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第一章
第十四話
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自らの正気を確信していた私は、それすら狂気の範疇だったのかと疑った。
本当に夢のようだった。
最初、彼は目を丸くしていた。
だが、すぐに安心したように優しい笑みを浮かべて、私の方に近寄ってきた。
私は身体を動かすことが出来なかった。
あれ程まで爆発していた感情はそのうちのたった一つに収容され、屍のようになった私の喉の奥からせり上がって来ていた。
「どう…して…?」
零れ落ちるように出た言葉だった。
「なんだか、お前がここに居る気がしたんだ。でも本当に居るなんて思わなかった」
「そう、なんだ」
自分から質問しておきながら、私はその答えに丁寧に応答してあげることが出来なかった。
「お前の方こそ、どうしてまだ夜なのにここに居るんだよ?」
どうしてここに居るのだろう?
そうだ。そうだった。
戸惑いの表情が見えた。
「どうした? 大丈夫か、グレア?」
「寂しかった。アルクが居なくなると思って…」
止めどなく溢れる涙と感情でどろどろになっていたので、彼がそれを聞き取ることが出来たかは分からない。
でも、彼は私を優しく抱きしめてくれた。
私が泣き止むまで、彼は抱擁を続けてくれた。
「出て来たはいいんだけど、遠吠えが聞こえて、怖くて帰れなくなっちゃってさ」
落ち着いてから、私は具体的な経緯を彼に説明した。
「ああ、それなら…」とアルク。
「父さんが言っていた。なんか最近狼が村に降りてこなくなったってよ。どころか森の方でもあまり狼の居た跡が見つかんないらしいぞ。遠吠えはきっと山奥のヤツだぞ」
それに、とアルクはにんまり笑いながら、東を指さした。
山の間から、朝日が差し込む。
「狼が来るのは真夜中だ。話を聞く限り、お前、結構朝方に来たみたいだぞ。だから、そもそも怖がんなくていいんだぞ」
「え、そうなんだ…」
アルクが教えてくれなかったら、知ることは出来なかっただろう。
「ふっ」
私は微笑んだ。
昇ってくる朝日を二人並んで眺めていた。
「なあ」
アルクが言う。
「何?」
「父さんは許してくれたけど、母さんはそうじゃないんだ」
やっぱりそうか、と思った。
落胆しかけた時、アルクの口が再び動いた。
「だから、秘密にして会わないか? こんな朝の早い時間とかによ」
無意識に私の口角は上がった。
「そっちが大丈夫なら、そうしたいな」
「じゃあ、決まりだな!」
アルクは元気に笑った。
この笑顔を見ているだけで、どんな辛いことも乗り越えられる気がする。
それはきっと私が彼を特別に思っているからだろう。
本当に夢のようだった。
最初、彼は目を丸くしていた。
だが、すぐに安心したように優しい笑みを浮かべて、私の方に近寄ってきた。
私は身体を動かすことが出来なかった。
あれ程まで爆発していた感情はそのうちのたった一つに収容され、屍のようになった私の喉の奥からせり上がって来ていた。
「どう…して…?」
零れ落ちるように出た言葉だった。
「なんだか、お前がここに居る気がしたんだ。でも本当に居るなんて思わなかった」
「そう、なんだ」
自分から質問しておきながら、私はその答えに丁寧に応答してあげることが出来なかった。
「お前の方こそ、どうしてまだ夜なのにここに居るんだよ?」
どうしてここに居るのだろう?
そうだ。そうだった。
戸惑いの表情が見えた。
「どうした? 大丈夫か、グレア?」
「寂しかった。アルクが居なくなると思って…」
止めどなく溢れる涙と感情でどろどろになっていたので、彼がそれを聞き取ることが出来たかは分からない。
でも、彼は私を優しく抱きしめてくれた。
私が泣き止むまで、彼は抱擁を続けてくれた。
「出て来たはいいんだけど、遠吠えが聞こえて、怖くて帰れなくなっちゃってさ」
落ち着いてから、私は具体的な経緯を彼に説明した。
「ああ、それなら…」とアルク。
「父さんが言っていた。なんか最近狼が村に降りてこなくなったってよ。どころか森の方でもあまり狼の居た跡が見つかんないらしいぞ。遠吠えはきっと山奥のヤツだぞ」
それに、とアルクはにんまり笑いながら、東を指さした。
山の間から、朝日が差し込む。
「狼が来るのは真夜中だ。話を聞く限り、お前、結構朝方に来たみたいだぞ。だから、そもそも怖がんなくていいんだぞ」
「え、そうなんだ…」
アルクが教えてくれなかったら、知ることは出来なかっただろう。
「ふっ」
私は微笑んだ。
昇ってくる朝日を二人並んで眺めていた。
「なあ」
アルクが言う。
「何?」
「父さんは許してくれたけど、母さんはそうじゃないんだ」
やっぱりそうか、と思った。
落胆しかけた時、アルクの口が再び動いた。
「だから、秘密にして会わないか? こんな朝の早い時間とかによ」
無意識に私の口角は上がった。
「そっちが大丈夫なら、そうしたいな」
「じゃあ、決まりだな!」
アルクは元気に笑った。
この笑顔を見ているだけで、どんな辛いことも乗り越えられる気がする。
それはきっと私が彼を特別に思っているからだろう。
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