魔王メーカー

壱元

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第一章

第八話

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お母さんの手伝いが一段落した。

「じゃあ、行ってくるね」

「うん、行っておいで」

私は小麦畑を越え、井戸の方に行った。

井戸の前では、既にアルクとあの三人が待っていた。

「待ってたぞ、グレア」

「うん。今日はどこに遊びに行くの?」

「そうだな、暑いし滝の方に行こうぜ」

五人での三度目の遊びの舞台は、アルクの提案で近くの森の中にある小さな滝壺になった。

 一列になって木の中に分け入り、森の中の細い道を進んでいく。

滝の音がほんのり聞こえるところでのことだった。

「わっ」

途中、私は転んでしまった。

突き出た木の根に足を取られてしまったのだ。

「大丈夫か?」

真っ先に、先頭に居たアルクが近付いてきて手を差し伸べてくれる。

私はその手を取って立ち上がる。

アルクの手は無骨で、大きくて、そして暖かかった。

「ありがとう」

「怪我してねえか?」

「あっ、えと」

私は服の裾を上げ、足を確認した。

「大丈夫。砂が付いただけ」

彼は本当に優しい。

優しい人には心配や不安から離れていて、幸せでいて欲しい。

私は少しだけ大げさな動作で砂を払った。

 それからまもなくして滝に着いた。

それは聞いていたよりも倍以上小さく、私達の肩幅くらいに広がった水が、私達の背丈の二倍くらいのところから落ちているだけだった。

でも勢いは一丁前で、だからだろうか、滝壺は深くて、溜まっている水もかなり多かった。

流石に泳ぐのは無理でも、水遊びくらいはできそうだ。

「よし、遊ぼうぜ!」

みんなで水の中に飛び込んだ。

「うお、冷てえ」

「冷たいね」

「びっくりした」

水の冷たさに驚き、皆口々に感想を言い合った。

そんな中、アルクは何か思いついたみたいだった。

「それ!」

アルクが水をザバッと飛ばしてくる。

私達は楽しい悲鳴を上げた。

「やったなー!!」

水の掛け合い合戦の水蓋が切って落とされた。

バシャバシャ音と楽しげな声がしばらく続いた。

みんなが疲れてきた頃、私はとっておきの一撃を用意した。

水中に隠した両手に慎重に魔力を溜める。

いつもより弱く、大分弱く…

「やあ!」

突然、何の変哲もない溜まり水が、勢いよく飛び出す。

水が掛かり、みんなは一瞬驚いたが、すぐに二カッと笑った。

「おい、それなら俺も出来るぞ」

アルクがそう言って両手を組み合わせ、巧みに水をピュッと出す。

「すごいよ」

私が拍手すると、他の三人も釣られた。

だが、独り占めの称賛を受けながらアルクは言った。

「いや、やってみたらわかった。グレアの方がすげえ。お前ら、グレアにも拍手しろよ」

なんと、拍手は一転して私に向いた。

私は嬉しくなった。

今まで魔法は私を悪者にしてきた。

でも、今は違う。

これから誰に対しても、その人を喜ばせるために魔法を使おうと思った。

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