月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚

浦出卓郎

文字の大きさ
上 下
433 / 526
第一部

第四十一話 踊る一寸法師(11)

しおりを挟む
 フランツは松明を高く捧げながら片手で血染めの刀を持ち、小人たちに近付いていく。

 小人たちは獰猛なうなり声を上げて飛びかかってくる。

「さすが鍛え上げてますね。いかにも重そうな『薔薇王』を軽々と!」

 オドラデクは褒めたら得るように声を掛けた。

 フランツはいつも通り無視して獲物に斬り掛かった。

 斧が刀を受け止める。

 フランツは右手に力を入れ斧頭へ刃を突き通した。たちまちざっくりと小人を一刀両断する。

 他の二名が打ちかかってきたが、フランツは軽く避けた。

 体勢を立て直し片手に持った刃を更に一閃させてもう一人の頭を切り落とした。

 残る小人は恐れをなしたのか叫んで家の中に引っ込んでしまった。 

――今だ!

 フランツは手に持った松明を茅葺きの屋根に押し当てた。

 たちまち炎は燃え移った。

 屋根から吹き上がる火が瞬く間に建物へ伝わる。

 阿鼻叫喚の声が満ち広がった。

 何人か飛び出してくる小人立ちに向かって松明を投げつけるとフランツは無言で斬った。

 両手を使えるので、その動きはなお一層滑らかになった。

「お前らはスワスティカの協力者だ。殺された同胞の痛み思い知れ!」

 フランツは叫んでいた。

 オドラデクはにやにやと笑んだまま、ファキイルも表情を歪めることはない。

 小人たちの家は劫火に包まれた。

 炎の中から女子供たちを引き連れたアメリーゴが姿を現した。

「オディロンさん……いや、おそらくコレは偽名でしょうね。あなたはスワスティカ猟人《ハンター》に違いはないはずだ」

 セストの返り血を浴びたアメリーゴは落ち着いた口調で話した。

「そしてそこにいるカルロはあなたの手下でしょう」

「ぼくは手下じゃないですよ」

 オドラデクはそう言いながら元の姿に戻った。

「あなた方は僕たちの平穏な生活を滅ぼしにやってきた」

 それは無視してアメリーゴは続ける。

「そうだ。マンチーノは死んだとしてもその手下を許すわけがないだろう」

「なるほど、どちらにしても話し合って解決という段階には既にないわけだ。なら、お願いがあります」

「お前の願いなど……」

「女性と子供たちは助けて貰いたいんです何人かはあなたに斬られましたが生き残っている者たちもいる。僕は未来に繋ぎたいんです」

「見逃すわけがないだろう。お前らに何人のシエラフィータ族が命を奪われた? 俺はこの眼で見た」

 フランツは答えた。

「仕方がない。なら戦わなくちゃいけません。一家の大黒柱としてね」

 アメリーゴは両手の指に何かを嵌めた。

 鉄の、輪っか。拳闘士が殴り合う時に使うものだった。

「フランツさん、そいつ強いですよ」

 オドラデクがそう言うと同時にアメリーゴが走り出した。

 フランツも俊敏な動きで間合いを詰める。

 斬った。

 拳に弾かれる。アメリーゴは手に嵌めた輪だけで刃を退けたのだ。

「ぐっ!」

 腹に激しい一撃が叩き込まれた。自身の身体は凄まじい勢い飛ばされるのをフランツは感じた。

「フランツさぁん」

 オドラデクは糸を放ってクッションを作り出した。

 フランツは受け止められる。

「がはっ」

 鉄分の臭い。血が口の中で溢れたのだ。

 想像以上に骨が軋り、身を起こすことが出来ない。

「フランツ、任せてくれ」

 ファキイルが宙を舞い小人の前に降りたった。

「あなたは……?」

 アメリーゴは驚きの面持ちになった。

「我が名はファキイル。フランツの友だ。お前が何者かは知らぬ。だが友を苦しめる者は許さない」

 ファキイルが手を振った。

 風が起こる。

 アメリーゴが反撃をしようとする前にその手足は胴体から引き剥がされ、首は逆さに捩れ切れて芝生の上に落ちた。

 小人は死んだのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

入れ替わった恋人

廣瀬純一
ファンタジー
大学生の恋人同士の入れ替わりの話

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...