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第一部
第三十九話 超男性(10)
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ニヤリと笑みを浮かべながら、ヴィトルドはズデンカの耳元に囁き掛ける。
「俺が合図したら、両側からいくぞ」
息が掛かってきて、ズデンカは思わず身を引いてしまいそうになったが、
「いや、あたしがやる」
と断るように小さく答えた。
そして、勢いよく走り出した。
ルツィドールは、まだ蹌踉《よろ》めいている。
ズデンカはそれを全力で押さえつけた。
ルツィドールは藻掻いて抵抗する。だが、ズデンカは力を強めた。
「くそっ! くそっ! くそっ!」
ルツィドールは叫び続ける。
「いい加減、あたしらにからむな!」
ズデンカは思い切りその腹を殴りつけた。
「ぐはっ!」
ルツィドールはへどを吐いて伸びてしまった。
「どうだ? あたし一人でも解決出来るだろうがよ」
ズデンカは腰に手を当てて自慢げにヴィトルドを見やった。
「まあ、それぐらいなら一人でも相手出来るだろ」
とは言ってもヴィトルドは少し苛立った様子だった。
「喋っている暇はない!」
汽車の黒々とした腹が目の前を回遊魚のように通っていった。
ズデンカは地を蹴って、客車の上に登った。喧嘩して勢いが付いていたためか、鳥のごとく高く翔べたのだった。
ヴィトルドは驚いて下からそれを眺めていた。
「あたしだってこれぐらいできるぞ?」
ヴィトルドの方は今回少し躊躇っているようだった。凄い勢いで遠ざかっていく。
「ふん、どうした?」
思わずズデンカは漏らしてしまった。
「何っ? 君は人間ではないというのか」
ヴィトルドは客車の階段に飛び乗って、そこから上がってきながら言った。
「さあ、どうだか? 少なくとも、あたしは人間の子供を産めねえんだよ」
まだ、多少気持ち悪さが残ってはいたが、はっきりと決着を付けておきたかったので言った。
ヴィトルドはズデンカのいるところまで登ってくるとため息を吐いた。
「そうなのか……君は子供を作れないか」
ヴィトルドは諦めたようだった。
「ああ」
ズデンカは手短に答えた。
「わかった。もうこのことを言うのは止めよう。他に、探すことにするよ」
「今後、子供が産める相手が現れたとして、そいつがお前の子を産みたがるとはかぎらねえぞ」
ズデンカは釘を刺して置いた。
「客室に戻ろう」
ヴィトルドは階段を降りていった。
ズデンカも続く。
ルナたちのいる客車は大分前の方に行ってしまっていた。もう三等客車となっていたので、座席に座った多くの乗客たちが驚いた顔付きで二人を眺めてくる。
ズデンカは少し恥ずかしかった。
長い廊下を抜けていく間も二人は会話を交わさなかった。
ヴィトルドは意気消沈したようだった。ズデンカはそれを見てなぜか罪悪感を覚えたが、眼の前の男と娶されるような心配が無くなったことは安心していた。
「ブラヴォ! ブラヴォ! 出来る限りだけど君たちの活躍は見させて貰ったよ!」
二人が車室に入るなり、ルナは拍手で出迎えた。
「お疲れさまです!」
さっきは怯えていたカミーユも少しは慣れたのか、声を出した。
「服の着換えは?」
ズデンカはそれだけ質問した。ルツィドールとの戦いで、メイド服はボロボロになってしまっていた。
「知らない」
ルナはきょとんとしていた。
「お前に訊いたあたしが馬鹿だったよ」
ズデンカは自分で探し始めることにした。
「俺が合図したら、両側からいくぞ」
息が掛かってきて、ズデンカは思わず身を引いてしまいそうになったが、
「いや、あたしがやる」
と断るように小さく答えた。
そして、勢いよく走り出した。
ルツィドールは、まだ蹌踉《よろ》めいている。
ズデンカはそれを全力で押さえつけた。
ルツィドールは藻掻いて抵抗する。だが、ズデンカは力を強めた。
「くそっ! くそっ! くそっ!」
ルツィドールは叫び続ける。
「いい加減、あたしらにからむな!」
ズデンカは思い切りその腹を殴りつけた。
「ぐはっ!」
ルツィドールはへどを吐いて伸びてしまった。
「どうだ? あたし一人でも解決出来るだろうがよ」
ズデンカは腰に手を当てて自慢げにヴィトルドを見やった。
「まあ、それぐらいなら一人でも相手出来るだろ」
とは言ってもヴィトルドは少し苛立った様子だった。
「喋っている暇はない!」
汽車の黒々とした腹が目の前を回遊魚のように通っていった。
ズデンカは地を蹴って、客車の上に登った。喧嘩して勢いが付いていたためか、鳥のごとく高く翔べたのだった。
ヴィトルドは驚いて下からそれを眺めていた。
「あたしだってこれぐらいできるぞ?」
ヴィトルドの方は今回少し躊躇っているようだった。凄い勢いで遠ざかっていく。
「ふん、どうした?」
思わずズデンカは漏らしてしまった。
「何っ? 君は人間ではないというのか」
ヴィトルドは客車の階段に飛び乗って、そこから上がってきながら言った。
「さあ、どうだか? 少なくとも、あたしは人間の子供を産めねえんだよ」
まだ、多少気持ち悪さが残ってはいたが、はっきりと決着を付けておきたかったので言った。
ヴィトルドはズデンカのいるところまで登ってくるとため息を吐いた。
「そうなのか……君は子供を作れないか」
ヴィトルドは諦めたようだった。
「ああ」
ズデンカは手短に答えた。
「わかった。もうこのことを言うのは止めよう。他に、探すことにするよ」
「今後、子供が産める相手が現れたとして、そいつがお前の子を産みたがるとはかぎらねえぞ」
ズデンカは釘を刺して置いた。
「客室に戻ろう」
ヴィトルドは階段を降りていった。
ズデンカも続く。
ルナたちのいる客車は大分前の方に行ってしまっていた。もう三等客車となっていたので、座席に座った多くの乗客たちが驚いた顔付きで二人を眺めてくる。
ズデンカは少し恥ずかしかった。
長い廊下を抜けていく間も二人は会話を交わさなかった。
ヴィトルドは意気消沈したようだった。ズデンカはそれを見てなぜか罪悪感を覚えたが、眼の前の男と娶されるような心配が無くなったことは安心していた。
「ブラヴォ! ブラヴォ! 出来る限りだけど君たちの活躍は見させて貰ったよ!」
二人が車室に入るなり、ルナは拍手で出迎えた。
「お疲れさまです!」
さっきは怯えていたカミーユも少しは慣れたのか、声を出した。
「服の着換えは?」
ズデンカはそれだけ質問した。ルツィドールとの戦いで、メイド服はボロボロになってしまっていた。
「知らない」
ルナはきょとんとしていた。
「お前に訊いたあたしが馬鹿だったよ」
ズデンカは自分で探し始めることにした。
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