431 / 526
第一部
第四十一話 踊る一寸法師(9)
しおりを挟む
オドラデクが小人の家に入っていくとフランツとファキイルは樹の下で一切の言葉を交わさず夜が更けるまで待った。
「オドラデクから連絡は来そうか」
やがてファキイルは訊いた。
「さあ」
そうフランツはオドラデクが残していった二、三本の髪を見やった。
「これを置いていけば連絡ができるんですよぉ」
とおどけた口調で語り置いて。
やがて髪の毛は独りでに蠢き始め輪っかのようなかたちになり、やがて嵩を増して小さな壺へと姿を変えた。
フランツは跼《しゃが》んでそこに耳を当てた。別にそうしろといわれたわけではないが、何となく直感でやったのだ。
「フランツさんフランツさん聞こえますかぁ」
籠もってこそいるが陽気な声が響いてくる。
「何だこの芸当は?」
フランツは訊いた。
「僕の内臓みたいなもんですよ。身体の一部を残しておくだけでそこへ転送できちゃうんです。だから中でぺちゃくちゃお喋りしないでも腹話術みたいにこっち側へ声だけ送ることが出来るんですよ」
「気持ち悪いな」
フランツは耳を外した。
「うわーっ! 傷つくなぁ。せっかくフランツさんのために尽くしてるのにぃ」
「さっさと中の様子を知らせろ」
フランツは急かした。
「ええとなんか凄いめんどくさい感じですね。セストさんと色々と話したんですが、よっぽどアメリーゴさんのことがお嫌いっぽいんです。話の端々から感じられますよ。とりあえず褒めに褒めときましたよ。今まであんまり話したことがなかったけど、アメリーゴさんは本当に立派でおいらがリーダに投票するとすればアメリーゴさんですよって。あ、そうそう、小人のリーダーは投票で選ばれるんですよ。あと一歩でセストさんはアメリーゴさんに及ばないそうで悔しくてならないみたいですよ。それにそれにアメリーゴさんの奥さんは昔はセストさんといい仲だったらしくて、取られたことも悔しくてならないそうですよ」
「やはりか」
フランツは頷いた。こう言う輩は操りやすい。
「スワスティカの間のことも訊いたか」
「もちろんそれも。僕は抜け目ないんです。アメリーゴさんとセストさんは同じぐらいの年代で小人たちの中では最長老になるんだそうです。素直にしてるとお前は生まれてないだろうから色々教えてやると問わず語りしてくれたもんです。小人たちは多くのシエラフィータ族の拉致や暗殺も請け負っていたようですね。とくにヴィトカツイのムルナウやポトツキの収容所には大量に送っていたようです」
「……」
ムルナウ収容所はフランツが幼い時にいた場所だ。
たしかに多くのランドルフィ語を訊いた覚えがある。語学の苦手なフランツが訥々ながら話せるのはこの頃の経験が大きいのかも知れない。
――許さん。
フランツは怒りの炎に薪がくべられた気分になった。
「で、この後何をすれば良いんです。なんか連中、焚き火の準備をしてますね。その周りで踊るとか言ってますよ……ちょっとまずいなあ。だってぼく、踊れないですもん」
「踊りか」
フランツは鞄を開けてオペラグラスを取り出した。先日船に乗ったときも活用したものだ。
遠くを見ると、確かに小人どもが家の前にうち集って材木を四角く置き篝火を始めているように見える。
「フランツさん、フランツさんってば、どうすればいいんです?」
オドラデクの声は少し不安そうに聞こえた。
「とりあえず皆に紛れて外へ出ろ。俺も近くまでいく、合流だ」
フランツは立ち上がった。
そのまま歩き出す。
ファキイルも何も言わず尾いてくるようだ。
「オドラデクから連絡は来そうか」
やがてファキイルは訊いた。
「さあ」
そうフランツはオドラデクが残していった二、三本の髪を見やった。
「これを置いていけば連絡ができるんですよぉ」
とおどけた口調で語り置いて。
やがて髪の毛は独りでに蠢き始め輪っかのようなかたちになり、やがて嵩を増して小さな壺へと姿を変えた。
フランツは跼《しゃが》んでそこに耳を当てた。別にそうしろといわれたわけではないが、何となく直感でやったのだ。
「フランツさんフランツさん聞こえますかぁ」
籠もってこそいるが陽気な声が響いてくる。
「何だこの芸当は?」
フランツは訊いた。
「僕の内臓みたいなもんですよ。身体の一部を残しておくだけでそこへ転送できちゃうんです。だから中でぺちゃくちゃお喋りしないでも腹話術みたいにこっち側へ声だけ送ることが出来るんですよ」
「気持ち悪いな」
フランツは耳を外した。
「うわーっ! 傷つくなぁ。せっかくフランツさんのために尽くしてるのにぃ」
「さっさと中の様子を知らせろ」
フランツは急かした。
「ええとなんか凄いめんどくさい感じですね。セストさんと色々と話したんですが、よっぽどアメリーゴさんのことがお嫌いっぽいんです。話の端々から感じられますよ。とりあえず褒めに褒めときましたよ。今まであんまり話したことがなかったけど、アメリーゴさんは本当に立派でおいらがリーダに投票するとすればアメリーゴさんですよって。あ、そうそう、小人のリーダーは投票で選ばれるんですよ。あと一歩でセストさんはアメリーゴさんに及ばないそうで悔しくてならないみたいですよ。それにそれにアメリーゴさんの奥さんは昔はセストさんといい仲だったらしくて、取られたことも悔しくてならないそうですよ」
「やはりか」
フランツは頷いた。こう言う輩は操りやすい。
「スワスティカの間のことも訊いたか」
「もちろんそれも。僕は抜け目ないんです。アメリーゴさんとセストさんは同じぐらいの年代で小人たちの中では最長老になるんだそうです。素直にしてるとお前は生まれてないだろうから色々教えてやると問わず語りしてくれたもんです。小人たちは多くのシエラフィータ族の拉致や暗殺も請け負っていたようですね。とくにヴィトカツイのムルナウやポトツキの収容所には大量に送っていたようです」
「……」
ムルナウ収容所はフランツが幼い時にいた場所だ。
たしかに多くのランドルフィ語を訊いた覚えがある。語学の苦手なフランツが訥々ながら話せるのはこの頃の経験が大きいのかも知れない。
――許さん。
フランツは怒りの炎に薪がくべられた気分になった。
「で、この後何をすれば良いんです。なんか連中、焚き火の準備をしてますね。その周りで踊るとか言ってますよ……ちょっとまずいなあ。だってぼく、踊れないですもん」
「踊りか」
フランツは鞄を開けてオペラグラスを取り出した。先日船に乗ったときも活用したものだ。
遠くを見ると、確かに小人どもが家の前にうち集って材木を四角く置き篝火を始めているように見える。
「フランツさん、フランツさんってば、どうすればいいんです?」
オドラデクの声は少し不安そうに聞こえた。
「とりあえず皆に紛れて外へ出ろ。俺も近くまでいく、合流だ」
フランツは立ち上がった。
そのまま歩き出す。
ファキイルも何も言わず尾いてくるようだ。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
御機嫌ようそしてさようなら ~王太子妃の選んだ最悪の結末
Hinaki
恋愛
令嬢の名はエリザベス。
生まれた瞬間より両親達が創る公爵邸と言う名の箱庭の中で生きていた。
全てがその箱庭の中でなされ、そして彼女は箱庭より外へは出される事はなかった。
ただ一つ月に一度彼女を訪ねる5歳年上の少年を除いては……。
時は流れエリザベスが15歳の乙女へと成長し未来の王太子妃として半年後の結婚を控えたある日に彼女を包み込んでいた世界は崩壊していく。
ゆるふわ設定の短編です。
完結済みなので予約投稿しています。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる