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第一章
第十五話
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明け方、私は静かにベッドから身体を起こし、音も立てずに服を着替えて靴を履き、芝生の方へと歩いて行く。
アルクは先に来て、芝生の上に座っていた。
「おはよう」
「おう! おはよう」
私は彼の隣に腰を下ろした。
その時、彼が、何やら見慣れない角ばった物を手に持っているのが分かった。
「それ何?」
「これは、俺んちにあった『本』だ。お前なら読めるかもしれないと思って持ってきた」
彼はそれを開いてみせた。
何枚にも重なった茶色の薄い物の上に、何やら黒い曲がりくねった物が並んでいる。
「紙と文字、だね?」
「やっぱり知ってるんだな。見たことがあるのか?」
「いや…」
彼は目を大きく見開いた。
私の方も不意に発生した彼の表情の変化に驚いた。
「どうしたの?」
「いや…」
アルクは面白げに笑みを浮かべながら、本の方に視線を移した。
「文字は読めるのか?」
「読む?」
私はここで初めて、これが「意味」を持つものであると理解した。なにしろ前提知識もなければ、これが文字との初邂逅であったからだ。
「恥ずかしがる必要はないぞ。読めないのが普通だ。俺は父さんに教えてもらったから読めるけど、それは珍しいことだ」
「やってみる」
私はその「文字」とやらに顔を近付けてみた。
すると、我ながら信じ難いことに、先程まで単なる「印」だった文字たちから、声が聞こえてきた。
声は連続し、私達が日々何気なく口から発しているものと同じように、ひと繋ぎの「話」に変化していった。
「『布地の切り方について』…」
私は一心不乱に黙読していた。
ページを捲る手が止まらない。
あっという間に一冊を読み終えてしまった。だが、そこで、私の読書の始点はこの本においては中盤であったことを初めて意識した。
あくまで私に識字を問うだけの為に、アルクが適当に選んだページだったのだ。
私は最初の方も読みたいと思って、重たいこの本をぐるんと回し、表紙と向かい合った。
丁度その時、「ちょっと待て!」とアルクの制止を受けた。
「お前、すげえな」
彼は顔を上気させながら言った。
額には汗が光っていた。
アルクは先に来て、芝生の上に座っていた。
「おはよう」
「おう! おはよう」
私は彼の隣に腰を下ろした。
その時、彼が、何やら見慣れない角ばった物を手に持っているのが分かった。
「それ何?」
「これは、俺んちにあった『本』だ。お前なら読めるかもしれないと思って持ってきた」
彼はそれを開いてみせた。
何枚にも重なった茶色の薄い物の上に、何やら黒い曲がりくねった物が並んでいる。
「紙と文字、だね?」
「やっぱり知ってるんだな。見たことがあるのか?」
「いや…」
彼は目を大きく見開いた。
私の方も不意に発生した彼の表情の変化に驚いた。
「どうしたの?」
「いや…」
アルクは面白げに笑みを浮かべながら、本の方に視線を移した。
「文字は読めるのか?」
「読む?」
私はここで初めて、これが「意味」を持つものであると理解した。なにしろ前提知識もなければ、これが文字との初邂逅であったからだ。
「恥ずかしがる必要はないぞ。読めないのが普通だ。俺は父さんに教えてもらったから読めるけど、それは珍しいことだ」
「やってみる」
私はその「文字」とやらに顔を近付けてみた。
すると、我ながら信じ難いことに、先程まで単なる「印」だった文字たちから、声が聞こえてきた。
声は連続し、私達が日々何気なく口から発しているものと同じように、ひと繋ぎの「話」に変化していった。
「『布地の切り方について』…」
私は一心不乱に黙読していた。
ページを捲る手が止まらない。
あっという間に一冊を読み終えてしまった。だが、そこで、私の読書の始点はこの本においては中盤であったことを初めて意識した。
あくまで私に識字を問うだけの為に、アルクが適当に選んだページだったのだ。
私は最初の方も読みたいと思って、重たいこの本をぐるんと回し、表紙と向かい合った。
丁度その時、「ちょっと待て!」とアルクの制止を受けた。
「お前、すげえな」
彼は顔を上気させながら言った。
額には汗が光っていた。
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