上 下
408 / 526
第一部

第三十九話 超男性(9)

しおりを挟む
「ああ、一部では研究中だと聞いたことがある。俺もいろいろと科学者の知り合いがいる。この身体を調べて貰わなくちゃいけないからなあ」

  だがズデンカはその自分語りを無視した。

「面倒なもの作りやがって。それだけじゃない、奴は……」

「何か武器を持ってるな」

 ヴィトルドはくるりと優雅に一回転した。ルツィドールの攻撃を避けたようだ。

「二人いようが、まとめて相手してやるよっ!」

 さきほどズデンカの方を切り裂いた長い鉄の爪が見えた。闇の中でもわずかに輝いているようだ。

「何か暗器の類いかも知れないね。君の連れに詳しい奴がいるだろ」

 カミーユのことだ。

 ヴィトルドが言った。

「なっ……なぜそれを」

「何となくだ。鉄の臭いがしたからね。武術を身につけた人間には前も会ったことがある」

――こいつ、油断も隙もねえな。

 さすが、超男性を称するだけはあるとズデンカは警戒心を高めた。

 ルツィドールが繰り出す斬撃は幾らでも避けられ、仮に当たったとしてもズデンカなら再生できるので大丈夫なのだが、問題は汽車がそろそろこちらに迫ってくると言うことだ。

 十分、いや数分。

 早く決着しないと、狭い隧道に入ってきた汽車と線路の上で激突してしまう。

 「悔しかったらついてこいよ!」

 ズデンカは挑発して走り出した。

 だが、ルツィドールは闇から一歩も動こうとしない。

「その手は食うかよ! こっちの狙いはルナ・ペルッツだけだ。お前がどうなろうと構わないよ!」

 ルツィドールは闇の中を跳ね躍りながら叫び続けた。

「ややこしい嬢ちゃんだなあ」

 ヴィトルドは呆れるように言った。

「うるせえよクソオヤジ!」

 鉄の爪を振るって、ヴィトルドに攻撃するルツィドール。

 だが、さすがにヴィトルドは怒らず、冷静にその爪へ拳を送り込んだ。

 たちまち崩れ落ちる。

「俺の身体は鋼より硬い! はっはっはっはっはっ!」

 ヴィトルドは大音声で笑った。また突進してくるルツィドールを避け際にもう片方の爪を弾き壊した。

「もたもたするな! そいつを何とか線路から出せ」

 ズデンカは怒鳴った。

「はいよ!」

 ヴィトルドは乱妨に声を上げると、ルツィドールへ突進し、腰を勢いよく抱え上げてトンネルの外まで走りだした。

  ズデンカも急いでそれを追う。

 ルツィドールは線路脇の地面へと投げつけられもんどりを打った。

「力じゃ俺には叶わないな」

 ヴィトルドは勝ち誇った。

「くそっ!」

 起き上がったルツィドールは隧道の中へ戻ろうとするが、その度にズデンカと
ヴィトルドに阻まれた。

「お前はここにいて貰う!」

 轟音とともに汽車が迫ってきた。

「どうする?」

 ズデンカはヴィトルドに訊いた。正直癪ではあったが、こういう場合軌を一にしなければならない。

「簡単なことだ。通過した際に急いで汽車に飛び乗ればいい」

「こいつはまだ動けるぞ?」

 ズデンカはルツィドールを指差した。暗視鏡を付けたままでは逆に昼の光の中を歩き辛いらしく、帯を引きちぎって取り外していた。

 「力を合わせれば何とかなる! 愛の共同作業というやつだ」

 ヴィトルドは自慢げに言った。

 正直ズデンカは虫酸が走ったが、今はそれでもやるしかない。

 「わかった」

 いやいやながら応じた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

御機嫌ようそしてさようなら  ~王太子妃の選んだ最悪の結末

Hinaki
恋愛
令嬢の名はエリザベス。 生まれた瞬間より両親達が創る公爵邸と言う名の箱庭の中で生きていた。 全てがその箱庭の中でなされ、そして彼女は箱庭より外へは出される事はなかった。 ただ一つ月に一度彼女を訪ねる5歳年上の少年を除いては……。 時は流れエリザベスが15歳の乙女へと成長し未来の王太子妃として半年後の結婚を控えたある日に彼女を包み込んでいた世界は崩壊していく。 ゆるふわ設定の短編です。 完結済みなので予約投稿しています。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...