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第一部
第四十四話 炎のなかの絵(8)
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「あたくしの力はもちろん、ご存じのほどだと思うけど? それで眼の前に出てくるとはね」
――しまった。
分身とは言え、ボリバル本人と同じようにものを複製できる。
それがたとえ、人間――いやそれ以外であったとしても。
気付いた時にはもう遅かった。ボリバルの後ろに三つの人影が現れていた。
それは寸分違わぬフランツ、オドラデク、ファキイルだった。
いや、その偽者だ。
「うわぁ、気持ち悪い! 何なんですかこいつぅ! しっしっ!」
オドラデクは追わず叫んでいた。
「お前こそぼくとそっくり! いやですねえぇ!」
オドラデク(偽)が応じた。
先程まで横にいたと言う事実を頭に入れていなかったら、すぐに間違えてしまうほどそっくりだった。
「フランツ」
ファキイルが身構えた。
ファキイル(偽)はそこに無言でぶつかってきた。
「俺は二人と要らない。斬る!」
フランツ(偽)が抜刀し、迫ってきた。
「待て!」
フランツは『薔薇王』でそれを受け止める。
そうは言っても相手の柄物もまた『薔薇王』だ。
さして広くはない室内で剣戟はあまり喜ばしくないことだった。
「そっくりな顔をしやがって!」
迫り合わせた剣同士すれすれに互いの表情を窃《ぬす》み見合った。
「あたくしたちはね、作り出した分身を操ることが出来るの。だから、あたくしたちは原型となるクリスティーネに命じられてスワスティカの支援をずっと続けてきてるってわけ」
ボリバルは悠々と扇子を口元に当てて宣った。
フランツに答える余裕もなかった。何しろ自分と戦っているのだ。
白刃は踊る。
――外に出ないと、このままじゃ埒が開かない。
フランツは窓の方を見た。穏やかな初夏の日差しが差し込んでいる。
――壁を壊す。
フランツは偽者の刃を躱し、その下をかいくぐり、窓に面した壁を『薔薇王』で両断した。
またたくまに壁は崩れ、外の景色が現れた。
フランツは走り出た。
「さすがは俺」
フランツ(偽)は笑いながら、室内から飛び出してフランツとまた剣を合わせた。
「お前は決して俺には勝てない!」
フランツは飽くまで表情を変えなかった。
――やはりこいつは偽者だ。
どこがとははっきり言えなかったが、こんな状況でも笑みを浮かべられるような余裕が自分にはない。
だが剣筋は確かだ。
どんなに素早く動いても、確実に受け止められる。敏捷さもまさしく訓練で身につけたものだ。
幾度も幾度も打ち合わせてもどちらの『薔薇王』も瑕一つ付いていない。
――剣までかよ。
鍛冶屋が精魂込めて鍛え上げた剣を、いとも簡単にもう一本複製できるのかと考えると厭な気分になった。
「なら、これはどうかな」
フランツは一計を案じた。
「なんだ?」
「ルナ・ペルッツ」
フランツは囁いた。
一瞬、フランツ(偽)の表情が揺らいだ。当惑しているようだった。
――今だ。
フランツは剣を揮った。血飛沫が上がる。
首筋ごとフランツの偽者は両断されていた。
――もちろん。
フランツはその手から『薔薇王』を引き抜き、勢いを付けて家の方へ投げ上げた。
「ぐえっ」
叫びが上がる。
『薔薇王』はのんびり机に座って観戦していた複製されたボリバルの心臓を貫いたのだ。
すぐに複製できる能力の持ち主を殺さないとフランツは何度でも偽者と戦わされることになる。
――二度と同じ手は食わんぞ。
「オドラデク! ファキイル!」
自分のことで手一杯だったフランツは周囲を見渡した。
――しまった。
分身とは言え、ボリバル本人と同じようにものを複製できる。
それがたとえ、人間――いやそれ以外であったとしても。
気付いた時にはもう遅かった。ボリバルの後ろに三つの人影が現れていた。
それは寸分違わぬフランツ、オドラデク、ファキイルだった。
いや、その偽者だ。
「うわぁ、気持ち悪い! 何なんですかこいつぅ! しっしっ!」
オドラデクは追わず叫んでいた。
「お前こそぼくとそっくり! いやですねえぇ!」
オドラデク(偽)が応じた。
先程まで横にいたと言う事実を頭に入れていなかったら、すぐに間違えてしまうほどそっくりだった。
「フランツ」
ファキイルが身構えた。
ファキイル(偽)はそこに無言でぶつかってきた。
「俺は二人と要らない。斬る!」
フランツ(偽)が抜刀し、迫ってきた。
「待て!」
フランツは『薔薇王』でそれを受け止める。
そうは言っても相手の柄物もまた『薔薇王』だ。
さして広くはない室内で剣戟はあまり喜ばしくないことだった。
「そっくりな顔をしやがって!」
迫り合わせた剣同士すれすれに互いの表情を窃《ぬす》み見合った。
「あたくしたちはね、作り出した分身を操ることが出来るの。だから、あたくしたちは原型となるクリスティーネに命じられてスワスティカの支援をずっと続けてきてるってわけ」
ボリバルは悠々と扇子を口元に当てて宣った。
フランツに答える余裕もなかった。何しろ自分と戦っているのだ。
白刃は踊る。
――外に出ないと、このままじゃ埒が開かない。
フランツは窓の方を見た。穏やかな初夏の日差しが差し込んでいる。
――壁を壊す。
フランツは偽者の刃を躱し、その下をかいくぐり、窓に面した壁を『薔薇王』で両断した。
またたくまに壁は崩れ、外の景色が現れた。
フランツは走り出た。
「さすがは俺」
フランツ(偽)は笑いながら、室内から飛び出してフランツとまた剣を合わせた。
「お前は決して俺には勝てない!」
フランツは飽くまで表情を変えなかった。
――やはりこいつは偽者だ。
どこがとははっきり言えなかったが、こんな状況でも笑みを浮かべられるような余裕が自分にはない。
だが剣筋は確かだ。
どんなに素早く動いても、確実に受け止められる。敏捷さもまさしく訓練で身につけたものだ。
幾度も幾度も打ち合わせてもどちらの『薔薇王』も瑕一つ付いていない。
――剣までかよ。
鍛冶屋が精魂込めて鍛え上げた剣を、いとも簡単にもう一本複製できるのかと考えると厭な気分になった。
「なら、これはどうかな」
フランツは一計を案じた。
「なんだ?」
「ルナ・ペルッツ」
フランツは囁いた。
一瞬、フランツ(偽)の表情が揺らいだ。当惑しているようだった。
――今だ。
フランツは剣を揮った。血飛沫が上がる。
首筋ごとフランツの偽者は両断されていた。
――もちろん。
フランツはその手から『薔薇王』を引き抜き、勢いを付けて家の方へ投げ上げた。
「ぐえっ」
叫びが上がる。
『薔薇王』はのんびり机に座って観戦していた複製されたボリバルの心臓を貫いたのだ。
すぐに複製できる能力の持ち主を殺さないとフランツは何度でも偽者と戦わされることになる。
――二度と同じ手は食わんぞ。
「オドラデク! ファキイル!」
自分のことで手一杯だったフランツは周囲を見渡した。
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