魔王メーカー

壱元

文字の大きさ
上 下
15 / 160
第一章

第十四話

しおりを挟む
 自らの正気を確信していた私は、それすら狂気の範疇だったのかと疑った。

本当に夢のようだった。

最初、彼は目を丸くしていた。

だが、すぐに安心したように優しい笑みを浮かべて、私の方に近寄ってきた。

私は身体を動かすことが出来なかった。

あれ程まで爆発していた感情はそのうちのたった一つに収容され、屍のようになった私の喉の奥からせり上がって来ていた。

「どう…して…?」

零れ落ちるように出た言葉だった。

「なんだか、お前がここに居る気がしたんだ。でも本当に居るなんて思わなかった」

「そう、なんだ」

自分から質問しておきながら、私はその答えに丁寧に応答してあげることが出来なかった。

「お前の方こそ、どうしてまだ夜なのにここに居るんだよ?」

どうしてここに居るのだろう?

そうだ。そうだった。

戸惑いの表情が見えた。

「どうした? 大丈夫か、グレア?」

「寂しかった。アルクが居なくなると思って…」

止めどなく溢れる涙と感情でどろどろになっていたので、彼がそれを聞き取ることが出来たかは分からない。

でも、彼は私を優しく抱きしめてくれた。


 私が泣き止むまで、彼は抱擁を続けてくれた。

「出て来たはいいんだけど、遠吠えが聞こえて、怖くて帰れなくなっちゃってさ」

落ち着いてから、私は具体的な経緯を彼に説明した。

「ああ、それなら…」とアルク。

「父さんが言っていた。なんか最近狼が村に降りてこなくなったってよ。どころか森の方でもあまり狼の居た跡が見つかんないらしいぞ。遠吠えはきっと山奥のヤツだぞ」

それに、とアルクはにんまり笑いながら、東を指さした。

山の間から、朝日が差し込む。

「狼が来るのは真夜中だ。話を聞く限り、お前、結構朝方に来たみたいだぞ。だから、そもそも怖がんなくていいんだぞ」

「え、そうなんだ…」

アルクが教えてくれなかったら、知ることは出来なかっただろう。

「ふっ」

私は微笑んだ。


 昇ってくる朝日を二人並んで眺めていた。

「なあ」

アルクが言う。

「何?」

「父さんは許してくれたけど、母さんはそうじゃないんだ」

やっぱりそうか、と思った。

落胆しかけた時、アルクの口が再び動いた。

「だから、秘密にして会わないか? こんな朝の早い時間とかによ」

無意識に私の口角は上がった。

「そっちが大丈夫なら、そうしたいな」

「じゃあ、決まりだな!」

アルクは元気に笑った。

この笑顔を見ているだけで、どんな辛いことも乗り越えられる気がする。

それはきっと私が彼を特別に思っているからだろう。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

処理中です...