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第一部
第四十四話 炎のなかの絵(1)
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――ランドルフィ王国中部パヴェーゼ
ベッドに寝そべったスワスティカ猟人《ハンター》フランツ・シュルツは天井を睨んでいた。
先日、スワスティカ残党の小人たちを殺害し、その経過を大部の報告書にまとめて所属するシエラレオーネ政府へと送った。
丸一日潰して完成させたため、疲れもあってまた横になってしまったのだが、かえって眠れない。
――何日も寝込んでいたからだな。
同行者であるオドラデクやファキイルの助けは借りなかった。
聞けば何か智慧は借りられるかも知れないが、借りを作ると面倒だし、内容を見られたくもなかった。
とは言えオドラデクはちらちら覗き込んでくる。
「フランツさぁん、フランツさぁん。遊びましょうよぉ、ぷはー!」
と葉巻の煙を吐きながら。
先日小人から奪い取った品物だ。
根っからの嫌煙家フランツは顔を顰めた。
煙と言えばルナ・ペルッツだ。
フランツは物思いをしてしまう。
吹きかけられた記憶は数多いが、結局喫《の》みはしなかった。
正直興味はなかったが身体に与える影響を考えてしまう。
とくに――フランツは今まで考えたこともなかったが、ルナは子供が産めるのだ。
ルナは女が好きだから、そういうことを望みはしないだろう。だが、女同士でも子供を作る者がいると噂では訊く。望まぬ妊娠もあるかもしれない。
もし万が一そういうこともあれば、喫煙や飲酒の影響は計り知れない。
フランツは心配してしまう。
子供を作り、育てることが正しいことだと心のどこかで思っているフランツは。
まるでルナは死を待ち兼ねているかのように煙と酔いにまみれていた。
――いやいや。何気持ちの悪いことを考えているんだ。
死ぬといえば自分も死ぬ。それは遠いか近いかで言えば近いだろう。このような戦いに明け暮れていてはいつ殺されてもおかしくない。
他人より自分の心配だ。
フランツは身を起こした。
「行くぞ。出発だ」
「どこへ?」
「さらに南部へ。クリスティーネ・ボリバルに関するヒントを何とかして掴みたい」
「はへえ。フランツさんお気に入りのルナ・ペルッツを追えばいいのに」
この言い草をフランツは心の中を見透かされたかのように感じて驚いてしまった。
「お気に入りではない」
「あれ、フランツさん。ちょっと顔が赤くなりましたぁ?」
オドラデクはニヤニヤした。
――こういう時だけ勘が鋭いんだよな、こいつは。嫌になる。
「うるさい」
と言い置いてフランツは荷造りを始めた。
最小限のものだけ残して後は処分する。オドラデクには嫌そうな顔をされたが、葉巻も何本か売り払って金に変えた。
「フランツ、行くのか」
さっきからずっと黙っていたファキイルが声を上げた。
と言うか最近ファキイルはいつもずっとそうしている。街を歩くことも何もせず、宙を見詰めて瞬きもせず物思いをしているからまるで人形のようだ。
「ああ」
フランツは手短に答えた。ファキイルはこれでついてくる。
正直フランツはファキイルに恩義を感じ始めてしまっていた。実際無関係にも拘わらず、友人のためと人を殺める手伝いまでさせてしまっている。
もちろん、オドラデクもそうだが奴は軽口を叩くのでありがたい印象がない。
だが、ファキイルは何も言わず、ただひたすら尾いてきてくれる。
フランツはそういうのが苦手だった。
ベッドに寝そべったスワスティカ猟人《ハンター》フランツ・シュルツは天井を睨んでいた。
先日、スワスティカ残党の小人たちを殺害し、その経過を大部の報告書にまとめて所属するシエラレオーネ政府へと送った。
丸一日潰して完成させたため、疲れもあってまた横になってしまったのだが、かえって眠れない。
――何日も寝込んでいたからだな。
同行者であるオドラデクやファキイルの助けは借りなかった。
聞けば何か智慧は借りられるかも知れないが、借りを作ると面倒だし、内容を見られたくもなかった。
とは言えオドラデクはちらちら覗き込んでくる。
「フランツさぁん、フランツさぁん。遊びましょうよぉ、ぷはー!」
と葉巻の煙を吐きながら。
先日小人から奪い取った品物だ。
根っからの嫌煙家フランツは顔を顰めた。
煙と言えばルナ・ペルッツだ。
フランツは物思いをしてしまう。
吹きかけられた記憶は数多いが、結局喫《の》みはしなかった。
正直興味はなかったが身体に与える影響を考えてしまう。
とくに――フランツは今まで考えたこともなかったが、ルナは子供が産めるのだ。
ルナは女が好きだから、そういうことを望みはしないだろう。だが、女同士でも子供を作る者がいると噂では訊く。望まぬ妊娠もあるかもしれない。
もし万が一そういうこともあれば、喫煙や飲酒の影響は計り知れない。
フランツは心配してしまう。
子供を作り、育てることが正しいことだと心のどこかで思っているフランツは。
まるでルナは死を待ち兼ねているかのように煙と酔いにまみれていた。
――いやいや。何気持ちの悪いことを考えているんだ。
死ぬといえば自分も死ぬ。それは遠いか近いかで言えば近いだろう。このような戦いに明け暮れていてはいつ殺されてもおかしくない。
他人より自分の心配だ。
フランツは身を起こした。
「行くぞ。出発だ」
「どこへ?」
「さらに南部へ。クリスティーネ・ボリバルに関するヒントを何とかして掴みたい」
「はへえ。フランツさんお気に入りのルナ・ペルッツを追えばいいのに」
この言い草をフランツは心の中を見透かされたかのように感じて驚いてしまった。
「お気に入りではない」
「あれ、フランツさん。ちょっと顔が赤くなりましたぁ?」
オドラデクはニヤニヤした。
――こういう時だけ勘が鋭いんだよな、こいつは。嫌になる。
「うるさい」
と言い置いてフランツは荷造りを始めた。
最小限のものだけ残して後は処分する。オドラデクには嫌そうな顔をされたが、葉巻も何本か売り払って金に変えた。
「フランツ、行くのか」
さっきからずっと黙っていたファキイルが声を上げた。
と言うか最近ファキイルはいつもずっとそうしている。街を歩くことも何もせず、宙を見詰めて瞬きもせず物思いをしているからまるで人形のようだ。
「ああ」
フランツは手短に答えた。ファキイルはこれでついてくる。
正直フランツはファキイルに恩義を感じ始めてしまっていた。実際無関係にも拘わらず、友人のためと人を殺める手伝いまでさせてしまっている。
もちろん、オドラデクもそうだが奴は軽口を叩くのでありがたい印象がない。
だが、ファキイルは何も言わず、ただひたすら尾いてきてくれる。
フランツはそういうのが苦手だった。
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