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第一部
第四十九話 吸血鬼の家族(4)
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瞬く間に吸血鬼の子供たちは取り押さえられて、杭やナイフで粉々に砕かれていた。
「吸血鬼は少しでも身体を残すと復活する。とくに転化してから時間が経ったやつほど危険だ。見付けたらすぐ殺せ」
軽騎兵の隊長格が命令していた。
「あの家にはズデンカがいるんだぞ!」
予は叫んだ。
「残念ですが、もうあなたの恋人は既に人間ではありません。時間が経たないうちに殺すしかないのです。少しでも油断したら奴らが蔓延する」
隊長は予の独断行動を責める色もなく冷徹に告げた。
予はもう黙るしかなかった。
軽騎兵たちは松明を手にズデンカの家に迫った。
ゴルシャは影もかたちも見当たらなかった。
君もそうだ。
家の中はもぬけの殻だった。
みなで夜通し探し回ったがどこにも見当たらなかった。
君は消えてしまっていた。
それいらい幾年も、幾十年も君のことを想い続け、窓辺に灯る影に君の姿が映らないものかと来し続けているのに、君は少しも来る様子ががない。
どこへ行ってしまったのだろう。
「わはははは! ふわはははははははは! ははははははははは!」
ルナは爆笑した。読んでいる最中も含み笑いを堪える風だったが、読み終えるに到ってとうとう我慢できなくなったらしい。
これだけ騒いでいるのに司書は止めもしない。奥に入ったきり出て来ないのだ。
まったく、放任主義も良いところの図書館だ。
「そんなにおかしいか」
ズデンカは言った。
侯爵の書きぶりに腹が立ちはしたが、もう二百年以上前のことだ。
今さらあれこれ言うようなことではない。
「そりゃおかしいよ。君が『デュルフェさまぁ』とか言ってたなんて! 笑えちゃうね!」
「うっせえ!」
ズデンカはルナの頭を撲った。
「いてて」
ルナは相変わらずの反応だ。
「でもこの中で書かれているズデンカさん、今と全然違いますよ!」
カミーユが口を挟んだ。
「そりゃ二百年近く生きていたら誰だって変わるさ。生きているんじゃなく死んでいるのかもしれんがな」
とズデンカは言ってから続けて、
「それに、ここで書かれていることは正確じゃない。デュルフェの野郎の思い込みや創作が混じっている」
「へえ、じゃあ本当のところはどうなんだい? 教えてくれよ、君の綺譚《おはなし》を」
ルナはそう言って鴉の羽ペンと古びた手帳というお馴染みのアイテムを取り出した。
「もちろん、君だって訊かせてくれたら願いを一つ叶えてあげるよ」
お馴染みのセリフを付け加えることも忘れずに。
「話してもいいが……願いなんぞはいらん」
ズデンカは断った。
「決まりなんだよ」
ルナは答えた。
「じゃあ、後で決めるか。さすがにお前に死んでくれというのはなしか?」
「冗談きついよ。さっさと始めて」
ルナは急かした。
ズデンカは話し始めた。
デュルフェは美しいおとぎ話のように仕上げているが、あいつはあたしを追いかけ回していた。
一目惚れだったらしいがそんなのこっちの知ったこっちゃねえ。
ともかく村にやってきたときから何かあればズデンカズデンカと声を掛けて来て、何も喋らずにいたら、勝手に気があると思い込んで来やがった。
今だったらぼこぼこにぶん撲ってやるところだが、当時はあたしも大人しかったんでな。
ともかくいるだけで騒動を巻き起こすような厄介なやつだった。
確かに口は上手かったな。本人も言っているが剣術の腕前はからっきしで、家庭教師に匙を投げられたそうだ。
ここも格好付けて書いてやがる。
ともかく稀代の嘘吐きだってことは覚えて置いてくれ。
「吸血鬼は少しでも身体を残すと復活する。とくに転化してから時間が経ったやつほど危険だ。見付けたらすぐ殺せ」
軽騎兵の隊長格が命令していた。
「あの家にはズデンカがいるんだぞ!」
予は叫んだ。
「残念ですが、もうあなたの恋人は既に人間ではありません。時間が経たないうちに殺すしかないのです。少しでも油断したら奴らが蔓延する」
隊長は予の独断行動を責める色もなく冷徹に告げた。
予はもう黙るしかなかった。
軽騎兵たちは松明を手にズデンカの家に迫った。
ゴルシャは影もかたちも見当たらなかった。
君もそうだ。
家の中はもぬけの殻だった。
みなで夜通し探し回ったがどこにも見当たらなかった。
君は消えてしまっていた。
それいらい幾年も、幾十年も君のことを想い続け、窓辺に灯る影に君の姿が映らないものかと来し続けているのに、君は少しも来る様子ががない。
どこへ行ってしまったのだろう。
「わはははは! ふわはははははははは! ははははははははは!」
ルナは爆笑した。読んでいる最中も含み笑いを堪える風だったが、読み終えるに到ってとうとう我慢できなくなったらしい。
これだけ騒いでいるのに司書は止めもしない。奥に入ったきり出て来ないのだ。
まったく、放任主義も良いところの図書館だ。
「そんなにおかしいか」
ズデンカは言った。
侯爵の書きぶりに腹が立ちはしたが、もう二百年以上前のことだ。
今さらあれこれ言うようなことではない。
「そりゃおかしいよ。君が『デュルフェさまぁ』とか言ってたなんて! 笑えちゃうね!」
「うっせえ!」
ズデンカはルナの頭を撲った。
「いてて」
ルナは相変わらずの反応だ。
「でもこの中で書かれているズデンカさん、今と全然違いますよ!」
カミーユが口を挟んだ。
「そりゃ二百年近く生きていたら誰だって変わるさ。生きているんじゃなく死んでいるのかもしれんがな」
とズデンカは言ってから続けて、
「それに、ここで書かれていることは正確じゃない。デュルフェの野郎の思い込みや創作が混じっている」
「へえ、じゃあ本当のところはどうなんだい? 教えてくれよ、君の綺譚《おはなし》を」
ルナはそう言って鴉の羽ペンと古びた手帳というお馴染みのアイテムを取り出した。
「もちろん、君だって訊かせてくれたら願いを一つ叶えてあげるよ」
お馴染みのセリフを付け加えることも忘れずに。
「話してもいいが……願いなんぞはいらん」
ズデンカは断った。
「決まりなんだよ」
ルナは答えた。
「じゃあ、後で決めるか。さすがにお前に死んでくれというのはなしか?」
「冗談きついよ。さっさと始めて」
ルナは急かした。
ズデンカは話し始めた。
デュルフェは美しいおとぎ話のように仕上げているが、あいつはあたしを追いかけ回していた。
一目惚れだったらしいがそんなのこっちの知ったこっちゃねえ。
ともかく村にやってきたときから何かあればズデンカズデンカと声を掛けて来て、何も喋らずにいたら、勝手に気があると思い込んで来やがった。
今だったらぼこぼこにぶん撲ってやるところだが、当時はあたしも大人しかったんでな。
ともかくいるだけで騒動を巻き起こすような厄介なやつだった。
確かに口は上手かったな。本人も言っているが剣術の腕前はからっきしで、家庭教師に匙を投げられたそうだ。
ここも格好付けて書いてやがる。
ともかく稀代の嘘吐きだってことは覚えて置いてくれ。
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