魔王メーカー

壱元

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第二章 前編

第二十四話

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 朝食後、集合が掛けられた。

私は耳を疑った。

会議場所は円卓の間だった。

 まさか再び座るとは夢にも思わなかった椅子に確かに腰掛けると、「秘密のラーラ」と「疾風のバセリア」、そして兵長の顔を代わるがわる窺い見た。

「全員が揃った。始めよう」

豊かな髭を蓄えた老兵は静かに切り出した。

「近衛兵『秘密のラーラ』、補助兵グレアを襲った輩の所属が判明した。ジャサー地方西端のエボン山で魔法の研究・開発を行っている宗教団体『キリカナム教団』だ。彼奴らの総統を捕らえるよう、閣下は命じられた」

「ただの威圧が目的なのか?」

バセリアが霧の中に一閃を入れた。

鈍感な彼女もこの少数精鋭が集う「真の理由」に気付いているようだ。

「…本格的な調査の結果、連中は徐々に武装を固め、愚かにも謀反を企てていることが分かっている。『秘密のラーラ』、『疾風のバセリア』、補助兵グレア、貴殿らには拠点を奇襲し、教祖のホーバという男を捕縛してもらう。構成員はどれだけ殺害しても構わない」

 作戦の決行は来週だ。

翌日、それに備えた合同訓練が開始された。

互いの能力を確かめ合い、考え得る諸状況に抗する連携をこなし、初日は終了した。


「一緒に風呂でも入るか?」

練習後、バセリアはそう、少々ぎこちなくも誘ってくれた。

私は「喜んで」と彼女に追従した。

 バセリアの身体には案の定、「外敵」によるものではない無数の傷があった。

衣服に隠れて目立たない部分に集中している。

彼女は腰掛け、湯と石鹸でその大きな身体を自らの手で隅々まで磨いていたが、いくら妨げになろうとやはり例のネックレスは決して外そうとしなかった。

 身体を洗い終え、並んで湯船に浸かりながら、いくつか彼女に質問してみた。

バセリアはジャサー地方のとある村を守る剣士の家に生まれた。

ある日、強力な魔物の群れに襲われ、一家は立ち向かったが、混戦の中で彼女は倒れてきた家にのしかかられて意識を失い、再び目覚めて瓦礫から這い出たときには例外なく皆殺され、皮肉にも生き残ったのは彼女だけだったという。

「使命を全うできなかった守護者に生きる意味はない」

彼女はそう言った。

襤褸布に身を包み、無一文で旅していた彼女を、若き日の辺境伯は保護。その腕を買い、「ジャサー地方を護る」という新たな使命を与えてくれたという。

「閣下はあたしの恩人なんだ」

「なるほど。だから今も慕っているのですね」

「そうだ」

 私は獲得したいくつかの情報を脳に収容し、風呂から上がった。


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