グラディア(旧作)

壱元

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第一章

01-07「逆転」

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 カローラ・スタディウムには100人強の観客が押し寄せていた。

敵が向こうから歩いてくる。

ムーンライト・ナイツのエース:ルナは長い銀髪の背の高い女性で、銀色の鎧兜を身に付けている。

ルナの両脇に居る甲冑姿の男性選手、ベンとアイクは既に兜のバイザーを下ろし、顔は見えなくなっている。

「いい戦いにしよう」

そう言ってルナは握手を求めてきた。

ソウは少し前のことを想起しながらも、今回はそうはさせまいと思った。

「よろしく」

六人は丁寧に握手を交わし、離れていった。

まもなくゴングが鳴った。

リーグ戦の火蓋が切って落とされた。


「さて」

会議室にて、ジュピターは明日から始まるリーグの初戦の説明を開始した。

「初戦の相手は『ムーンMライトLナイツK』だ。僕達と同じ様に小規模な新しいチームで、武器は堅い守備。エース格は…」

スクリーンに映されたのは、少女の顔とプロフィール。

青味掛かった長い銀髪が特徴的で、つり上がった目は美しくまつ毛も長く顎は細い。

彼女の名前はルナ。

年齢は19歳。グラディア歴は5年で、役割ロールはブロウラー。

MLKに加入したのは2年前で、僅か半年でエースの座にまで上り詰めた実力者。

素早い攻撃と無駄の少ない防御を兼ね備え、攻守ともに隙がない選手。

「他の選手は殆どがディフェンダーやブロウラーで、ルナが出場するならほぼ間違いなく残りの二人もそのどちらかだろう。だから、今回は遠距離攻撃主体にしようと思う」

画面が変化し、出場メンバーの顔とプロフィールが表示される。

「今回はソウ君、ミナーヴァ、ウィル君に出場してもらう。ウィル君が敵を引き付け、他二人で遠くから攻撃する作戦で行きたいんだけれど、いいかな?」


「これが俺の仕事だ!」

ウィルは大剣を振り上げ、向かってきたベンを思い切り叩き切った。

だが豪快な一撃に相応しい結果だ。大盾で防がれ、剣が跳ね返される。

 バリア、12%消失。

「まだまだ行くぞおら!」

ウィルはベンに竜巻のように荒々しく連続攻撃を見舞った。

その間、ルナ、アイクはウィルの横を抜け、ミナーヴァ、ソウの方へ駆け寄ってくる。

「行くわよ!」

ミナーヴァの声に、ソウは頷いた。

二人同時に弦を引き、渾身の一撃を放つ。

すると、並んで走っていた敵二人は足を止め、アイクの方は大盾を構える。

ルナを覆い隠すように立ち、矢を防ぎ切る。

 バリア、10%消失。

矢をつがえるまでの消去不能な間を縫って、また二人は近づいてくる。

「ちっ」

ミナーヴァは苦しい展開に舌打ちした。

「下がるわよ」

少しでも距離を稼ぐため、ソウとミナーヴァは弓を構えながら後ろ向きに走った。

放てる状態まで持ち込んだ時、敵はまた防御体制を取った。

何度やろうと、同じ手は通用しない。

そんなことも知らず、二本の矢が向かってくる。

しかし、敵の矢は途中で軌道を大きく曲げ、左右から盾の後ろのルナを狙った。

カービングアロー×2=スタッグホーンショッツ

会場が沸き立つ。

だが、矢は揃って弾かれて寂しく地面に落ちる。

「アイク」

ルナがレイピアを構えながら姿を表す。

「私達も連携技術を見せるぞ」

「了解っす」

アイクは姿勢を低くして盾を両手で支えた。

ルナがその上に華麗に飛び乗る。

撃ち放題。

ソウは迷いなく矢をつがえた。

「待ちなさい」

ミナーヴァがそれを制止する。

「なにか来るわ。気を付けなさい」

アイクは身体を揺らしたと思うと、

勢いよくルナを投げ飛ばした。

ルナはレイピアの先端を向けながら一直線に、巨大な弾丸のようにソウに飛来する。

遠距離に対する新しき絶技。

ムーン・クリーバー。

先程よりも大きな歓声が会場に充満する。

 ソウは急いで左側に走って回避した。

敵は受け身を取り、すぐにソウに接近する。

敵の間合いに入る。

レイピアが動いた。

そう思った時、ソウは既に二回腹を刺されていた。

 ソウ、バリア32%消失

身体を反らし敵の三撃目は何とか避けきると、ソウは地面を蹴って距離を稼ぎ、半分の力で三本の矢を連続して射出した。

スパークス。

だがこの御家芸も敵には通じない。

全て的確に防がれた。

「ほう、良い攻撃だ」

ソウは少し焦燥感を覚えた。

 密かにミナーヴァが敵の背中を狙っていた。

すると、標的と射手の間を遮る形で、アイクが走り込んでくる。

接近して盾を振り回してくる。

ミナーヴァは姿勢を低くして辛うじて避けた。

盾を攻撃に使った敵の防御はがら空きになる。

「喰らいなさい!」

ミナーヴァは矢を敵の眉間に鋭く撃ち込んだ。

かつて選考でソウを仕留めた必殺の一撃…

デッドリーソーン。

着弾と同時にエネルギーの茨と花弁が辺りに飛び散る。

 アイク、バリア100%消失。

アイクは転送され、ミナーヴァは大きく安堵の一息を吐き出した。

ふと見ると、視界の端に全力でソウのもとに駆け寄るウィルが映った。

 ソウはルナの刺突を紙一重で左に避け、地面を蹴ってまた距離を取った。

敵は追おうとしたが、右方から繰り出される一閃に気付くと、それを上半身を後ろに反らして回避した。

「惜しいな」

ウィルが振り下ろした剣を構え直す。

「ベンだかビリーだかいうあんたのお仲間は俺がぶっ潰させてもらった! 後はあんただけだぜ!」

ウィルが足を止め、再度剣を大きく振り上げる。

ソウも敵の横で弓を引く。

その時、敵の影が動き、ウィルの腹を切り裂きながら一瞬にして背後を取る。

星が飛び散った。

スターライトダンサー。

 ウィル、バリア合計64%消失。

敵は止まらない。さらにウィルの背中を力強く突き刺す。

89%消失。

ウィルは振り向きざまに水平な斬撃を見舞った。

だが敵は軽やかな足さばきで一歩後ろに回避する。

その時、追従してソウが射撃した。

だが完全に見切られ、撃ち落とされる。

(練習したとおりの動きが出来ていないよ)

そんな声が聞こえた気がした。

(矢を発射するタイミングが少し遅いせいで相手にとっては防ぎやすくなっている。ウィル君は全体的に足を止めがちになっているよ)

そうか、とソウは思った。

俺もウィルも、ジュピターに言われたことが肝心な試合の時に出来ていないんだ。だからこんなに勝てなさそうな感じなんだ。

ふと見た時、遠くの同胞と目が合った。

ミナーヴァは弦を極限まで引き絞り、一撃必殺の攻撃を命中させるのに最適な瞬間を待っている。

一撃必殺。

そう、これが当たれば必殺ゲームセットなのだ。

ソウは矢をつがえた。

 「やってくれたな」

ウィルは敵に特攻し、剣を振り回した。

だが丸太のような幅広なウィルの剣は小枝のようなルナのレイピアに簡単に受け流された。

ルナが反撃に出る為に剣を構え直す。

ウィルは剣の重みに引っ張られ、バランスを崩して為す術もない様子でいる。

「ウィル、足を止めるな!」

突如どこからか聞こえた声に、ウィルはハッとさせられた。

筋肉に持てる全ての力を込め、両足を次の行動に理想的な場所に持っていった。

かなり無理な身体操作だが、ウィルはバランスを取り戻し、その自慢の筋力で剣を強制的に自分のもとに引き寄せ、刀身の側面で刺突を防いだ。

以上は、ウィルだからこそ為せる業だ。

「なっ!?」

ルナが驚きのあまり、一瞬怯んだ。

「その時、ソウは隙を突こうと一撃を見舞う。」

そう予見したルナが防御の為に迅速に身体を動かした。

その時、矢は既に腹部に突き刺さっていた。


 ウィルが運足を開始した、なんとその瞬間に矢はソウの手を離れていた。

ソウは自らの中に存在する「最適の感覚」に従って射撃していた。

しかしながら、それは現実における「最適」ではなかった。

ならば、己の「最適」とは乖離した瞬間に、あえてそれを行えば良い。

それは己を否定し、法則に反逆する不快な感覚であった。

だがソウにはそれを行う知性と精神力が備わっていたのだ。


 さて、「自分が怯んだのを確認した時、ソウは隙を突こうと一撃を見舞う」、という想定で動いていたルナは先程と重ねてさらに驚愕した。

ソウの狙い通り、隙が出来上がった。

大技を命中させるには、十分な隙が。

「これで」

ミナーヴァが満を持して弦を手放した。

茨や薔薇の花弁の演出とともに、この場の何よりも鋭い一本のソーンが敵の頭を穿ち抜く。

デッドリーソーン。

「終わりよ、月光の騎士ムーンライト・ナイトさん」

3-0、GCカローラ勝利。

ソウ、ミナーヴァ、ウィル、公式戦初勝利。
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