魔王メーカー

壱元

文字の大きさ
上 下
30 / 131
第二章 前編

第二話

しおりを挟む
 向こうから、鎧や武器を装備した男女数人と、その主君であろうか、赤い上質な服と立派な口ひげが特徴的な中年男性が、馬に乗って移動して来る。

「木を隠すなら森の中」。

私は敢えて隠れず、単なる一通行者として、堂々と歩くことにした。

そのうち、例の団体が接近し、何事もなく通り過ぎていった。

しかし通過後すぐに、蹄の音が止まった。

「待ってくれ」

首班は後続にそう指示すると、自ら下馬し、私に近付いてきた。

「逃げないでくれよ。危害を加えるつもりはない」

警戒する私にそう穏やかに声を掛けた。

「一つ質問したいことがあるのだがよろしいかな、お嬢さん?」

「…はい」

警戒心が無かったわけではないが、私は応じてみることにした。

「サバテ山麓のとある村に、真珠のように美しい容姿と人並み外れた魔法の才を兼ね備えた娘が居ると聞いた。私は彼女の能力を買いに行こうとしていたのだが、もしかして、それは君ではないか?」

「…能力を買うって、どういうことですか?」

「君の優れた力を、私と、このジャサー地方の為に使おうということさ。君が望むものと引き換えにね。…申し遅れたな」

彼はそう言うと、まるで王を相手にしているかのように、片手を胸の前にやって、丁寧にお辞儀をした。

「私はジャサー地方、もといジャサー領統治の命を国王より承った『レイホーン家』が三代目当主、シーゾ・ハシレオス・レイホーンだ。改めて問おう、君はその才能を民と自分自身の為に使ってみる気はないか?」

相手がこの地域で最大の統治者だと知り、私はたじろいだ。

彼の後方に佇む凍てつく顔の近衛兵たちを見て、「既に首に刃を突きつけられている」と思った。「これは交渉であって交渉ではない」と。

それに、どのみち今の私には行く宛がない。

「はい」

私は頷いた。

「閣下、どうか私にご奉仕させてください」

私が平伏すると、彼は「良し」と一言。そして優しく私を抱き上げ、馬の上に乗せた。

「しっかり掴まっていろ」

背中側の私に送った眼差しは優しかった。

「はい」

私は指示通り、しっかりと閣下の大きな身体に掴まった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件

フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。 寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。 プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い? そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない! スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

処理中です...