に大きく弾き飛ばした。
「やるな。お前、さては『泰然流』だな」
バセリアが素早く体勢を整え、距離を取る。
「よくご存知ですね…」
両目を布で隠した痩せこけた修道着姿の二刀流女剣士は、霧が囁くように答えた。
「お前、幽霊みたいで魔法が得意そうだが、使わないのか?」
「はい。私は剣士ですので…」
「なるほどな」
バセリアは剣を構え直した。
呼吸は乱れ、その額には汗が光っていた。
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