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第一部
第四十七話 みどりのゆび(6)
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一行は塔を降りて、宿を探した。
すぐに見つかった。緑の指のすぐ近くだ。五階の大きなコンクリート塀のある近代的な建物だった。
ベッドはふかふかとして今にも横になりたくなるし、室内調度もピカピカ磨かれて赫きを放っていた。
しかも、焜炉《コンロ》までついている。
金はいささか掛かったが。
フランツは料理を作り始めた。
買い出しはオドラデクとファキイルがやってくれた。フランツは少し心配だったがちゃんと求めたものを買ってくれたらしい。
何でもある街だった。
久々に見る腸詰《ソーセージ》は表皮から見えるほど脂がたっぷり詰まっていてはち切れそうだ。
身体に悪そうに思ったが、フランツの腹は腸詰をフライパンにこすりつけて焼いている間も鳴っていた。
「うまそうですねえ」
オドラデクが顔をすり寄せてきた。
「お前はいらないだろ」
フランツは冷たく言った。
「いりますよ。大いりですよ」
オドラデクは憤った。
フランツは無言で皿に腸詰を置いていく。
「ぽりぽり、うまい」
オドラデクは指で摘まんで食べた。
「食卓を囲むまで待て」
フランツは顔を顰めた。
「いいじゃにゃいですかぁ、ぽりぽり」
咀嚼するオドラデク。肉の汁がフランツの頬に掛かった。
「お前はいいのか?」
ファキイルの方を向いて訊いた。
「必要ないが、フランツが食べろというなら食べる」
相変わらず表情を変えない。
「好きにしたらいい」
フランツはフライパンに卵を割り入れ、スクランブルエッグを拵えて、食卓に坐った。
既に焼いていたパンにバターをナイフで滑らかに塗って食べる。
朝食のような夕食。
あまり豪華なものを選ぶ気にはならなかったのだ。
オドラデクは言われる前からがっついている。
ファキイルもぽつぽつと食べ始めた。
――団欒はいいものだ。
一瞬そんな考えが頭を過ぎって、フランツは恥ずかしくなった。
フランツに家族がいたのはもうずっと昔のことだ。オルランドに設けられたムルナウ収容所で両親が死に、天涯孤独になった。
食卓を囲んだ記憶すらおぼろげだ。
それがいま、家族ならぬ家族と食卓を囲んでいる。
刹那でも愛おしいと考えてしまった自分。
――弱い。
オドラデクやファキイルを捨てても、独りだけでも動けるようにならなければいけないのだ。
他の力を借りたくはない。
フランツは食事を続けるのをしばらく躊躇した。
「フランツさぁん。食べないんですかぁ。立ったらぼくが……」
その手をフランツはピシッと押さえる。
「俺が食わないと栄養にならんだろうが」
と残りを口に運び続けた。
「ちぇっ!」
オドラデクは不満そうに後ろを向いた。
食事はじきに終わった。
「みどりのゆび」
またファキイルが言い始めた。
「蔦を煎じたいのか? ここなら出来るぞ」
「うむ」
ファキリルは頷いた。とても子供っぽく。
「よし、やろう」
フランツは作業を開始した。まず綺麗に蔦の葉を洗って鍋に入れ水に浸し、火を掛けた。
「このままじっくり待て。我が見張る」
そう言ってファキイルはフランツを追い出すように焜炉の前に居座った。
フランツは自信の椅子に戻って静かに腰を下ろした。
「あのまま放って置いていいんですかぁ」
オドラデクが訊いてくる。
「お前とは違って安心出来る」
フランツは答えた。
「そりゃ年齢はぼくの方が下ですけどね」
「お前の歳など、どうでもいい」
これは言葉通りだった。
すぐに見つかった。緑の指のすぐ近くだ。五階の大きなコンクリート塀のある近代的な建物だった。
ベッドはふかふかとして今にも横になりたくなるし、室内調度もピカピカ磨かれて赫きを放っていた。
しかも、焜炉《コンロ》までついている。
金はいささか掛かったが。
フランツは料理を作り始めた。
買い出しはオドラデクとファキイルがやってくれた。フランツは少し心配だったがちゃんと求めたものを買ってくれたらしい。
何でもある街だった。
久々に見る腸詰《ソーセージ》は表皮から見えるほど脂がたっぷり詰まっていてはち切れそうだ。
身体に悪そうに思ったが、フランツの腹は腸詰をフライパンにこすりつけて焼いている間も鳴っていた。
「うまそうですねえ」
オドラデクが顔をすり寄せてきた。
「お前はいらないだろ」
フランツは冷たく言った。
「いりますよ。大いりですよ」
オドラデクは憤った。
フランツは無言で皿に腸詰を置いていく。
「ぽりぽり、うまい」
オドラデクは指で摘まんで食べた。
「食卓を囲むまで待て」
フランツは顔を顰めた。
「いいじゃにゃいですかぁ、ぽりぽり」
咀嚼するオドラデク。肉の汁がフランツの頬に掛かった。
「お前はいいのか?」
ファキイルの方を向いて訊いた。
「必要ないが、フランツが食べろというなら食べる」
相変わらず表情を変えない。
「好きにしたらいい」
フランツはフライパンに卵を割り入れ、スクランブルエッグを拵えて、食卓に坐った。
既に焼いていたパンにバターをナイフで滑らかに塗って食べる。
朝食のような夕食。
あまり豪華なものを選ぶ気にはならなかったのだ。
オドラデクは言われる前からがっついている。
ファキイルもぽつぽつと食べ始めた。
――団欒はいいものだ。
一瞬そんな考えが頭を過ぎって、フランツは恥ずかしくなった。
フランツに家族がいたのはもうずっと昔のことだ。オルランドに設けられたムルナウ収容所で両親が死に、天涯孤独になった。
食卓を囲んだ記憶すらおぼろげだ。
それがいま、家族ならぬ家族と食卓を囲んでいる。
刹那でも愛おしいと考えてしまった自分。
――弱い。
オドラデクやファキイルを捨てても、独りだけでも動けるようにならなければいけないのだ。
他の力を借りたくはない。
フランツは食事を続けるのをしばらく躊躇した。
「フランツさぁん。食べないんですかぁ。立ったらぼくが……」
その手をフランツはピシッと押さえる。
「俺が食わないと栄養にならんだろうが」
と残りを口に運び続けた。
「ちぇっ!」
オドラデクは不満そうに後ろを向いた。
食事はじきに終わった。
「みどりのゆび」
またファキイルが言い始めた。
「蔦を煎じたいのか? ここなら出来るぞ」
「うむ」
ファキリルは頷いた。とても子供っぽく。
「よし、やろう」
フランツは作業を開始した。まず綺麗に蔦の葉を洗って鍋に入れ水に浸し、火を掛けた。
「このままじっくり待て。我が見張る」
そう言ってファキイルはフランツを追い出すように焜炉の前に居座った。
フランツは自信の椅子に戻って静かに腰を下ろした。
「あのまま放って置いていいんですかぁ」
オドラデクが訊いてくる。
「お前とは違って安心出来る」
フランツは答えた。
「そりゃ年齢はぼくの方が下ですけどね」
「お前の歳など、どうでもいい」
これは言葉通りだった。
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