魔王メーカー

壱元

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第二章 前編

第五話

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 階段を幾度となく上り、見上げるほどの高さであった石城の上層階に辿り着いた。

そこには、事前通達を受けた女中たちが待っていた。

「例の子だ、着替えさせてやってくれ。…グレアよ、挨拶があるから君にはまず身なりを相応に整えてもらう。彼女らが君の手伝いをする」

「わかりました」

私が返事をすると、閣下はにこりと笑った。

「さあ、行きましょう」

私は女中たちに丁寧に導かれ、二つ隣の、姿見が設置してある部屋に入った。

改めて見ると、服は元々質が良くない事に加え、よりにもよって見栄えが劣化するよう計算されたかのような位置に、ちょうど血痕や破損が点在し、私は「役人」というより「奴隷」に見えるのであった。

不意に首元に手が伸びてきた。

私は驚き、思わず払い除けてしまった。

「あ、ごめんなさい!」

「大丈夫ですよ」

彼女はそう言ってくれ、

「私達が脱がせますから、グレア様はゆったりとお立ちになっていてくださいませ」

あれは脊髄反射のような物で、私には元から彼女の仕事を妨げる気などなかった。

ぼろ布の服は手際良く脱がされ、すぐに上等な白いドレスが私の身体を包み込んだ。

私はその「ぼろ布」に執着がなかった訳では無いが、体験したことのない程きめ細かな生地に肌を触れていると、自然と笑顔になり、心も絆されていくのだった。

服は私に似合っていたと思う。

 私が部屋から出てくると、すぐそこで閣下が待っていた。

「似合っているじゃないか」

彼はそう言って頬を緩ませた。

「行くぞ」

ドアを開け、入った先には、様々な家具があった。

どれも細かな装飾が入っていて、あらゆる素材が高級なのが素人目にも理解できた。

ただ一つ、作業机の上に置いてある、花の模様が綿密に刻み込まれた壺だけはその大部分を失い、ヒビが入ったままであるのが変に気掛かりだった。

止まっている暇など無かった。

ドアが開くと、豪壮な円卓と、それを囲んで座っている人たちが見えた。


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