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第一部
第四十二話 仲間(8)
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二人はハロスの両側へと組み付いた。
ズデンカは出せる限りの力でハロスの上半身を引きちぎった。大蟻喰は下半身だ。
もちろん血は流れず、ちぎられた部分は再び結びつこうとする。
だがズデンカはハロスの上半身を抱えたまま勢いよく疾走した。
「お前、何をする!」
ハロスは喚いた。
「上下に遠くに裂かれちゃあ、簡単には元に戻れない?」
吸血鬼の弱点は吸血鬼が一番よくわかっている。ズデンカも自分の身体をどこかに隠されたら再生できない。
反対に身体が粉々になっていても原型が戻せるならば元に戻ることが出来る。
ズデンカはルナたちが乗っているトラックの方角へ向かいながら、ハロスの腰を抱え逆へと走っている大蟻喰を見詰めた。
「クソッ!」
ハロスは叫んだ。
「この姿なら満足に飛ぶことも出来ねえだろ!」
ズデンカは嘲笑った。
無事にトラックが眼の前を過ぎていったところでズデンカはハロスの胴体を図面に叩き付け、足で押さえると、そばに生えていた杉の木を片手で軽々と引き抜いた。
そしてその根っこををハロスの腹に向けて勢いよく打ち下ろす。
「ぐっ!」
地面に留められたハロスは声を詰まらせた。
「あばよ」
ズデンカは走り出した。大蟻喰がちゃんと下半身を処理できるか不安だったが、今はトラックに追い付くのが先決だ。
勢いよく走ると瞬く間に詰まれた藁束が視界に飛び込んできた。
「お疲れ」
ジャンプして二台に飛び乗ったズデンカをルナは煙を吐いて出迎えた。
「お疲れ、じゃねえよ」
ズデンカは大股を開いて二台に腰を下ろした。
「品がないよ」
ルナが半笑いで言う。
「うるせえ」
「ズデンカさん、お帰りです。肩揉みましょうか?」
カミーユは言う。
「いやいい。あたしは疲れないからな。男相手にそんなことするんじゃねえぞ?」
ズデンカは睨んだ。
「はい!」
カミーユは微笑んだ。
――萎縮しないだけましになった。さて。
ズデンカは俯いている他の二人を見やった。
「あいつはルナだけじゃなく、お前らも二人も殺そうとしたんだぞ」
ズデンカは静かに言った。
「それで感謝してくれ、などと言う訳じゃねえが」
と控えめに付け加える。
「ありがとうございます」
エルヴィラは頭を下げた。
そうなるとズデンカが面食らってしまう。
「んなことしなくていいぞ」
「ズデンカさま、あなたは吸血鬼《ヴルダラク》ですよね」
いきなりアグニシュカが言った。その顔は蒼白く震え始めていた。
「ゴルダヴァで生まれた私は知っています。夜になると人の生き血をすする化け物の話を……常人を越える力を持ち、一日に千里を駈けると言われ……そうじゃないとトラックを飛び下りてあんなに走れるわけがない!」
「だとしたらどうだ?」
ズデンカは言った。
――クソッ。さっきまで少し雰囲気がましになってたのに一気に逆戻り、いやそれ以上になってしまった。
「でも、わたくしたちを助けてくださったのよ」
エルヴィラは打ち消すかのように言った。
だが、その表情は曇っている。
「……」
アグニシュカは怪訝《かいが》の眼でズデンカを見ていた。
「吸血鬼《ヴルダラク》で何が悪いんだよ。あたしだってお前らと同じように怒ったりするぞ?」
ズデンカは言った。
「まあまあ」
ルナがぴょこんと間に入り込んだ。
「化け物と言うなら、わたしも化け物のようなものです。この世にないものを実体化できるんですから。こっちのカミーユだって化け物だ。あれほど狙い澄ましてナイフを投げられる人なんて簡単にはいやしない」
わかりやすい詭弁だったがズデンカには助け船になった。
ズデンカは出せる限りの力でハロスの上半身を引きちぎった。大蟻喰は下半身だ。
もちろん血は流れず、ちぎられた部分は再び結びつこうとする。
だがズデンカはハロスの上半身を抱えたまま勢いよく疾走した。
「お前、何をする!」
ハロスは喚いた。
「上下に遠くに裂かれちゃあ、簡単には元に戻れない?」
吸血鬼の弱点は吸血鬼が一番よくわかっている。ズデンカも自分の身体をどこかに隠されたら再生できない。
反対に身体が粉々になっていても原型が戻せるならば元に戻ることが出来る。
ズデンカはルナたちが乗っているトラックの方角へ向かいながら、ハロスの腰を抱え逆へと走っている大蟻喰を見詰めた。
「クソッ!」
ハロスは叫んだ。
「この姿なら満足に飛ぶことも出来ねえだろ!」
ズデンカは嘲笑った。
無事にトラックが眼の前を過ぎていったところでズデンカはハロスの胴体を図面に叩き付け、足で押さえると、そばに生えていた杉の木を片手で軽々と引き抜いた。
そしてその根っこををハロスの腹に向けて勢いよく打ち下ろす。
「ぐっ!」
地面に留められたハロスは声を詰まらせた。
「あばよ」
ズデンカは走り出した。大蟻喰がちゃんと下半身を処理できるか不安だったが、今はトラックに追い付くのが先決だ。
勢いよく走ると瞬く間に詰まれた藁束が視界に飛び込んできた。
「お疲れ」
ジャンプして二台に飛び乗ったズデンカをルナは煙を吐いて出迎えた。
「お疲れ、じゃねえよ」
ズデンカは大股を開いて二台に腰を下ろした。
「品がないよ」
ルナが半笑いで言う。
「うるせえ」
「ズデンカさん、お帰りです。肩揉みましょうか?」
カミーユは言う。
「いやいい。あたしは疲れないからな。男相手にそんなことするんじゃねえぞ?」
ズデンカは睨んだ。
「はい!」
カミーユは微笑んだ。
――萎縮しないだけましになった。さて。
ズデンカは俯いている他の二人を見やった。
「あいつはルナだけじゃなく、お前らも二人も殺そうとしたんだぞ」
ズデンカは静かに言った。
「それで感謝してくれ、などと言う訳じゃねえが」
と控えめに付け加える。
「ありがとうございます」
エルヴィラは頭を下げた。
そうなるとズデンカが面食らってしまう。
「んなことしなくていいぞ」
「ズデンカさま、あなたは吸血鬼《ヴルダラク》ですよね」
いきなりアグニシュカが言った。その顔は蒼白く震え始めていた。
「ゴルダヴァで生まれた私は知っています。夜になると人の生き血をすする化け物の話を……常人を越える力を持ち、一日に千里を駈けると言われ……そうじゃないとトラックを飛び下りてあんなに走れるわけがない!」
「だとしたらどうだ?」
ズデンカは言った。
――クソッ。さっきまで少し雰囲気がましになってたのに一気に逆戻り、いやそれ以上になってしまった。
「でも、わたくしたちを助けてくださったのよ」
エルヴィラは打ち消すかのように言った。
だが、その表情は曇っている。
「……」
アグニシュカは怪訝《かいが》の眼でズデンカを見ていた。
「吸血鬼《ヴルダラク》で何が悪いんだよ。あたしだってお前らと同じように怒ったりするぞ?」
ズデンカは言った。
「まあまあ」
ルナがぴょこんと間に入り込んだ。
「化け物と言うなら、わたしも化け物のようなものです。この世にないものを実体化できるんですから。こっちのカミーユだって化け物だ。あれほど狙い澄ましてナイフを投げられる人なんて簡単にはいやしない」
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