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第一部
第四十二話 仲間(3)
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ハロスは宙に浮かんでいた。ズデンカを遙かに上回る速さでスイスイと進んでいく。
――クソッ。あたしの方が年季が入ってるはずなのに。
ズデンカは悔しかった。
辛うじて近付き相手の肩を引っ掴む。
「おい!」
だが強い力で引き離された。
ズデンカはかなり力の強い方だ。
それがこうもやすやすと剥がされるとは。
――なら。
ズデンカは勢い込めて体当たりした。
流石にハロスは蹌踉めいて墜落した。
ズデンカはそのうえに背中から全力でのししかかる。
「いかせねえ」
「邪魔するな!」
ハロスは喚いた。はねのけようとしてくる。凄い力だ。ズデンカは全力を使って押さえつけた。腕へし折られそうになっても再生する。ハロスもズデンカに攻撃を受けても再生するのでまさに永遠に続く水の掛け合いと言えた。
――だから吸血鬼は互いに干渉しないようになっていくのが普通だ。それが今さら徒党など。
ズデンカは内心失笑した。
やがて両者弾けるように身を引き離して向かい合った。
――埒が開かん。
ズデンカは焦った。早めにエルヴィラのところまで戻らなければいけない。だがハロスをなんとかせずに戻ったら皆が被害に遭う可能性が高い。
他に同等の力を持つ仲間がいれば何とかなりそうだったがそれも望み薄だ。
「俺たちが戦っても仕方ない永遠に勝負が付かないんだから」
ハロスも焦れてきたようだ。
「ならルナに手出しをするのは止めろ」
「ルナって言うのか……ズデンカの食い……仲間は……悔しい。俺は名前さえ覚えて貰えていないのに」
ハロスは顔を歪めた。
ズデンカは驚いた。血筋も国も違う吸血鬼にそこまで執着される理由がわからなかったからだ。
ズデンカは過去知り合った相手に求めてこられることが多々あり、その度に拒んできた。
出会い頭に結婚を申し込まれたときは魂消たが。
実際ハロスの名前すら覚えていないほどなのだから、繋がりは薄い相手だったはずだ。交わした会話もほとんど記憶がない。
――それなのになぜここまであたしと仲間になりたがる?
ズデンカは不可解だった。
「あたしはお前をほとんど知らない。そんなやつと仲間になれるわけがない」
「これから仲良くなればいい。吸血鬼は同じ仲間と連む方がいいんだ」
ハロスは言い募る。
会話を長引かせるぐらいしかやりようがない。
実際ハロスはズデンカといつまでも話していたいようだった。
――誰か。
ズデンカは心の中で願った。
「ずいぶん好き勝手言ってくれじゃないか」
聞き覚えのある声がした。
大蟻喰だ。
川の畔の木陰に隠れていたらしい。
「尾けてきてたのかよ」
ズデンカは悪態を吐く。
「キミは来て欲しそうだったね」
大蟻喰は相好を崩した。
「んな訳ねえよ」
嘘だった。
「お前は誰だ? 人間など相手にしてない」
「ボクの方でようがある。キミ、ルナのことを食い物だとか呼んでただろ」
「だからどうした人間などはすべて食い物だ!」
ハロスは叫ぶ。
「はあ、やれやれ。人間は素晴らしいよ。素晴らしいがゆえに滅ぶべきだけどね。この二律背反をキミは絶対に理解しようとしないだろうな」
大蟻喰はハロスへ距離を詰めた。
「はあ? 俺の相手をする気か? お前なんぞ。一撃で殺せる。良いのか?」
「その言葉、そっくり返上するよ」
大蟻喰は更に近付いた。
「『貪食《フェラガイ》』!」
途端に大蟻喰の腹部から肩に掛けて異常な膨張が始まった。メリメリ激しい音を立てて肉の塊が盛り上がる。肩骨と背骨も伸びていた。
――クソッ。あたしの方が年季が入ってるはずなのに。
ズデンカは悔しかった。
辛うじて近付き相手の肩を引っ掴む。
「おい!」
だが強い力で引き離された。
ズデンカはかなり力の強い方だ。
それがこうもやすやすと剥がされるとは。
――なら。
ズデンカは勢い込めて体当たりした。
流石にハロスは蹌踉めいて墜落した。
ズデンカはそのうえに背中から全力でのししかかる。
「いかせねえ」
「邪魔するな!」
ハロスは喚いた。はねのけようとしてくる。凄い力だ。ズデンカは全力を使って押さえつけた。腕へし折られそうになっても再生する。ハロスもズデンカに攻撃を受けても再生するのでまさに永遠に続く水の掛け合いと言えた。
――だから吸血鬼は互いに干渉しないようになっていくのが普通だ。それが今さら徒党など。
ズデンカは内心失笑した。
やがて両者弾けるように身を引き離して向かい合った。
――埒が開かん。
ズデンカは焦った。早めにエルヴィラのところまで戻らなければいけない。だがハロスをなんとかせずに戻ったら皆が被害に遭う可能性が高い。
他に同等の力を持つ仲間がいれば何とかなりそうだったがそれも望み薄だ。
「俺たちが戦っても仕方ない永遠に勝負が付かないんだから」
ハロスも焦れてきたようだ。
「ならルナに手出しをするのは止めろ」
「ルナって言うのか……ズデンカの食い……仲間は……悔しい。俺は名前さえ覚えて貰えていないのに」
ハロスは顔を歪めた。
ズデンカは驚いた。血筋も国も違う吸血鬼にそこまで執着される理由がわからなかったからだ。
ズデンカは過去知り合った相手に求めてこられることが多々あり、その度に拒んできた。
出会い頭に結婚を申し込まれたときは魂消たが。
実際ハロスの名前すら覚えていないほどなのだから、繋がりは薄い相手だったはずだ。交わした会話もほとんど記憶がない。
――それなのになぜここまであたしと仲間になりたがる?
ズデンカは不可解だった。
「あたしはお前をほとんど知らない。そんなやつと仲間になれるわけがない」
「これから仲良くなればいい。吸血鬼は同じ仲間と連む方がいいんだ」
ハロスは言い募る。
会話を長引かせるぐらいしかやりようがない。
実際ハロスはズデンカといつまでも話していたいようだった。
――誰か。
ズデンカは心の中で願った。
「ずいぶん好き勝手言ってくれじゃないか」
聞き覚えのある声がした。
大蟻喰だ。
川の畔の木陰に隠れていたらしい。
「尾けてきてたのかよ」
ズデンカは悪態を吐く。
「キミは来て欲しそうだったね」
大蟻喰は相好を崩した。
「んな訳ねえよ」
嘘だった。
「お前は誰だ? 人間など相手にしてない」
「ボクの方でようがある。キミ、ルナのことを食い物だとか呼んでただろ」
「だからどうした人間などはすべて食い物だ!」
ハロスは叫ぶ。
「はあ、やれやれ。人間は素晴らしいよ。素晴らしいがゆえに滅ぶべきだけどね。この二律背反をキミは絶対に理解しようとしないだろうな」
大蟻喰はハロスへ距離を詰めた。
「はあ? 俺の相手をする気か? お前なんぞ。一撃で殺せる。良いのか?」
「その言葉、そっくり返上するよ」
大蟻喰は更に近付いた。
「『貪食《フェラガイ》』!」
途端に大蟻喰の腹部から肩に掛けて異常な膨張が始まった。メリメリ激しい音を立てて肉の塊が盛り上がる。肩骨と背骨も伸びていた。
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