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第一章
01-13「神曲」
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ソウ達は「第6区」北部デスティニーヒルの中央に聳える白色の外装が特徴的なドーム:ホイール・オブ・フォーチュンスタディウムに来ていた。
「大きいな…」
前回はそう不安げに呟いていたトクスも、今はその目に覚悟の色が見て取れる。
敵は相変わらず大きい。だが、今回は前と違って怖気付くなんてことはしない。
「行こうよ」
ソウがふと口にした号令に、皆が頷いた。
「そうね」
「行きましょう」
「そうだな」
「ああ」
「はい!」
挑戦者達は敵地へと歩んでいった。
装備をしっかりと身に付け、呼吸と共に精神を整える。
「わかっているわね?」
ミナーヴァがツインテールを結び改めながら問うてくる。
「うん。君と俺の勝負のことでしょ?」
「そうよ。試合の激しさで忘れるんじゃないわよ。でもそればっかりに気を取られていたらみんなに迷惑をかけるわ。それに、そんな時こそあたしがあんたを出し抜くから」
「わかった。気を付ける」
気づけば準備が整い、レインが手をかざして自動ドアを開ける。
「行きますよ。聞こえていますか?」
「もちろんよ!」
ミナーヴァがムッとした様子で答え、ソウも無言で頷く。
いよいよ廊下の暗闇に出て、光の方へと歩いていく。
「両チーム、入場です!」
アナウンスが観客を沸かせ、ドームはまるで屋根に当たる豪雨のような音で一杯になる。
ミナーヴァが先頭に立ち、一瞬後ろを振り返る。
三人は互いの目を見つめ合い、意思を通じ合った。
ついにその姿を衆目に晒す。
観客席は信じがたいほど高く、何段もあったが、その全てに観客が隙間なく詰まっていた。
面白そうなカードでなければ、有名チームの試合でもここまでにはならない。
(見てなさい! そのチケット価格、これから「お値打ち」に変えてあげる!)
ミナーヴァは相手を見据えた。
敵は…ダンテ、ジュカイ、マーク。
ダンテは白と赤の伝統的な丈の長い服を何枚も着ていて、頭の回りには月桂冠を彷彿とさせる、硬葉を象った飾り付きの金色の輪が浮いていた。
武器は…
視線を落としたミナーヴァは戸惑った。
今までの古典的な白色の両刃剣ではない。未観測の脅威がそこにはあった。
柄から先端まで1mはありそうな、真っ赤な大槌。
炎を象ったような不規則な形状をしている。
「美しいでしょう?」
突然話しかけられ、ミナーヴァは返事が出来なかった。
「この試合に合わせて特注したんです」
「そうなのね。じゃあ使い慣れていないんじゃないの?」
「はい。皆さんが初めてです。お手柔らかにお願いしますね」
(「お手柔らかに」…なんて、こっちの台詞よ!)
馬鹿にされたように感じ、ミナーヴァは目を尖らせた。
「無理よ。徹底的にやらせてもらうわ!」
「そうですか。それならそれでいいでしょう」
実物のジュカイは大きい。
ミナーヴァが165cm程度、レインの背丈が170cm弱、ソウは180cm前後として、195cmはあるだろうか…
そんな大男は、額に白色ネオンの鉢金を巻き、髪色と同じ暗緑の忍装束に身を包み、太ももと腰に大量のクナイと手裏剣を備え、背中にはカタナを差している。
「久しぶりだ。レイン」
伸ばした手を払い落とし、レインはジュカイを睨みつけた。
「お前と挨拶なんてしない。ただサンデイの分まで殺すだけだ」
「…さては、お前勘違いしているな?」
「黙れ」
掴みかかろうとして、レインは審判に警告された。
ジュカイを睨みながら、レインは一旦離れていった。
マークとは数週間ぶりに相見える。
狼のような茶髪で、側頭部を剃り、前髪を伸ばしたヘアスタイルが特徴的である。その眼光は相変わらず獲物を仕留めんとする野獣のように鋭い。
今日も「オムニスーツ」に似た装備を着用し、口元を長いスカーフで覆っている。
武器は自信の半身程もあるスナイパーライフル。
「ソウ…だったか? 君等がここまで登ってくるとは失礼ながら思っていなかった。だが、今や俺たちは首に刃を当てられている。『追い詰められた獣』として、俺たちは必死に相手をするが、正々堂々やるつもりだ。いい試合にしたいから、そちらにもそうして頂きたい。特に彼だ」
ジュカイを横目で静かに睨み続けるレインを指差す。
「わかった。でも今のレインは止められないんだ。今回だけは、見逃してよ」
「まあ事情があるのはわかるがな。反則はやめてくれるように…」
その時、レインが近寄ってくる。
「しませんよ、そんなこと。ジュカイのような外道と違って、僕はマトモですから」
「わかった、わかったよ」
マークはなだめるように接し、復讐鬼を返した。
さて、いよいよ試合が始まる。
全員が持ち場につき、武器を構える。
先の戯れで多少の緊張はほぐれた。だが、心は変わらず真剣だ。
それぞれ異なる目標を瞼の裏に映していた。だが、全員の胸中に共通して勝利への渇望が渦巻いていた。
(行くぞ)
心の中で呟いてから、ソウはその両足に力を込めた。
電子ゴングの高周波が高々と鳴り響き、開戦を告げる。
全員が一斉に動いた。
だが、一番早く反応したのは、ソウだった。
ソウはダンテに焦点を合わせ、弦を引き絞る。
一瞬、ジュカイの意識は雷の化身に持っていかれた。
「目をそらすな」
思い切り振るわれたギザギザの刃を、咄嗟に抜き放った忍者刀で受け止める。
だがその重さを受け止めきれず、半歩下がる。
「お前の相手は僕だぞ」
レインがもう片方の腕を振り回した。
分が悪いと見るや、ジュカイは後方に宙返りして距離を取り、間髪を入れずそこで手裏剣を投擲する。
レインはその胸や肩の被弾を全く構わず突撃し、二本の刃でジュカイを突き刺した。
その時、ジュカイの身体が陽炎の様に揺らめき、攻撃を避けつつ真横に現れる。
ジュカイ・ヘイズ。
「今日の動きには何だか無駄が多いぞ、レイン」
その胸を一瞬で切り裂く。
次の瞬間、鼻先を「ヘイト・ブレイド」が掠める。
ジュカイは思わず姿勢を崩し、再度「ジュカイ・ヘイズ」で後方に移動して事なきを得る。
「お前こそ、手裏剣とか投げるの随分下手になったな。所詮は僕を貶めて成り上がったペテンニンジャか。僕は、今日差し違えてでもお前を倒そうと思っているんだ。基本時に攻撃以外はしないつもりだよ」
両刃が熱くなり、同時にネオンの色が濃くなる。
ソウはダンテに向かって既に何発もの射撃を浴びせていた。
だがその度にダンテは立ち位置を絶妙に調整して当たらぬよう努め、同時に十歩ほどソウに近付いてくる。
「そろそろ、いいですかね」
ダンテは不可解な事を言った。
ソウはその意味する所を理解できなかったが、直感的に脅威を読み取り、その足に力を入れた。
ダンテはハンマーを上空に投げ上げる。
空中で回転したそれは、一瞬で色と形を変えた。
荒れる炎のような造形をした暗紫色の双剣。
ダンテがそれを受け取り、双掌の中に逆手に持つと同時に布の赤色は紫色に変わる。
「メルカトール社」製特注品:「喜劇」。
三形態に変化する。
ジョーカー⇒アサシン
煉獄⇒地獄
「さあ、『旅』を始めましょう」
ダンテはそう言うやいなや、姿勢を低くした。
そして次の瞬間には、ソウの目の前に居た。
十字形に切り裂いてくる。
クロッチェ・デル・インフェルノ。
ソウは後ろに下がりながら上半身を大きく反らし、何とか回避する。
紫色の残像が空中に残る。
その時、ダンテの遥か後方に銃口が見えた。
マークの弾丸がソウを標的として発射される。
しかし次の瞬間、弾丸に何かが当たって相殺される。
(あんたは気にしなくていいから)
ミナーヴァがやってくれたことを、ソウは認識しつつ、次の攻撃に備えた。
ダンテは飛び上がったと思うと、ソウの顔面に後ろ蹴りをかました。
ソウはこの「イレギュラー」に意表を突かれて怯んだ。
一瞬の隙を見逃さず、着地したダンテはソウの顔面を縦に切った。
そのつもりだったが、構えた弓の骨組みに当たって弾かれる。
「ここだね」
そしてソウは弓の端を敵に突き刺した。
ダンテ、バリア3%消失
今度はダンテが怯んだ。
「『本当の』防御と攻撃のタイミングは」
前回の試合、ソウは自らの才能で自然と身に付けた「最適」と現実の「最適」の乖離を痛感し、修正した。
それが今回も、チャンスを作り出した。
ミナーヴァがダンテの抱えた隙に矢を差し込む。
「そうはさせない」
マークも矢にぶつけるべく弾丸を撃ち出すが、虚空を貫くだけだった。
矢の軌道は大きく曲がりくねり、ダンテではなく、無防備なマークの首を撃ち抜いた。
虚の虚を突く…
カービングアロー。
マーク:バリア、66% 消失。
さらに弓での打撃を試みるソウに対し、ダンテは素早くソウの後方に回り込んだ。
その時、ラエタを射抜いたときと同じ様に、ソウは反射的に上半身を捻る。
この行動に、ミナーヴァが攻撃を合わせる。
(これで、いける!)
前後から同時に矢が放たれ、ダンテを鋭く挟撃する。
突如、ソウはバリアに異常を感じた。
いつの間にかマークの弾丸が脇腹を撃ち抜いたのだ。
ソウ、バリア37%喪失。
ダンテは横にいきなり加速し、矢同士はぶつかる。
ダンテは、ジュカイとの白兵戦に熱中するレインの背後に走っていった。
(まずい!)
ミナーヴァは弓を構えながら、その表情に焦心を見せた。
(あたしの判断がソウとレインにピンチを作ってしまった…! このままじゃ、戦いにも…ソウとの勝負にも…)
一方、ソウはこの刹那の時間の中で、別のことを考えていた。
(俺、なにも出来ていないや。補佐役なのに完全にミナーヴァの行動のままだし。ああそうか、勝負なんだっけ…だから俺が撃たれるように仕込んだんだ。じゃあ…)
ソウは地面を蹴った。
急加速してダンテに近づく。
「ソウ、何やってるの!?」
「ミナーヴァ、マークの相手をして。ダンテの方は俺が行くから」
(じゃあ、勝負に勝つなら俺がミナーヴァを操らないと)
ソウは半分の力で矢を引き、ダンテを狙って素早く弾幕を展開する。
スパークス。
ダンテはそれに気づき、急に方向転換してソウの方に走ってくる。
ジグザグに走行し、飛んでくる脅威全てを回避する。
「その技、興味深いですね」
ダンテは左の短剣を投げつけてきた。
さすがにそこまで予見出来ていなかったソウは、対応が「本当の最適」に遅れた。
回避を試みた時、既に胸の前にあった。
ダメ押しとばかりにさらに軌道が曲がり、紫色の残像とともにソウの胸に突き刺さる。
ソウ、バリア計72%喪失。
重い一撃。
だが、まだ終わらない
「お戻りなさい。地獄での『旅』はまだ続きます」
ダンテが手を伸ばすと、短剣がバリアから抜け、主の元へ帰還する。
その時にバリアは抉られ、さらに失われる。
ソウのバリア、計84%消失。
危機感を覚え、ソウは後ろ向きに走ってこの「地獄からの使者」との距離を取った。
その時ふと見ると、遠くでレインがジュカイを倒していた。
だが同時に、ソウはおかしなものを視てしまった。
ジュカイが、あと二人いた。
「大きいな…」
前回はそう不安げに呟いていたトクスも、今はその目に覚悟の色が見て取れる。
敵は相変わらず大きい。だが、今回は前と違って怖気付くなんてことはしない。
「行こうよ」
ソウがふと口にした号令に、皆が頷いた。
「そうね」
「行きましょう」
「そうだな」
「ああ」
「はい!」
挑戦者達は敵地へと歩んでいった。
装備をしっかりと身に付け、呼吸と共に精神を整える。
「わかっているわね?」
ミナーヴァがツインテールを結び改めながら問うてくる。
「うん。君と俺の勝負のことでしょ?」
「そうよ。試合の激しさで忘れるんじゃないわよ。でもそればっかりに気を取られていたらみんなに迷惑をかけるわ。それに、そんな時こそあたしがあんたを出し抜くから」
「わかった。気を付ける」
気づけば準備が整い、レインが手をかざして自動ドアを開ける。
「行きますよ。聞こえていますか?」
「もちろんよ!」
ミナーヴァがムッとした様子で答え、ソウも無言で頷く。
いよいよ廊下の暗闇に出て、光の方へと歩いていく。
「両チーム、入場です!」
アナウンスが観客を沸かせ、ドームはまるで屋根に当たる豪雨のような音で一杯になる。
ミナーヴァが先頭に立ち、一瞬後ろを振り返る。
三人は互いの目を見つめ合い、意思を通じ合った。
ついにその姿を衆目に晒す。
観客席は信じがたいほど高く、何段もあったが、その全てに観客が隙間なく詰まっていた。
面白そうなカードでなければ、有名チームの試合でもここまでにはならない。
(見てなさい! そのチケット価格、これから「お値打ち」に変えてあげる!)
ミナーヴァは相手を見据えた。
敵は…ダンテ、ジュカイ、マーク。
ダンテは白と赤の伝統的な丈の長い服を何枚も着ていて、頭の回りには月桂冠を彷彿とさせる、硬葉を象った飾り付きの金色の輪が浮いていた。
武器は…
視線を落としたミナーヴァは戸惑った。
今までの古典的な白色の両刃剣ではない。未観測の脅威がそこにはあった。
柄から先端まで1mはありそうな、真っ赤な大槌。
炎を象ったような不規則な形状をしている。
「美しいでしょう?」
突然話しかけられ、ミナーヴァは返事が出来なかった。
「この試合に合わせて特注したんです」
「そうなのね。じゃあ使い慣れていないんじゃないの?」
「はい。皆さんが初めてです。お手柔らかにお願いしますね」
(「お手柔らかに」…なんて、こっちの台詞よ!)
馬鹿にされたように感じ、ミナーヴァは目を尖らせた。
「無理よ。徹底的にやらせてもらうわ!」
「そうですか。それならそれでいいでしょう」
実物のジュカイは大きい。
ミナーヴァが165cm程度、レインの背丈が170cm弱、ソウは180cm前後として、195cmはあるだろうか…
そんな大男は、額に白色ネオンの鉢金を巻き、髪色と同じ暗緑の忍装束に身を包み、太ももと腰に大量のクナイと手裏剣を備え、背中にはカタナを差している。
「久しぶりだ。レイン」
伸ばした手を払い落とし、レインはジュカイを睨みつけた。
「お前と挨拶なんてしない。ただサンデイの分まで殺すだけだ」
「…さては、お前勘違いしているな?」
「黙れ」
掴みかかろうとして、レインは審判に警告された。
ジュカイを睨みながら、レインは一旦離れていった。
マークとは数週間ぶりに相見える。
狼のような茶髪で、側頭部を剃り、前髪を伸ばしたヘアスタイルが特徴的である。その眼光は相変わらず獲物を仕留めんとする野獣のように鋭い。
今日も「オムニスーツ」に似た装備を着用し、口元を長いスカーフで覆っている。
武器は自信の半身程もあるスナイパーライフル。
「ソウ…だったか? 君等がここまで登ってくるとは失礼ながら思っていなかった。だが、今や俺たちは首に刃を当てられている。『追い詰められた獣』として、俺たちは必死に相手をするが、正々堂々やるつもりだ。いい試合にしたいから、そちらにもそうして頂きたい。特に彼だ」
ジュカイを横目で静かに睨み続けるレインを指差す。
「わかった。でも今のレインは止められないんだ。今回だけは、見逃してよ」
「まあ事情があるのはわかるがな。反則はやめてくれるように…」
その時、レインが近寄ってくる。
「しませんよ、そんなこと。ジュカイのような外道と違って、僕はマトモですから」
「わかった、わかったよ」
マークはなだめるように接し、復讐鬼を返した。
さて、いよいよ試合が始まる。
全員が持ち場につき、武器を構える。
先の戯れで多少の緊張はほぐれた。だが、心は変わらず真剣だ。
それぞれ異なる目標を瞼の裏に映していた。だが、全員の胸中に共通して勝利への渇望が渦巻いていた。
(行くぞ)
心の中で呟いてから、ソウはその両足に力を込めた。
電子ゴングの高周波が高々と鳴り響き、開戦を告げる。
全員が一斉に動いた。
だが、一番早く反応したのは、ソウだった。
ソウはダンテに焦点を合わせ、弦を引き絞る。
一瞬、ジュカイの意識は雷の化身に持っていかれた。
「目をそらすな」
思い切り振るわれたギザギザの刃を、咄嗟に抜き放った忍者刀で受け止める。
だがその重さを受け止めきれず、半歩下がる。
「お前の相手は僕だぞ」
レインがもう片方の腕を振り回した。
分が悪いと見るや、ジュカイは後方に宙返りして距離を取り、間髪を入れずそこで手裏剣を投擲する。
レインはその胸や肩の被弾を全く構わず突撃し、二本の刃でジュカイを突き刺した。
その時、ジュカイの身体が陽炎の様に揺らめき、攻撃を避けつつ真横に現れる。
ジュカイ・ヘイズ。
「今日の動きには何だか無駄が多いぞ、レイン」
その胸を一瞬で切り裂く。
次の瞬間、鼻先を「ヘイト・ブレイド」が掠める。
ジュカイは思わず姿勢を崩し、再度「ジュカイ・ヘイズ」で後方に移動して事なきを得る。
「お前こそ、手裏剣とか投げるの随分下手になったな。所詮は僕を貶めて成り上がったペテンニンジャか。僕は、今日差し違えてでもお前を倒そうと思っているんだ。基本時に攻撃以外はしないつもりだよ」
両刃が熱くなり、同時にネオンの色が濃くなる。
ソウはダンテに向かって既に何発もの射撃を浴びせていた。
だがその度にダンテは立ち位置を絶妙に調整して当たらぬよう努め、同時に十歩ほどソウに近付いてくる。
「そろそろ、いいですかね」
ダンテは不可解な事を言った。
ソウはその意味する所を理解できなかったが、直感的に脅威を読み取り、その足に力を入れた。
ダンテはハンマーを上空に投げ上げる。
空中で回転したそれは、一瞬で色と形を変えた。
荒れる炎のような造形をした暗紫色の双剣。
ダンテがそれを受け取り、双掌の中に逆手に持つと同時に布の赤色は紫色に変わる。
「メルカトール社」製特注品:「喜劇」。
三形態に変化する。
ジョーカー⇒アサシン
煉獄⇒地獄
「さあ、『旅』を始めましょう」
ダンテはそう言うやいなや、姿勢を低くした。
そして次の瞬間には、ソウの目の前に居た。
十字形に切り裂いてくる。
クロッチェ・デル・インフェルノ。
ソウは後ろに下がりながら上半身を大きく反らし、何とか回避する。
紫色の残像が空中に残る。
その時、ダンテの遥か後方に銃口が見えた。
マークの弾丸がソウを標的として発射される。
しかし次の瞬間、弾丸に何かが当たって相殺される。
(あんたは気にしなくていいから)
ミナーヴァがやってくれたことを、ソウは認識しつつ、次の攻撃に備えた。
ダンテは飛び上がったと思うと、ソウの顔面に後ろ蹴りをかました。
ソウはこの「イレギュラー」に意表を突かれて怯んだ。
一瞬の隙を見逃さず、着地したダンテはソウの顔面を縦に切った。
そのつもりだったが、構えた弓の骨組みに当たって弾かれる。
「ここだね」
そしてソウは弓の端を敵に突き刺した。
ダンテ、バリア3%消失
今度はダンテが怯んだ。
「『本当の』防御と攻撃のタイミングは」
前回の試合、ソウは自らの才能で自然と身に付けた「最適」と現実の「最適」の乖離を痛感し、修正した。
それが今回も、チャンスを作り出した。
ミナーヴァがダンテの抱えた隙に矢を差し込む。
「そうはさせない」
マークも矢にぶつけるべく弾丸を撃ち出すが、虚空を貫くだけだった。
矢の軌道は大きく曲がりくねり、ダンテではなく、無防備なマークの首を撃ち抜いた。
虚の虚を突く…
カービングアロー。
マーク:バリア、66% 消失。
さらに弓での打撃を試みるソウに対し、ダンテは素早くソウの後方に回り込んだ。
その時、ラエタを射抜いたときと同じ様に、ソウは反射的に上半身を捻る。
この行動に、ミナーヴァが攻撃を合わせる。
(これで、いける!)
前後から同時に矢が放たれ、ダンテを鋭く挟撃する。
突如、ソウはバリアに異常を感じた。
いつの間にかマークの弾丸が脇腹を撃ち抜いたのだ。
ソウ、バリア37%喪失。
ダンテは横にいきなり加速し、矢同士はぶつかる。
ダンテは、ジュカイとの白兵戦に熱中するレインの背後に走っていった。
(まずい!)
ミナーヴァは弓を構えながら、その表情に焦心を見せた。
(あたしの判断がソウとレインにピンチを作ってしまった…! このままじゃ、戦いにも…ソウとの勝負にも…)
一方、ソウはこの刹那の時間の中で、別のことを考えていた。
(俺、なにも出来ていないや。補佐役なのに完全にミナーヴァの行動のままだし。ああそうか、勝負なんだっけ…だから俺が撃たれるように仕込んだんだ。じゃあ…)
ソウは地面を蹴った。
急加速してダンテに近づく。
「ソウ、何やってるの!?」
「ミナーヴァ、マークの相手をして。ダンテの方は俺が行くから」
(じゃあ、勝負に勝つなら俺がミナーヴァを操らないと)
ソウは半分の力で矢を引き、ダンテを狙って素早く弾幕を展開する。
スパークス。
ダンテはそれに気づき、急に方向転換してソウの方に走ってくる。
ジグザグに走行し、飛んでくる脅威全てを回避する。
「その技、興味深いですね」
ダンテは左の短剣を投げつけてきた。
さすがにそこまで予見出来ていなかったソウは、対応が「本当の最適」に遅れた。
回避を試みた時、既に胸の前にあった。
ダメ押しとばかりにさらに軌道が曲がり、紫色の残像とともにソウの胸に突き刺さる。
ソウ、バリア計72%喪失。
重い一撃。
だが、まだ終わらない
「お戻りなさい。地獄での『旅』はまだ続きます」
ダンテが手を伸ばすと、短剣がバリアから抜け、主の元へ帰還する。
その時にバリアは抉られ、さらに失われる。
ソウのバリア、計84%消失。
危機感を覚え、ソウは後ろ向きに走ってこの「地獄からの使者」との距離を取った。
その時ふと見ると、遠くでレインがジュカイを倒していた。
だが同時に、ソウはおかしなものを視てしまった。
ジュカイが、あと二人いた。
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