魔王メーカー

壱元

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第一章

第十三話

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 帰り道、私は考えた。

先程の別れの言葉はもっと良いものに出来たかもしれない、だとか、会えなくなる確率はどれくらいだろうか、とかいう風に色々と。

ただ一つ言えるのは、私は唯一の友人だったアルクを失っても予想以上に平坦で冷静である私自身に猜疑と憎悪を覚えていた、ということだ。

きっと私は薄情で、彼のことを知り合いの派生のような関係に当てはめてしまっていたのかもしれないと、曖昧に考察していた。

 お父さんとお母さんは優しく私の事を慰めてくれ、三人で食べる夕食はいつもと変わらず美味しかった。

だが何かが引っかかっていた。何かを何処かに置き去りにしているような気がした。

「おやすみ」

蝋燭の火を消し、私達はベッドに横になった。


 夜中に突然目が覚めた。

私の頬を、大粒の涙が伝っている。

私は、泣いていた。

夢の内容は憶えている。

アルクが永遠に続く夕暮れの野を、独り申し訳なさげに笑いながら、見えなくなるまで歩いて行ってしまう夢だ。

私は居ても立っても居られなくなって、身体を起こし、夜半の村に飛び出した。

夜風が寝汗を冷やし、意識は徐々に明瞭になってきた。

私は裸足のまま、思い出の芝の方へ走って行った。

芝生の上に座り込んだ時、私の脳裏に、いくつもの記憶が流れた。


アルクとの他愛のない話の記憶、アルクと一緒にあの三人と仲良くなる為の作戦を相談した記憶、アルクと初めてここに来た時の記憶…


私はいつの間にか、膝を抱え、鼻水を啜りながら泣いていた。

あの眩しい笑顔も、無骨で暖かい手も、優しい目も、もう二度と帰ってこないと思うと、たまらなかった。

昼間は薄情だったのに、どうして今になって、予想よりも何百倍も悲しいのだろう。


 私は瞼が痛くなるまで泣き続けた。

しかし、その時、確かに森の方から狼の遠吠えが聞こえた。

私の感情は一瞬にして切り替わった。

「エボンウルフ」は夜行性だ。

毛色は夜闇に同化し、この村にも稀に下りてくる危険な魔物だ。

だから村民は、夜に出歩かない。

私の身体が震えていたのは、冷えが原因ではなかった。

だが、その恐怖の裏側で、愚かな考えが頭角を表した。

そうだ。狼に襲われれば、あのときのように勇敢なあの子が助けに来てくれるだろう。

今度は私が救われる側だ、と冗談半分に画策した。

いっそのこと何もかも忘れて狼に食べられてしまおうか、とも思った。

「はは…」

私は自嘲した。

彼のために思考まで狂ってしまった。別れが確定していないのに「最悪」を想定して、勝手に泣き崩れた。

私は彼を愛していたのだろう。

すっかり冷静になり、もう帰ろうと思った。

一歩を踏み出した時、すぐそこに人影が見えた。

アルクだった。
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