上 下
437 / 526
第一部

第四十二話 仲間(3)

しおりを挟む
  ハロスは宙に浮かんでいた。ズデンカを遙かに上回る速さでスイスイと進んでいく。

 ――クソッ。あたしの方が年季が入ってるはずなのに。

 ズデンカは悔しかった。

 辛うじて近付き相手の肩を引っ掴む。

「おい!」

 だが強い力で引き離された。

 ズデンカはかなり力の強い方だ。

 それがこうもやすやすと剥がされるとは。

――なら。

 ズデンカは勢い込めて体当たりした。

 流石にハロスは蹌踉めいて墜落した。

 ズデンカはそのうえに背中から全力でのししかかる。

「いかせねえ」

「邪魔するな!」

 ハロスは喚いた。はねのけようとしてくる。凄い力だ。ズデンカは全力を使って押さえつけた。腕へし折られそうになっても再生する。ハロスもズデンカに攻撃を受けても再生するのでまさに永遠に続く水の掛け合いと言えた。

――だから吸血鬼は互いに干渉しないようになっていくのが普通だ。それが今さら徒党など。

 ズデンカは内心失笑した。

 やがて両者弾けるように身を引き離して向かい合った。

――埒が開かん。

 ズデンカは焦った。早めにエルヴィラのところまで戻らなければいけない。だがハロスをなんとかせずに戻ったら皆が被害に遭う可能性が高い。

 他に同等の力を持つ仲間がいれば何とかなりそうだったがそれも望み薄だ。

「俺たちが戦っても仕方ない永遠に勝負が付かないんだから」

 ハロスも焦れてきたようだ。

「ならルナに手出しをするのは止めろ」

「ルナって言うのか……ズデンカの食い……仲間は……悔しい。俺は名前さえ覚えて貰えていないのに」

 ハロスは顔を歪めた。

 ズデンカは驚いた。血筋も国も違う吸血鬼にそこまで執着される理由がわからなかったからだ。

 ズデンカは過去知り合った相手に求めてこられることが多々あり、その度に拒んできた。

 出会い頭に結婚を申し込まれたときは魂消たが。

 実際ハロスの名前すら覚えていないほどなのだから、繋がりは薄い相手だったはずだ。交わした会話もほとんど記憶がない。

――それなのになぜここまであたしと仲間になりたがる?

 ズデンカは不可解だった。

「あたしはお前をほとんど知らない。そんなやつと仲間になれるわけがない」

「これから仲良くなればいい。吸血鬼は同じ仲間と連む方がいいんだ」

 ハロスは言い募る。

 会話を長引かせるぐらいしかやりようがない。

 実際ハロスはズデンカといつまでも話していたいようだった。

――誰か。

 ズデンカは心の中で願った。

「ずいぶん好き勝手言ってくれじゃないか」

 聞き覚えのある声がした。

 大蟻喰だ。

 川の畔の木陰に隠れていたらしい。

「尾けてきてたのかよ」 

 ズデンカは悪態を吐く。

「キミは来て欲しそうだったね」

 大蟻喰は相好を崩した。

「んな訳ねえよ」

 嘘だった。

「お前は誰だ? 人間など相手にしてない」

「ボクの方でようがある。キミ、ルナのことを食い物だとか呼んでただろ」

「だからどうした人間などはすべて食い物だ!」

 ハロスは叫ぶ。

「はあ、やれやれ。人間は素晴らしいよ。素晴らしいがゆえに滅ぶべきだけどね。この二律背反をキミは絶対に理解しようとしないだろうな」

 大蟻喰はハロスへ距離を詰めた。

「はあ? 俺の相手をする気か? お前なんぞ。一撃で殺せる。良いのか?」

「その言葉、そっくり返上するよ」

 大蟻喰は更に近付いた。

「『貪食《フェラガイ》』!」

 途端に大蟻喰の腹部から肩に掛けて異常な膨張が始まった。メリメリ激しい音を立てて肉の塊が盛り上がる。肩骨と背骨も伸びていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『濁』なる俺は『清』なる幼馴染と決別する

はにわ
ファンタジー
主人公ゴウキは幼馴染である女勇者クレアのパーティーに属する前衛の拳闘士である。 スラムで育ち喧嘩に明け暮れていたゴウキに声をかけ、特待生として学校に通わせてくれたクレアに恩を感じ、ゴウキは苛烈な戦闘塗れの勇者パーティーに加入して日々活躍していた。 だがクレアは人の良い両親に育てられた人間を疑うことを知らずに育った脳内お花畑の女の子。 そんな彼女のパーティーにはエリート神官で腹黒のリフト、クレアと同じくゴウキと幼馴染の聖女ミリアと、剣聖マリスというリーダーと気持ちを同じくするお人よしの聖人ばかりが揃う。 勇者パーティーの聖人達は普段の立ち振る舞いもさることながら、戦いにおいても「美しい」と言わしめるスマートな戦いぶりに周囲は彼らを国の誇りだと称える。 そんなパーティーでゴウキ一人だけ・・・人を疑い、荒っぽい言動、額にある大きな古傷、『拳鬼』と呼ばれるほどの荒々しく泥臭い戦闘スタイル・・・そんな異色な彼が浮いていた。 周囲からも『清』の中の『濁』だと彼のパーティー在籍を疑問視する声も多い。 素直過ぎる勇者パーティーの面々にゴウキは捻くれ者とカテゴライズされ、パーティーと意見を違えることが多く、衝突を繰り返すが常となっていた。 しかしゴウキはゴウキなりに救世の道を歩めることに誇りを持っており、パーティーを離れようとは思っていなかった。 そんなある日、ゴウキは勇者パーティーをいつの間にか追放処分とされていた。失意の底に沈むゴウキだったが、『濁』なる存在と認知されていると思っていたはずの彼には思いの外人望があることに気付く。 『濁』の存在である自分にも『濁』なりの救世の道があることに気付き、ゴウキは勇者パーティーと決別して己の道を歩み始めるが、流れに流れいつの間にか『マフィア』を率いるようになってしまい、立場の違いから勇者と争うように・・・ 一方、人を疑うことのないクレア達は防波堤となっていたゴウキがいなくなったことで、悪意ある者達の食い物にされ弱体化しつつあった。

異世界転生でチートを授かった俺、最弱劣等職なのに実は最強だけど目立ちたくないのでまったりスローライフをめざす ~奴隷を買って魔法学(以下略)

朝食ダンゴ
ファンタジー
不慮の事故(死神の手違い)で命を落としてしまった日本人・御厨 蓮(みくりや れん)は、間違えて死んでしまったお詫びにチートスキルを与えられ、ロートス・アルバレスとして異世界に転生する。 「目立つとろくなことがない。絶対に目立たず生きていくぞ」 生前、目立っていたことで死神に間違えられ死ぬことになってしまった経験から、異世界では決して目立たないことを決意するロートス。 十三歳の誕生日に行われた「鑑定の儀」で、クソスキルを与えられたロートスは、最弱劣等職「無職」となる。 そうなると、両親に将来を心配され、半ば強制的に魔法学園へ入学させられてしまう。 魔法学園のある王都ブランドンに向かう途中で、捨て売りされていた奴隷少女サラを購入したロートスは、とにかく目立たない平穏な学園生活を願うのだった……。 ※『小説家になろう』でも掲載しています。

司書ですが、何か?

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 16歳の小さな司書ヴィルマが、王侯貴族が通う王立魔導学院付属図書館で仲間と一緒に仕事を頑張るお話です。  ほのぼの日常系と思わせつつ、ちょこちょこドラマティックなことも起こります。ロマンスはふんわり。

聖剣如きがフォークに勝てると思ったか 〜秘伝の継承に失敗したからと家を追い出されたけど最強なので問題なし〜

農民
ファンタジー
魔創具という、特殊な道具を瞬時に生み出すことができる秘術がある魔法の世界。 公爵家の嫡男であるアルフレッド。日本で生きていた過去を思い出した少年は、自由に生きたいと思いながらも貴族の責務を果たすために真剣に生きていた。 貴族の責務。そのためにアルフレッドは物語の悪役貴族といったような振る舞いをし、他者を虐げていたのだが、それがいけなかった。 魔創具の秘術によって、家門の当主が引き継ぐ武器である『トライデント』を生成しようとするが、儀式を邪魔されてしまい、失敗。結果として、アルフレッドが生み出す魔創具は『フォーク』になってしまった。 そんなものでは当主に相応しくないと家を追い出されることとなり……。 ※一応「ざまぁ」を目指して書くけど、ちょっとズレた感じになるかもしれません。

現代知識チートからの王国再建~転生第三王子は王国を発展させたい!~二大強国に挟まれた弱小王国の巻き返し!

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
東にバルドハイン帝国、西にエルファスト魔法王国という二大強国に挟まれたクリトニア王国は、両国の緩衝役を担っている中立国家である。   農作業が盛んで穀物類が豊富だけど、経済を発展させるだけの技術力を持たないクリトニア王国は常に両大国から嫌がらせを受けても耐え忍ぶしかなかった。   一年前に父である国王陛下が原因不明の病に倒れ、王太子であるローランド兄上が国王代理として国政を担うことになった。   経験が浅く、慣れない政務に疲れたローランド兄上は、いつものように僕― イアン・クリトニアの部屋へやってきて弱音を漏らす。   第三王子イアンの上にはローランド王太子の他に、エミリア第一王女、アデル第二王子がいる。   そして現在、王国内では、法衣貴族と地方貴族がローランド王子派、アデル王子派と分かれて、王位継承争いが勃発していた。   そこへ間が悪いことにバルドハイン帝国軍が王国との国境線に軍を派兵してきた。   国境での小競り合いはいつものことなので、地方貴族に任せておけばいいのに、功を焦ったアデル兄上が王宮騎士団と共に国境へ向かったという。   このままでは帝国と王国との全面戦争にもなりかねないと心配したイアンとエミリア姉上は、アデル兄上を説得するため、王宮騎士団を追いかけて王都を出発した。   《この物語は、二強国に挟まれた弱小国を、第三王子のイアンが前世の日本の知識を駆使し、兄姉達と協力して周囲の人達を巻き込んで、大国へと成り上がっていく物語である》

捨てられ令嬢は、異能の眼を持つ魔術師になる。私、溺愛されているみたいですよ?

miy
ファンタジー
アンデヴァイセン伯爵家の長女であるイルシスは、『魔眼』といわれる赤い瞳を持って生まれた。 魔眼は、眼を見た者に呪いをかけると言い伝えられ…昔から忌み嫌われる存在。 邸で、伯爵令嬢とは思えない扱いを受けるイルシス。でも…彼女は簡単にはへこたれない。 そんなイルシスを救おうと手を差し伸べたのは、ランチェスター侯爵家のフェルナンドだった。 前向きで逞しい精神を持つ彼女は、新しい家族に出会い…愛されていく。 そんなある日『帝国の砦』である危険な辺境の地へ…フェルナンドが出向くことに。 「私も一緒に行く!」 異能の能力を開花させ、魔術だって使いこなす最強の令嬢。 愛する人を守ってみせます! ※ご都合主義です。お許し下さい。 ※ファンタジー要素多めですが、間違いなく溺愛されています。 ※本編は全80話(閑話あり)です。 おまけ話を追加しました。(10/15完結) ※この作品は、ド素人が書いた2作目です。どうか…あたたかい目でご覧下さい。よろしくお願い致します。

当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!

犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。 そして夢をみた。 日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。 その顔を見て目が覚めた。 なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。 数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。 幼少期、最初はツラい状況が続きます。 作者都合のゆるふわご都合設定です。 1日1話更新目指してます。 エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。 お楽しみ頂けたら幸いです。 *************** 2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます! 100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!! 2024年9月9日  お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます! 200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!!

手乗りドラゴンと行く異世界ゆるり旅  落ちこぼれ公爵令息ともふもふ竜の絆の物語

さとう
ファンタジー
旧題:手乗りドラゴンと行く追放公爵令息の冒険譚 〇書籍化決定しました!! 竜使い一族であるドラグネイズ公爵家に生まれたレクス。彼は生まれながらにして前世の記憶を持ち、両親や兄、妹にも隠して生きてきた。 十六歳になったある日、妹と共に『竜誕の儀』という一族の秘伝儀式を受け、天から『ドラゴン』を授かるのだが……レクスが授かったドラゴンは、真っ白でフワフワした手乗りサイズの小さなドラゴン。 特に何かできるわけでもない。ただ小さくて可愛いだけのドラゴン。一族の恥と言われ、レクスはついに実家から追放されてしまう。 レクスは少しだけ悲しんだが……偶然出会った『婚約破棄され実家を追放された少女』と気が合い、共に世界を旅することに。 手乗りドラゴンに前世で飼っていた犬と同じ『ムサシ』と名付け、二人と一匹で広い世界を冒険する!

処理中です...