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第一部
第四十一話 踊る一寸法師(2)
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スワスティカ親衛部特殊工作部隊『火葬人』の席次四。
小柄、ほとんど侏儒《こびと》と呼んでも差し支えないぐらいの身長だったと資料には記載があった。
『火葬人』の中では早く戦死したため、今も影響を多分に留めているクリスティーネ・ボリバルと比べてあまり話題に出ることも少ない人物ではあったが、その兇悪さは他を凌ぐほどと言っても良い。
ランドルフィ王国出身者であるマンチーノは、ランドルフィ執権府の大執権《ドゥーチェ》ジャコモ・パストレッリと共同して、領内のシエラフィータ族の収容所への送還を担当していた。
憎き怨敵の一人だ。
フランツはマンチーノが生きていれば真っ先に殺してやっていただろうと思う。
だが、今、フランツは確実にマンチーノの名前を訊いた。
歿後十年も経った死人の名を語る者がいたらそれは関係者に違いあるまい。
目を瞑り、耳を澄ませた。
跫音。
幾つか聞こえる。小さな跫音。
察するに身の丈はそれほどない。
フランツは飛び出した。
人の背。多くの背を追う。
見つかった。背の下だ。それは子供ほどの大きさの人間だった。
いや、人間たちだ。
侏儒たちが輪を作ってしゃがんでいる。
「お前ら、ちょっと来い!」
フランツは叫んだ。
侏儒たちは蜘蛛の子を散らすように四方八方へ逃げ出した。
だが、フランツは巧みのその中の一人を転ばせた。
侏儒は路面に顔をぶつけ、うつぶせになったまま手足を藻掻かせる。
「今さっき、ブラバンツィオ・マンチーノの名前が聞こえたんだが?」
「ひひっ」
侏儒は呻いた。
「お前の知り合いか?」
「そ、育ての親です……」
「何? どういうことだ?」
フランツは驚いた。
「ブラバンツィオさまはおいらたち孤児を引き取って育てたんです……その代わり、自分と同じような侏儒にして……」
「お前、名前は?」
侏儒にする、という言葉が気がかりだったがフランツは取り敢えず名前を訊いた。
「カルロって言います」
「カルロか。俺はオディロンだ」
旅先で知り合った男の名前をフランツは借りた。
自分の名字も姓も珍しくはないと思っているが、それでもスワスティカの関係者と繋がりのあった者の前で実名を称するのは望ましいことではない。
「旦那は何か秘密警察なんですか……?」
カルロは恐る恐る訊いた。
「ではない。ただ自分の一族を虐殺した連中を憎んでいるシエラフィータの民ってだけさ」
これは偽りでもない。
「ひひいっ、殺さないでください。確かにおいらはブラバンツィオの旦那の元で嫌なことばかりやりましたけど、命じられたからなんです」
――スワスティカの元で殺戮に手を染めた人間は皆同じことばかり言うな。自分はやっていません、上から命じられました、とな。
フランツはそれを冷ややかに訊いていた。
「ああー、何勝手に走り出しちゃってるんですかぁ。メッ、ですよフラ……ゲプッ!」
柔やかに微笑んで走り寄ってきたオドラデクの腹をフランツは華麗に蹴り上げた。
それでも微動だにしなかったあたり中身は化け物だと思い知らされたが。
「もー! 何するんですかぁ!」
「あいつはスワスティカの関係者だ……こっちの正確な情報はいっさい漏らしてはいかん」
「フランツさんはお硬いですねえ。仕事熱心で良いことですが」
オドラデクは蹴られた痛みなどこれっぽっちも感じていないようだった。
フランツは少し心配してしまった自分が馬鹿らしくなった。
小柄、ほとんど侏儒《こびと》と呼んでも差し支えないぐらいの身長だったと資料には記載があった。
『火葬人』の中では早く戦死したため、今も影響を多分に留めているクリスティーネ・ボリバルと比べてあまり話題に出ることも少ない人物ではあったが、その兇悪さは他を凌ぐほどと言っても良い。
ランドルフィ王国出身者であるマンチーノは、ランドルフィ執権府の大執権《ドゥーチェ》ジャコモ・パストレッリと共同して、領内のシエラフィータ族の収容所への送還を担当していた。
憎き怨敵の一人だ。
フランツはマンチーノが生きていれば真っ先に殺してやっていただろうと思う。
だが、今、フランツは確実にマンチーノの名前を訊いた。
歿後十年も経った死人の名を語る者がいたらそれは関係者に違いあるまい。
目を瞑り、耳を澄ませた。
跫音。
幾つか聞こえる。小さな跫音。
察するに身の丈はそれほどない。
フランツは飛び出した。
人の背。多くの背を追う。
見つかった。背の下だ。それは子供ほどの大きさの人間だった。
いや、人間たちだ。
侏儒たちが輪を作ってしゃがんでいる。
「お前ら、ちょっと来い!」
フランツは叫んだ。
侏儒たちは蜘蛛の子を散らすように四方八方へ逃げ出した。
だが、フランツは巧みのその中の一人を転ばせた。
侏儒は路面に顔をぶつけ、うつぶせになったまま手足を藻掻かせる。
「今さっき、ブラバンツィオ・マンチーノの名前が聞こえたんだが?」
「ひひっ」
侏儒は呻いた。
「お前の知り合いか?」
「そ、育ての親です……」
「何? どういうことだ?」
フランツは驚いた。
「ブラバンツィオさまはおいらたち孤児を引き取って育てたんです……その代わり、自分と同じような侏儒にして……」
「お前、名前は?」
侏儒にする、という言葉が気がかりだったがフランツは取り敢えず名前を訊いた。
「カルロって言います」
「カルロか。俺はオディロンだ」
旅先で知り合った男の名前をフランツは借りた。
自分の名字も姓も珍しくはないと思っているが、それでもスワスティカの関係者と繋がりのあった者の前で実名を称するのは望ましいことではない。
「旦那は何か秘密警察なんですか……?」
カルロは恐る恐る訊いた。
「ではない。ただ自分の一族を虐殺した連中を憎んでいるシエラフィータの民ってだけさ」
これは偽りでもない。
「ひひいっ、殺さないでください。確かにおいらはブラバンツィオの旦那の元で嫌なことばかりやりましたけど、命じられたからなんです」
――スワスティカの元で殺戮に手を染めた人間は皆同じことばかり言うな。自分はやっていません、上から命じられました、とな。
フランツはそれを冷ややかに訊いていた。
「ああー、何勝手に走り出しちゃってるんですかぁ。メッ、ですよフラ……ゲプッ!」
柔やかに微笑んで走り寄ってきたオドラデクの腹をフランツは華麗に蹴り上げた。
それでも微動だにしなかったあたり中身は化け物だと思い知らされたが。
「もー! 何するんですかぁ!」
「あいつはスワスティカの関係者だ……こっちの正確な情報はいっさい漏らしてはいかん」
「フランツさんはお硬いですねえ。仕事熱心で良いことですが」
オドラデクは蹴られた痛みなどこれっぽっちも感じていないようだった。
フランツは少し心配してしまった自分が馬鹿らしくなった。
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