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第一部

第五十話 三剣鬼(1)

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――ランドルフィ王国南部レオパルディ

 街中を歩き回りながら、スワスティカ猟人《ハンター》フランツ・シュルツは考えに耽っていた。

――何か痕跡が見つからないものか。

 スワスティカの残党である、クリスティーネ・ボリバル(の分身)を探索中なのだが、少しも手掛かりが得られないままでいる。

 そろそろ引き返して、トルタニア大陸東部に進もうかと考えていた矢先だった。

「もう良いでしょー、疲れちゃいましたよ」

人間ではないため疲れることもないオドラデクがごねていた。

「我慢しろ」

 似たようなやりとりを何千回何百回となく繰り返してきたことだろうか。

「我が空から探してみるぞ」

 犬狼神ファキイルが言った。

「やめろ。今は昼だ。絶対に目立つ」

 フランツは押し留めた。

「だがその方が早いだろう」

 ファキイルの方が合理的なのかも知れない。だが、フランツは今までのことで多大な恩義を感じている相手に、そんな危険な目に遭うかもしれないことをお願いできなかった。

「やめとけ」

 結局それを繰り返すことしか出来ない。

 と騒ぎの声が聞こえて来た。

「なんでしょうなんでしょう」

 オドラデクはきょろきょろしながら走り出した。

 この好奇心の強さに綺譚蒐集者《アンソロジスト》ルナ・ペルッツを思い出して、フランツは懐かしくなった。

「広場の方からだ」

 フランツは叫んで、オドラデクを追った。

 もちろんオドラデクの方もすぐ気付いたらしく、街の中央に位置する広場の方へと歩き出していた。

 さまざまな人が群れ集まっている。こういう開かれた場所では季節それぞれに合わせて催しごとが行われることが多い。

「とーざい、とーざい、ここにおりまするは古今無双の大英傑、トルタニア三剣鬼が一人マンゾーニさまでございまする。一目して驚倒せざる者なし、なにとぞ刮目して見て頂きたく候」

 古くさい言葉使いで痩せぎすの口上師が喚き立てる。

 それと同時に奥に置かれた組み立て椅子に腰を掛けていた男が立ち上がった。

 二世紀は前の様式の三角帽子を被った真っ黒な髪にカールした長い髭、腰には長い刀を佩《お》びている。

 「我輩こそがマンゾーニ。今を去る事千年以上続く大貴族の末葉にして、並ぶ者ない名剣士なるぞ」

 マンゾーニとやらは剣を抜いて天に翳しながら高らかによばわった。

「うさんくさーい。絶対にあれ胡散臭いですよ」

 ようやく横に列んだフランツの耳元でオドラデクが囁いた。

「自分で並ぶ者がないとか言っちゃう人って、絶対弱いか限られたサークル内でイキってるかのどっかですよ」

 オドラデクは唇を尖らせて意地悪そうに言う。

「本人の眼の前で言ってやれよ」

 フランツは冷やかした。

「やーですよ! 絶対因縁つけられますって!」

 オドラデクは興奮して言った。

「まずはその剣の切れ味の素晴らしさを見てくださいまし」

 口上師はなお告げる。

 そう言うが速いか側に置いてあった小振りな甕の蓋を開け、中に詰めてあったどろりとした液体に布巾を漬けた。

 すぐに引き出すと、マンゾーニは差し出す剣にそれをしっかりと塗りつけた。

「この油、ただの油ではありませぬ。塗ればたちまちその切れ味は格段にまし、斬ればその者はたちまち煙となしてその場から掻き消えるのです」

「ふん、余計胡散臭いですよ」 

  オドラデクは腕を組んでいた。

「今より、この剣で女を斬る!」

 マンゾーニは突然、とんでもないことを言い始めた。

 さすがに広場に不安の波が広がる。

 フランツも顔を顰めた。
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