499 / 526
第一部
第四十八話 だれも完全ではない(4)
しおりを挟む
出会ったばかりの奴を信用するべきではない。
そんなことは誰でも一人前に生きていれば自然と身に付く教えだったが、なかにはそれを端から身につけない、いや、身につける気もない人間もいる。
それがルナだ。
料理が運ばれてくる。
まず前菜だ。白磁の皿が並べられた。
ほうれんそうのサラダだった。
ルナは葉っぱにフォークを突き刺してくるくると巻き、皿に楕円を描いて掛けられているソースへ付けて口へ運んでいる。
「ムシャムシャ。うん! 美味しい!」
ズデンカは心配した。ルナとて毒を無効化する力は持っていないだろう。
カミーユも食べていた。
こちらは代々処刑人のボレル家出身者だ。
厳しい祖母から武術を仕込まれており、毒にも慣らされているかも知れないが、飽くまでズデンカが昔読んだ本から推測したに過ぎない。
ズデンカは毒など食べても何でもないが他の二人がどうなのかはよくわからない。
カミーユは緊張のあまりフォークを持つ手を震わせていた。
ズデンカの心配は杞憂だったようだ。
ルナはすぐに、カミーユは時間を掛けて食べ終えた。
「いかがでしょうか」
アリダが息せき切って訊いてくる。
「はい、とても素晴らしいと思いました。これまでずっとろくなものを食べてきていなかったので、久しぶりにお腹が満たされる気分がしましたよ!」
ルナはほがらかに答えた。
「まあ、まだ前菜なのに、ほほほほほ」
アリダが笑った。
「もちろん、お腹にはまだまだは入りますけどね。前菜でこんなにいい気分になれるなら次が楽しみだな。わくわく」
続いてトマトのスープが運ばれてきた。
血のように真っ赤だ。
ズデンカもそれを見ると自然に渇きを覚えたが、すぐに抑えた。
「それでは」
ルナは飲み始める。音を立てて飲むかと疑われたが、以外にも静かにスプーンで器用に飲んでいく。
カミーユの方が苦戦しているようだった。音を立ててはいけないと言うことはわかるのだろう、慎重に口へスプーンを持っていく。
ズデンカはよっぽど駈け寄って教えてやろうと思ったが居並ぶ使用人連中の手前もあってできなかった。
続いて魚料理といきたいところだが、四方を陸で囲まれたゴルダヴァでは期待できない。ズデンカも幼時を振り返っても魚はあまり食べた記憶がない。
――市場でも高かったな。
クレソンに彩られて肉が運ばれてきた。血の匂いも鮮やかで、湯気をはなつソースの中でぐつぐつと煮えたぎっていた。
「こちらも自家製ですか?」
ルナは訊いた。
「裏山で飼っている羊なのです。ぜひご賞味あれ」
イゴールが丁寧に言った。
ルナがフォークを取り上げようとしたその時だ。
物凄い足音が廊下に響いた。
すぐにズデンカはそれが走る音だと気付いた。
「○○××△△△□□□!」
メイドだ。
何かに憑かれたようにわめき散らしながら、食卓へ駈け上がった。
腹ばいに寝そべる。
とたんに物凄い速度でその腹部が膨張した。
破裂する。
内臓が飛び散った。心臓、肝臓、膵臓、大腸、小腸。
血を噴き出しながら滑らかに食卓の上でのたくり、一部がカミーユが食べようとしていた肉の上まで飛んできた。
「ヒイッ!」
怯えながらも、カミーユはすぐに後ろに飛び退いてナイフを抜き臨戦態勢を取っている。
だがメイドは口から血を噴き出しながら絶命した。
イゴールは呆気にとられていた。
アリダは失神する。
「欠けている」
ルナが恍惚とした表情でそれを眺めていた.
「何がだ?」
ズデンカは怒鳴った。
「完全じゃないんだよ」
ルナは言った。
そんなことは誰でも一人前に生きていれば自然と身に付く教えだったが、なかにはそれを端から身につけない、いや、身につける気もない人間もいる。
それがルナだ。
料理が運ばれてくる。
まず前菜だ。白磁の皿が並べられた。
ほうれんそうのサラダだった。
ルナは葉っぱにフォークを突き刺してくるくると巻き、皿に楕円を描いて掛けられているソースへ付けて口へ運んでいる。
「ムシャムシャ。うん! 美味しい!」
ズデンカは心配した。ルナとて毒を無効化する力は持っていないだろう。
カミーユも食べていた。
こちらは代々処刑人のボレル家出身者だ。
厳しい祖母から武術を仕込まれており、毒にも慣らされているかも知れないが、飽くまでズデンカが昔読んだ本から推測したに過ぎない。
ズデンカは毒など食べても何でもないが他の二人がどうなのかはよくわからない。
カミーユは緊張のあまりフォークを持つ手を震わせていた。
ズデンカの心配は杞憂だったようだ。
ルナはすぐに、カミーユは時間を掛けて食べ終えた。
「いかがでしょうか」
アリダが息せき切って訊いてくる。
「はい、とても素晴らしいと思いました。これまでずっとろくなものを食べてきていなかったので、久しぶりにお腹が満たされる気分がしましたよ!」
ルナはほがらかに答えた。
「まあ、まだ前菜なのに、ほほほほほ」
アリダが笑った。
「もちろん、お腹にはまだまだは入りますけどね。前菜でこんなにいい気分になれるなら次が楽しみだな。わくわく」
続いてトマトのスープが運ばれてきた。
血のように真っ赤だ。
ズデンカもそれを見ると自然に渇きを覚えたが、すぐに抑えた。
「それでは」
ルナは飲み始める。音を立てて飲むかと疑われたが、以外にも静かにスプーンで器用に飲んでいく。
カミーユの方が苦戦しているようだった。音を立ててはいけないと言うことはわかるのだろう、慎重に口へスプーンを持っていく。
ズデンカはよっぽど駈け寄って教えてやろうと思ったが居並ぶ使用人連中の手前もあってできなかった。
続いて魚料理といきたいところだが、四方を陸で囲まれたゴルダヴァでは期待できない。ズデンカも幼時を振り返っても魚はあまり食べた記憶がない。
――市場でも高かったな。
クレソンに彩られて肉が運ばれてきた。血の匂いも鮮やかで、湯気をはなつソースの中でぐつぐつと煮えたぎっていた。
「こちらも自家製ですか?」
ルナは訊いた。
「裏山で飼っている羊なのです。ぜひご賞味あれ」
イゴールが丁寧に言った。
ルナがフォークを取り上げようとしたその時だ。
物凄い足音が廊下に響いた。
すぐにズデンカはそれが走る音だと気付いた。
「○○××△△△□□□!」
メイドだ。
何かに憑かれたようにわめき散らしながら、食卓へ駈け上がった。
腹ばいに寝そべる。
とたんに物凄い速度でその腹部が膨張した。
破裂する。
内臓が飛び散った。心臓、肝臓、膵臓、大腸、小腸。
血を噴き出しながら滑らかに食卓の上でのたくり、一部がカミーユが食べようとしていた肉の上まで飛んできた。
「ヒイッ!」
怯えながらも、カミーユはすぐに後ろに飛び退いてナイフを抜き臨戦態勢を取っている。
だがメイドは口から血を噴き出しながら絶命した。
イゴールは呆気にとられていた。
アリダは失神する。
「欠けている」
ルナが恍惚とした表情でそれを眺めていた.
「何がだ?」
ズデンカは怒鳴った。
「完全じゃないんだよ」
ルナは言った。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
まほカン
jukaito
ファンタジー
ごく普通の女子中学生だった結城かなみはある日両親から借金を押し付けられた黒服の男にさらわれてしまう。一億もの借金を返済するためにかなみが選ばされた道は、魔法少女となって会社で働いていくことだった。
今日もかなみは愛と正義と借金の天使、魔法少女カナミとなって悪の秘密結社と戦うのであった!新感覚マジカルアクションノベル!
※基本1話完結なのでアニメを見る感覚で読めると思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる