517 / 526
第一部
第五十話 三剣鬼(1)
しおりを挟む
――ランドルフィ王国南部レオパルディ
街中を歩き回りながら、スワスティカ猟人《ハンター》フランツ・シュルツは考えに耽っていた。
――何か痕跡が見つからないものか。
スワスティカの残党である、クリスティーネ・ボリバル(の分身)を探索中なのだが、少しも手掛かりが得られないままでいる。
そろそろ引き返して、トルタニア大陸東部に進もうかと考えていた矢先だった。
「もう良いでしょー、疲れちゃいましたよ」
人間ではないため疲れることもないオドラデクがごねていた。
「我慢しろ」
似たようなやりとりを何千回何百回となく繰り返してきたことだろうか。
「我が空から探してみるぞ」
犬狼神ファキイルが言った。
「やめろ。今は昼だ。絶対に目立つ」
フランツは押し留めた。
「だがその方が早いだろう」
ファキイルの方が合理的なのかも知れない。だが、フランツは今までのことで多大な恩義を感じている相手に、そんな危険な目に遭うかもしれないことをお願いできなかった。
「やめとけ」
結局それを繰り返すことしか出来ない。
と騒ぎの声が聞こえて来た。
「なんでしょうなんでしょう」
オドラデクはきょろきょろしながら走り出した。
この好奇心の強さに綺譚蒐集者《アンソロジスト》ルナ・ペルッツを思い出して、フランツは懐かしくなった。
「広場の方からだ」
フランツは叫んで、オドラデクを追った。
もちろんオドラデクの方もすぐ気付いたらしく、街の中央に位置する広場の方へと歩き出していた。
さまざまな人が群れ集まっている。こういう開かれた場所では季節それぞれに合わせて催しごとが行われることが多い。
「とーざい、とーざい、ここにおりまするは古今無双の大英傑、トルタニア三剣鬼が一人マンゾーニさまでございまする。一目して驚倒せざる者なし、なにとぞ刮目して見て頂きたく候」
古くさい言葉使いで痩せぎすの口上師が喚き立てる。
それと同時に奥に置かれた組み立て椅子に腰を掛けていた男が立ち上がった。
二世紀は前の様式の三角帽子を被った真っ黒な髪にカールした長い髭、腰には長い刀を佩《お》びている。
「我輩こそがマンゾーニ。今を去る事千年以上続く大貴族の末葉にして、並ぶ者ない名剣士なるぞ」
マンゾーニとやらは剣を抜いて天に翳しながら高らかによばわった。
「うさんくさーい。絶対にあれ胡散臭いですよ」
ようやく横に列んだフランツの耳元でオドラデクが囁いた。
「自分で並ぶ者がないとか言っちゃう人って、絶対弱いか限られたサークル内でイキってるかのどっかですよ」
オドラデクは唇を尖らせて意地悪そうに言う。
「本人の眼の前で言ってやれよ」
フランツは冷やかした。
「やーですよ! 絶対因縁つけられますって!」
オドラデクは興奮して言った。
「まずはその剣の切れ味の素晴らしさを見てくださいまし」
口上師はなお告げる。
そう言うが速いか側に置いてあった小振りな甕の蓋を開け、中に詰めてあったどろりとした液体に布巾を漬けた。
すぐに引き出すと、マンゾーニは差し出す剣にそれをしっかりと塗りつけた。
「この油、ただの油ではありませぬ。塗ればたちまちその切れ味は格段にまし、斬ればその者はたちまち煙となしてその場から掻き消えるのです」
「ふん、余計胡散臭いですよ」
オドラデクは腕を組んでいた。
「今より、この剣で女を斬る!」
マンゾーニは突然、とんでもないことを言い始めた。
さすがに広場に不安の波が広がる。
フランツも顔を顰めた。
街中を歩き回りながら、スワスティカ猟人《ハンター》フランツ・シュルツは考えに耽っていた。
――何か痕跡が見つからないものか。
スワスティカの残党である、クリスティーネ・ボリバル(の分身)を探索中なのだが、少しも手掛かりが得られないままでいる。
そろそろ引き返して、トルタニア大陸東部に進もうかと考えていた矢先だった。
「もう良いでしょー、疲れちゃいましたよ」
人間ではないため疲れることもないオドラデクがごねていた。
「我慢しろ」
似たようなやりとりを何千回何百回となく繰り返してきたことだろうか。
「我が空から探してみるぞ」
犬狼神ファキイルが言った。
「やめろ。今は昼だ。絶対に目立つ」
フランツは押し留めた。
「だがその方が早いだろう」
ファキイルの方が合理的なのかも知れない。だが、フランツは今までのことで多大な恩義を感じている相手に、そんな危険な目に遭うかもしれないことをお願いできなかった。
「やめとけ」
結局それを繰り返すことしか出来ない。
と騒ぎの声が聞こえて来た。
「なんでしょうなんでしょう」
オドラデクはきょろきょろしながら走り出した。
この好奇心の強さに綺譚蒐集者《アンソロジスト》ルナ・ペルッツを思い出して、フランツは懐かしくなった。
「広場の方からだ」
フランツは叫んで、オドラデクを追った。
もちろんオドラデクの方もすぐ気付いたらしく、街の中央に位置する広場の方へと歩き出していた。
さまざまな人が群れ集まっている。こういう開かれた場所では季節それぞれに合わせて催しごとが行われることが多い。
「とーざい、とーざい、ここにおりまするは古今無双の大英傑、トルタニア三剣鬼が一人マンゾーニさまでございまする。一目して驚倒せざる者なし、なにとぞ刮目して見て頂きたく候」
古くさい言葉使いで痩せぎすの口上師が喚き立てる。
それと同時に奥に置かれた組み立て椅子に腰を掛けていた男が立ち上がった。
二世紀は前の様式の三角帽子を被った真っ黒な髪にカールした長い髭、腰には長い刀を佩《お》びている。
「我輩こそがマンゾーニ。今を去る事千年以上続く大貴族の末葉にして、並ぶ者ない名剣士なるぞ」
マンゾーニとやらは剣を抜いて天に翳しながら高らかによばわった。
「うさんくさーい。絶対にあれ胡散臭いですよ」
ようやく横に列んだフランツの耳元でオドラデクが囁いた。
「自分で並ぶ者がないとか言っちゃう人って、絶対弱いか限られたサークル内でイキってるかのどっかですよ」
オドラデクは唇を尖らせて意地悪そうに言う。
「本人の眼の前で言ってやれよ」
フランツは冷やかした。
「やーですよ! 絶対因縁つけられますって!」
オドラデクは興奮して言った。
「まずはその剣の切れ味の素晴らしさを見てくださいまし」
口上師はなお告げる。
そう言うが速いか側に置いてあった小振りな甕の蓋を開け、中に詰めてあったどろりとした液体に布巾を漬けた。
すぐに引き出すと、マンゾーニは差し出す剣にそれをしっかりと塗りつけた。
「この油、ただの油ではありませぬ。塗ればたちまちその切れ味は格段にまし、斬ればその者はたちまち煙となしてその場から掻き消えるのです」
「ふん、余計胡散臭いですよ」
オドラデクは腕を組んでいた。
「今より、この剣で女を斬る!」
マンゾーニは突然、とんでもないことを言い始めた。
さすがに広場に不安の波が広がる。
フランツも顔を顰めた。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
神様のミスで女に転生したようです
結城はる
ファンタジー
34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。
いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。
目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。
美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい
死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。
気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。
ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。
え……。
神様、私女になってるんですけどーーーー!!!
小説家になろうでも掲載しています。
URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる