479 / 526
第一部
第四十六話 オロカモノとハープ(5)
しおりを挟む
「でも、確かにここにずっといるのはまずそうだよね」
時間差を置いてルナは肯った。
「お前らには生きて貰わないといけない……それに」
「それに、なに?」
ズデンカはゴルダヴァ入国直後に襲撃してきたハロスと自分の繋がりを、はっきりとルナやカミーユに開示していなかった。
それはつまり、己の恥を晒すことになるからだ。
ハロスは自分との過去の因果関係により襲撃してきた。既にスワスティカの残党に追われるルナに、余計な迷惑を掛けてしまっている。
全て悪いのは自分だという一言がなかなか告げられなかった。
「何でもない」
「変なの」
ルナは首を傾げた。
「もう行っちゃうんですか?」
カミーユは名残惜しげだった。どうもあのハープの音色にまだ魅了されているらしい。
ズデンカはその手を掴んだ。
「いかねえとダメなんだよ!」
と力強く叫んで。
「は、はい」
カミーユはどもりながら尾いてきた。
アコは呆けた顔でずっと草叢に横たわったままだ。自分で立ち上がる気もないらしい。
ズデンカもさすがに薄気味悪く思えてきた。
カミーユの手を掴んだまま、ズデンカは距離を大きく取った。
ルナもやってくる。
「あいつをどうするんだ」
「放置でいいでしょ」
「そうもいかない。またいつかハープを弾き始めるはずだ。そしたら人死にが出る」
ズデンカは言った。
「わたしたちは別に人助けの旅をしているわけじゃないからね」
ルナが正論で返した。
「そうは言っても放って置けん。お前らは先に戻ってろ」
ズデンカはアコの元へと迫っていった。
「……」
アコは相変わらず喋らない。ズデンカはそれを無理に立たせた。
――そう言えば、なんでこいつはハープの音色で同じないんだ? あのヴァンパイアを前にしても、同じていないようだった。
もしかすると吸血鬼に魅了されるの知能には一定の関係があるのかも知れない。
魅了されることがなく、一心に曲を奏でることが出来るアコは、手駒としてちょうどよかったのだろう。
ズデンカは推測した。
自分にはそういう芸当ができないので、本当のところはわからなかったが。
アコの手を引いて歩き出す。
ヴァンパイアに察知されて襲撃される恐れもあったが、さらなる被害を出すよりはましだと自分を騙しながらズデンカは進む。
「……」
アコは相変わらず話さない。
言葉を交わすことが出来ない相手といることにズデンカは軽い疲れを覚えた。
「どうするつもりなの?」
ルナが興味津々といった様子で訊いてくる。
「どこかの村があればそこに預ける。キシュまで戻るやつがいたら、そいつに連れていって貰う……金は、渡さないといけないな」
「わたしは幾らでも払うけど、君はそれでもいいの? 吝嗇《ケチ》で有名な君が」
ルナはからかうように言った。
「有名じゃねえよ」
ズデンカは打ち消した。
「まあ仕方ないね。わずかの旅の友だけど、行くとしよう。あの吸血鬼に逢わないように気を付けないとね」
「何か方法は思い付かないか?」
ズデンカは焦っていた。
「そうだなぁ」
とルナは指を鳴らした。
途端にその姿は眼の前から消えていた。
「何をした?」
ズデンカは問うた。
ルナがまた姿を現した。
「まあ言ってみれば『迷彩』だね。周囲の風景に溶け込めるように膜《バリア》に細工を施したんだよ」
「そんなことも出来るんだな」
ズデンカは素直に感心した。
時間差を置いてルナは肯った。
「お前らには生きて貰わないといけない……それに」
「それに、なに?」
ズデンカはゴルダヴァ入国直後に襲撃してきたハロスと自分の繋がりを、はっきりとルナやカミーユに開示していなかった。
それはつまり、己の恥を晒すことになるからだ。
ハロスは自分との過去の因果関係により襲撃してきた。既にスワスティカの残党に追われるルナに、余計な迷惑を掛けてしまっている。
全て悪いのは自分だという一言がなかなか告げられなかった。
「何でもない」
「変なの」
ルナは首を傾げた。
「もう行っちゃうんですか?」
カミーユは名残惜しげだった。どうもあのハープの音色にまだ魅了されているらしい。
ズデンカはその手を掴んだ。
「いかねえとダメなんだよ!」
と力強く叫んで。
「は、はい」
カミーユはどもりながら尾いてきた。
アコは呆けた顔でずっと草叢に横たわったままだ。自分で立ち上がる気もないらしい。
ズデンカもさすがに薄気味悪く思えてきた。
カミーユの手を掴んだまま、ズデンカは距離を大きく取った。
ルナもやってくる。
「あいつをどうするんだ」
「放置でいいでしょ」
「そうもいかない。またいつかハープを弾き始めるはずだ。そしたら人死にが出る」
ズデンカは言った。
「わたしたちは別に人助けの旅をしているわけじゃないからね」
ルナが正論で返した。
「そうは言っても放って置けん。お前らは先に戻ってろ」
ズデンカはアコの元へと迫っていった。
「……」
アコは相変わらず喋らない。ズデンカはそれを無理に立たせた。
――そう言えば、なんでこいつはハープの音色で同じないんだ? あのヴァンパイアを前にしても、同じていないようだった。
もしかすると吸血鬼に魅了されるの知能には一定の関係があるのかも知れない。
魅了されることがなく、一心に曲を奏でることが出来るアコは、手駒としてちょうどよかったのだろう。
ズデンカは推測した。
自分にはそういう芸当ができないので、本当のところはわからなかったが。
アコの手を引いて歩き出す。
ヴァンパイアに察知されて襲撃される恐れもあったが、さらなる被害を出すよりはましだと自分を騙しながらズデンカは進む。
「……」
アコは相変わらず話さない。
言葉を交わすことが出来ない相手といることにズデンカは軽い疲れを覚えた。
「どうするつもりなの?」
ルナが興味津々といった様子で訊いてくる。
「どこかの村があればそこに預ける。キシュまで戻るやつがいたら、そいつに連れていって貰う……金は、渡さないといけないな」
「わたしは幾らでも払うけど、君はそれでもいいの? 吝嗇《ケチ》で有名な君が」
ルナはからかうように言った。
「有名じゃねえよ」
ズデンカは打ち消した。
「まあ仕方ないね。わずかの旅の友だけど、行くとしよう。あの吸血鬼に逢わないように気を付けないとね」
「何か方法は思い付かないか?」
ズデンカは焦っていた。
「そうだなぁ」
とルナは指を鳴らした。
途端にその姿は眼の前から消えていた。
「何をした?」
ズデンカは問うた。
ルナがまた姿を現した。
「まあ言ってみれば『迷彩』だね。周囲の風景に溶け込めるように膜《バリア》に細工を施したんだよ」
「そんなことも出来るんだな」
ズデンカは素直に感心した。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
御機嫌ようそしてさようなら ~王太子妃の選んだ最悪の結末
Hinaki
恋愛
令嬢の名はエリザベス。
生まれた瞬間より両親達が創る公爵邸と言う名の箱庭の中で生きていた。
全てがその箱庭の中でなされ、そして彼女は箱庭より外へは出される事はなかった。
ただ一つ月に一度彼女を訪ねる5歳年上の少年を除いては……。
時は流れエリザベスが15歳の乙女へと成長し未来の王太子妃として半年後の結婚を控えたある日に彼女を包み込んでいた世界は崩壊していく。
ゆるふわ設定の短編です。
完結済みなので予約投稿しています。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる