魔王メーカー

壱元

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第二章 前編

第六話

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 十人の老若男女が坐していた。

内八人は先程の近衛兵で、「疾風のバセリア」も居た。

「紹介しよう。目的であったグレアだ。明日以降、諸君らの世話になる」

私は着替え中に女中に教えてもらったように、スカートの裾をつまんで持ち上げつつ、お辞儀した。

「ご紹介に預かりました、グレアと言います。よろしくお願いします」

私が挨拶を終えると、皆が拍手をしてくれた。

「グレアよ」

ふと閣下に話しかけられた。

「君には明日以降、いくつか試験を受けてもらう。君の才について、噂には聞いているが、色々と確かめさせてくれ。…もし我々が望むような結果でなくとも、少なくともこの町で暮らせるようには計らってやるから安心してくれ」

「…わかりました」

やはり私に拒否権はない。

ここでこの重大事項を説明したのは、色々理由があるだろうが、閣下の鋭さが感じられた。

 椅子が用意され、私はバセリアと衛兵の間に座った。

しばらくすると、食事が運ばれてきた。

先程の女中に丁重に配膳されたのは、水の入った器と純白の布巾。

周囲の様子を見るに、これらは食事ではなく、どうやら手を洗う為の物らしい。

器の水で手を洗い布巾で拭くと、それらは回収され、今度はパンとスープが運ばれてきた。

丸い白パンを千切り、口へ運ぶと、その素朴だが奥深い味わいに驚かされる。

私はこの食事の虜となって、夢中でスプーンを掴み、スープを掬い上げた。

思わず笑顔になったのが自覚された。

玉ねぎや人参の出汁に加え、故郷では滅多に食べられなかった牛の肉が、ごろごろ入っているのだ。

「旨いか?」

横から声を掛けられた。

バセリアだ。

その顔の輪郭はシュッとしていて、緑碧色のツリ目は優しげで、鼻も細く整って、ガラス細工のように美しかった。

「美味しいです」

返答を聞いて、彼女は微笑んだ。

「そうか、良かったな。もしここに配属されれば、お前は毎日美味いものが食えるぞ。だから試験、頑張れよ」

バセリアは不器用だが、いい人だ。

 

 客人用の部屋が貸し出された。

寝間着に着替えると、ベッドに寝転び、漫然と天井を見上げた。

「明日は試験かぁ。どんな感じなんだろ」

伯爵は担当者を明言しなかった。個人的に質問する時間も与えず、彼は引っ込んでしまわれた。

あの二人、例の「黒フード」、それから食事中に私に鋭い視線を送り続けていた、女中の親玉のようなおばさん。

「あの二人だったら嫌だなぁ」

言葉は、柔らかな月光の中を漂った。



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