魔王メーカー

壱元

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第一章

第二十一話

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 私がアルクとの関係を両親に話さずおいた、その理由は一つに断定できない。

「しがらみから解放された『個人と個人』という密接な間柄から『家とよその子』、或いは『家と家』の関係に変わってしまうことに居心地の悪さや災いの種を観ていたから」と言えるし、「喜ばしい物であっても自らの心中に留め置くことで、少し『気分転換』をしてみたかったから」でも「めったに嗜めない背徳感の味を楽しんでいたい」でもあるだろう。

だが語ってしまったら、案外、大事ではなかった。

毎朝の習慣を語り聞かせると、二人は嫌な顔ひとつせず、

「なら、みんなで早めに寝るか」

「そうね。それならその分早く起きられるし」

と、むしろ楽しみに感じているようにも見えた。

結局、二人は私の行動を全面的に肯定し、「できるだけの協力をする」と言ってくれたのであった。


 夜、私達は村長宅の方に集合するよう命じられた。

「奇妙な事が起こっておる」

演説用の台に立った村長がそう話し始めた。

蝋燭の火に照らされて陰影がはっきりしたその顔は、まるで切り立った山のようだった。

傍らでは、彼の息子たちが立って、厳しい形相を浮かべていた。

「三日前に木こりのホバとディガーが森に木を切りに行って、未だに帰って来ない。お前たちの中にこれについて何かしら知っている者がいれば、村の為に是非とも話してくれ」と彼は言った。

群衆のざわめきの中で、嫌なものだが、私はいくつかの視線が猜疑心を帯びて自分に向けられているのを感じていた。

 ざわめきが終息すると、村長は一言だけ言った。

「森には近付くな」


 集会は「おひらき」になって、私達は帰宅した。

無言の帰り道、事件について緩慢に考察していると、何か引っかかるところがあった。

だが、その正体などさして興味がなかった。

「明日アルクとどう接すればいいか」という議題に思考の大半を捧げていたのだ。

私は、浮かれていたのかもしれない。







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