上 下
519 / 526
第一部

第五十話 三剣鬼(3)

しおりを挟む
 これも全て仕込みだろう。

――こんな茶番、一発で見抜けるようでないと猟人はやってられない。

 よっぽど立ち去ろうかと考えていた。

 だが、ボリバルが関わっている可能性をぬぐえない以上、そういう訳にもいくまい。

「てい!」

 まず先陣を切ったのはグリルパルツァーだ。

 細身の剣を抜き放ち、遮二無二にマンゾーニに斬りつけた。

「甘い甘い」

 マンゾーニもさる者、巧みに斬撃をすべて受け止める。

「私をいることを忘れないでください!」

  ドゥルーズ神父が斬り込んできた。もちろんマンゾーニもそれを察知して飛び退る。

 群衆は驚いて距離を取りながらも、はらはらと成り行きを見守っている。

 フランツからしたら答えは見えているので、さしたる驚きもなかった。

 もちろん三人は殺し合わない。適度なところで止めるだろう。

 ドゥルーズは身の丈より遙かに長い剣を優雅に振り回していた。

 マンゾーニは普通の――フランツの『薔薇王』やオドラデクが変身する剣と変わらないぐらいの大きさの――剣を使っていた。だが、大きな剣と打ち合っても引けを取らない。

――良い業物《わざもの》だな。

 そこだけは、フランツも思わず気になってしまった。

 かちん。かちん。

 剣戟の音は軽快に響き渡る。

 三剣鬼はぶつかり、離れながら、星の燦めきのような刃鳴《はな》を散らした。

 三十分ばかりも続いただろうか。

 フランツはあくびを噛み殺していた。

「やるねえ!」

 グリルパルツァーが賞賛した。ドゥルーズとマンゾーニに向かってだ。

――始まったぞ。

 フランツからすれば当然の予想だ。このやりとりは事前にきめられているのだから。

「やはり三剣鬼! 互角にして互角! なかなか決着がつかない!」

 口上師が煽り立てる。 

  実際三剣鬼に向けて金貨や紙幣を投げ散らかす人々も多かった。

「早く決着を付けろ!」

 そうわめく輩も出て来始めた。

 やがていきなりマンゾーニが剣を取り落とした。

 とたんにドゥルーズもグリルパルツァーも動くのを止める。

「ここまで白黒が付かないとなると、もう流石に俺が首を差し出すしかないな」

「そんなことを仰いますな。剣の道は最期まで戦い続けて決まるもの。今ここで丸腰になられたあなたを斬るわけにもいきますまい」

 そう言ってドゥルーズは剣をしまった。

「二人が剣を振るわねえつうのに、俺一人振るってるっつうのもおかしな話だ」

 グリルパルツァーも他の剣鬼に倣った。

 割れんばかりの拍手。

 抜け駆けをせず、勝ちを譲り合うという立派な精神。

 いささか通俗的ではあったが、大衆を満足させるにはそんなものが必要不可欠だ。

 厳しいものを今まで見てきていたフランツは本当に鼻白んでいた。

「さあさあ、今回の出し物はこれでおしまい! 皆々さまお疲れさまでございました!」

 口上師に追い立てられるかたちで皆は去っていく。

 去り際に更に紙幣を投げつけていく者もあった。

 一座の者が金を回収していく。

 集めてみると思ったよりたくさんの量があるようだった。手の中で札束が出来上がっていたほどだ。

 フランツたちは少し後ろに下がったが、連中の様子をなお観察していた。

「しめしめ、今日も儲かったぜ」

 途端に厳めしい顔を崩して、マンゾーニが言い始めた。

 自分でも金を拾い集めて札束にしていたのだ。

 フランツは静かに連中のただ中へ近付いていった。

「ちょっ、なんで行くんですかぁ」

 止めようとするオドラデクを振り切って。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

まほカン

jukaito
ファンタジー
ごく普通の女子中学生だった結城かなみはある日両親から借金を押し付けられた黒服の男にさらわれてしまう。一億もの借金を返済するためにかなみが選ばされた道は、魔法少女となって会社で働いていくことだった。 今日もかなみは愛と正義と借金の天使、魔法少女カナミとなって悪の秘密結社と戦うのであった!新感覚マジカルアクションノベル! ※基本1話完結なのでアニメを見る感覚で読めると思います。

処理中です...