上 下
441 / 526
第一部

第四十二話 仲間(7)

しおりを挟む
 男を信じないズデンカはこのブラゴタの発言もどこまで信じていいか怪しんではいた。

――この人の良さそうな笑みもどこまで信じられるか。こっそり住所を聞いて後でつけ回したりするやつもいるしな。

 過去の経験上、そう考えてしまうのだったが、今はそれよりアグニシュカたちと少しでも打ち解けたかった。

「別にそれぐらいですよ。私がエルヴィラさまの指を手当てした。そこから色々話すようになって……普通です。別にズデンカさまにお話出来るようなことは」

「おう、やっと名前で呼んだな」

 ズデンカは鼻で笑った。

「はっ」

 アグニシュカは思わず口を押さえていた。

「別にいいんだよ。様もいらねえからな。あたしはお前がなぜそんなに敵意を向けてくるのか謎なだけだ」

「異邦人だからです」 

 アグニシュカはこぼした。

「異邦人だと? よく考えてみろ。お前もこの国の生まれだってエルヴィラから聞いたぞ。あたしもそうだ」

「この国で生まれたといえ、父母ともにヴィトカツイです。あなたとは違う」

 アグニシュカは笑みを一切浮かべないままで言った。

「ここで育ったんだろ。じゃあ似たようなもんだ。人種は関係ねえ。それにあたしは……」

 ズデンカがそう言った瞬間。

 大きくトラックが揺れた。

「なんか飛んでくるよ!」

 ずっと外の様子を覗ってきたルナが叫ぶ。

 無数の砂や岩が飛礫《つぶて》となって飛んできた。

 トラックの周りにはすでに膜《バリア》が張られていて弾き返された。

――やつらだ。

 ハロスと大蟻喰だった。二人が草原を移動しながら組んずほぐれつもつれ合っていたのだ。

「あれはステラかぁ。これまたすごい恰好だね」

 ルナは暢気そうに言った。

――一目で見抜くお前がすげえよ。

 ズデンカは心の中で突っ込んだ。

 ともあれ、不死者でないはずの大蟻喰が対等に渡り合えているということに驚きしか感じられなかった。

「ともかく、何とかしてよ」

 ルナがさも当然のかのように言った。

「わたしが行きましょうか?」

 カミーユが手を上げる。

「一つしかない命だ。大事にしろ。できれば後ろから掩護を頼む!」

「はい」

 ズデンカはまたこの展開かと思いながらため息を吐いてトラックを飛び下りた。

 靴の裏が擦れて磨り減ったが、構わず体勢を整え、ハロスと大蟻喰の方へ走っていく。
 
「お前らいい加減にしろ!」

 ズデンカは大蟻喰に感謝してはいた。だが自分の仲間に危険が及びそうになった以上止めなければならない。

 合挽肉のように絡まり合っていた両者は、ただちに離れる。

「なんだよいきなりいなくなって!」

 ズデンカの横に立った大蟻喰は野太い声で叫んだ。

「うるせえ」

 ズデンカは耳に栓をする真似をした。

 「あたしらはまずルナを守らないといけないだろ。そこは一致するはずだ」

 とりあえず、共通の利害を捜すことにした。

「うん……そうだよね」

 大蟻喰は妙にしおらしく応じた。

「ズデンカ!」

 大音声でハロスは叫んだ。

「お前に尾いていく気はない! あたしには仲間がいる」

 ズデンカはハロスを睨み付け叫んだ。

「じゃあ、死ね!」

 不可能なことをハロスは叫び返す。

 物凄い勢いで驀進してきた。

「考えてることは大方同じだろう。やるぜ」

 ズデンカは大蟻喰の巨軀を見上げて視線を合わせた。

「わかってるよ」

 大蟻喰は応じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生幼女は幸せを得る。

泡沫 呉羽
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!? 今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−

さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】 私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。 もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。 ※マークは残酷シーン有り ※(他サイトでも投稿中)

転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜

みおな
ファンタジー
 私の名前は、瀬尾あかり。 37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。  そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。  今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。  それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。  そして、目覚めた時ー

動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョンを探索する 配信中にレッドドラゴンを手懐けたら大バズりしました!

海夏世もみじ
ファンタジー
 旧題:動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョン配信中にレッドドラゴン手懐けたら大バズりしました  動物に好かれまくる体質を持つ主人公、藍堂咲太《あいどう・さくた》は、友人にダンジョンカメラというものをもらった。  そのカメラで暇つぶしにダンジョン配信をしようということでダンジョンに向かったのだが、イレギュラーのレッドドラゴンが現れてしまう。  しかし主人公に攻撃は一切せず、喉を鳴らして好意的な様子。その様子が全て配信されており、拡散され、大バズりしてしまった!  戦闘力ミジンコ主人公が魔物や幻獣を手懐けながらダンジョンを進む配信のスタート!

砂漠の中の白い行列

宇美
歴史・時代
舞台女優 柳音紅の見た夢。 京劇、中国文学、映画等好きな方におすすめです。

信徒守護官カトリナの辺境ライフ〜魔王討伐後、救済はじめました〜

藤原遊
ファンタジー
「魔王討伐で平和が戻る?そんなわけないでしょ!」 かつて魔王討伐の前線で戦い抜いた伝説のシスター、カトリナ。教会から授かったのは……栄誉でも感謝でもなく、“辺境送り”の命令だった!? 魔物の残党に盗賊、そして復興を拒む村人たち。問題山積みの土地で、破戒僧カトリナの拳と浄化魔法が今日も火を噴く! しかし、集まった他の信徒守護官たちも一筋縄ではいかないキャラばかり。 熱血騎士のレオナール、無口な結界使いアメリア、皮肉屋の元盗賊ユリウス、無骨な盾使いバルド……クセ強な仲間たちと共に、復興への道を突き進む! 「破壊から始める救済なんて、私たちにしかできませんよ!」 (ツッコミ役のリリアナ:「いやいや、それ普通は救済じゃないですから!」) 魔王討伐後の世界で繰り広げられる、笑いと涙の復興奮闘記。 「平和って、こんなに体力使うんですか!?」

四つの前世を持つ青年、冒険者養成学校にて「元」子爵令嬢の夢に付き合う 〜護国の武士が無双の騎士へと至るまで〜

最上 虎々
ファンタジー
ソドムの少年から平安武士、さらに日本兵から二十一世紀の男子高校生へ。 一つ一つの人生は短かった。 しかし幸か不幸か、今まで自分がどんな人生を歩んできたのかは覚えている。 だからこそ、今度こそは長生きして、添い遂げるべき人と添い遂げたい。 そんな想いを胸に、青年は四度目の命にして今までの三回とは別の世界に転生した。 世界が違えば、少しは生き延び易いかもしれない。 そんな勘違いをしてしまった早死にの男が、今度こそ何者かになる物語。 本作は、「小説家になろう」、「カクヨム」、にも投稿しております。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...