魔王メーカー

壱元

文字の大きさ
上 下
44 / 155
第二章 前編

第十六話

しおりを挟む
 私達は並んでベッドの上に座った。

「そういえば」

今度は私の方から切り出す。

「伯爵は、どうして私を殴ったのでしょう?」

「ああ…あの人は昔からそういう『へき』なのです」

「へき?」

私が不思議に思って尋ねると、ラーラははっとした様子で口元を隠した。

「何でもないです。あの人は『美しいものを自分の手で傷つけること』がお好きなのです。…思い出してください。貴女、私、バセリア、それからあの執事…セインと言うのですが…あと、女中たち。全員容姿端麗といえませんか?」

「あ、確かに!」

それに、あの作業部屋にあった壺。

恐らくあれも伯爵が破壊したものだろう。

「では、ラーラ様も、その、殴られたのですか?」

ラーラは黒い丈の長い服を着ていたが、その裾を掴んでたくし上げた。

紫色の光を受けた真っ白なお腹には、痣が薄く残っていた。

「…そんなまじまじと見られると、少し恥ずかしいです」

「あ、ごめんなさい」

彼女は服装を元に戻し、話を再開した。

「ところで、そのネックレス。それに手を触れてみてください」

「…? はい」

私は手を近付けた。しかし、ネックレスに触れる寸前でどうしても止まってしまう。

「あれ?」

「…やっぱり」

ラーラは真剣な顔で私からネックレスを取った。

「これだけ配下に対して横暴を極めているのに、伯爵は『名君』で居られるのか気になりませんか? その理由がこれです。このネックレスには、所謂『洗脳魔法』が掛かっています。初期段階では『取り外しを禁止する』効能しか持ちませんが、睡眠などで着用者の意識が不鮮明になっている間に、宝石によって洗脳が進行し、『指定された人物の行動を無条件に合理化する』ようになります。そして、それは、仮にネックレスを外しても効果を失わないのだと思われます。…付けていないと怪しまれますから、掛けられている魔法だけを打ち消します」

小さな両手で宝石を握ると、彼女は器用にもそれに魔力をぶつけた。

「消えました。付けても大丈夫です」

「ありがとうございます」

受け取ったネックレスからは確かに魔力が消えていた。

 その後も色々話したが、夜も深まってきたので、解散することにした。

私が立ち上がり扉の前まで行くと、彼女は小さく手を振った。

「おやすみなさい、私の素敵な共犯者さん」

「おやすみなさい」

私は階下の自室に移動した。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

処理中です...