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第一部
第三十九話 超男性(9)
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「ああ、一部では研究中だと聞いたことがある。俺もいろいろと科学者の知り合いがいる。この身体を調べて貰わなくちゃいけないからなあ」
だがズデンカはその自分語りを無視した。
「面倒なもの作りやがって。それだけじゃない、奴は……」
「何か武器を持ってるな」
ヴィトルドはくるりと優雅に一回転した。ルツィドールの攻撃を避けたようだ。
「二人いようが、まとめて相手してやるよっ!」
さきほどズデンカの方を切り裂いた長い鉄の爪が見えた。闇の中でもわずかに輝いているようだ。
「何か暗器の類いかも知れないね。君の連れに詳しい奴がいるだろ」
カミーユのことだ。
ヴィトルドが言った。
「なっ……なぜそれを」
「何となくだ。鉄の臭いがしたからね。武術を身につけた人間には前も会ったことがある」
――こいつ、油断も隙もねえな。
さすが、超男性を称するだけはあるとズデンカは警戒心を高めた。
ルツィドールが繰り出す斬撃は幾らでも避けられ、仮に当たったとしてもズデンカなら再生できるので大丈夫なのだが、問題は汽車がそろそろこちらに迫ってくると言うことだ。
十分、いや数分。
早く決着しないと、狭い隧道に入ってきた汽車と線路の上で激突してしまう。
「悔しかったらついてこいよ!」
ズデンカは挑発して走り出した。
だが、ルツィドールは闇から一歩も動こうとしない。
「その手は食うかよ! こっちの狙いはルナ・ペルッツだけだ。お前がどうなろうと構わないよ!」
ルツィドールは闇の中を跳ね躍りながら叫び続けた。
「ややこしい嬢ちゃんだなあ」
ヴィトルドは呆れるように言った。
「うるせえよクソオヤジ!」
鉄の爪を振るって、ヴィトルドに攻撃するルツィドール。
だが、さすがにヴィトルドは怒らず、冷静にその爪へ拳を送り込んだ。
たちまち崩れ落ちる。
「俺の身体は鋼より硬い! はっはっはっはっはっ!」
ヴィトルドは大音声で笑った。また突進してくるルツィドールを避け際にもう片方の爪を弾き壊した。
「もたもたするな! そいつを何とか線路から出せ」
ズデンカは怒鳴った。
「はいよ!」
ヴィトルドは乱妨に声を上げると、ルツィドールへ突進し、腰を勢いよく抱え上げてトンネルの外まで走りだした。
ズデンカも急いでそれを追う。
ルツィドールは線路脇の地面へと投げつけられもんどりを打った。
「力じゃ俺には叶わないな」
ヴィトルドは勝ち誇った。
「くそっ!」
起き上がったルツィドールは隧道の中へ戻ろうとするが、その度にズデンカと
ヴィトルドに阻まれた。
「お前はここにいて貰う!」
轟音とともに汽車が迫ってきた。
「どうする?」
ズデンカはヴィトルドに訊いた。正直癪ではあったが、こういう場合軌を一にしなければならない。
「簡単なことだ。通過した際に急いで汽車に飛び乗ればいい」
「こいつはまだ動けるぞ?」
ズデンカはルツィドールを指差した。暗視鏡を付けたままでは逆に昼の光の中を歩き辛いらしく、帯を引きちぎって取り外していた。
「力を合わせれば何とかなる! 愛の共同作業というやつだ」
ヴィトルドは自慢げに言った。
正直ズデンカは虫酸が走ったが、今はそれでもやるしかない。
「わかった」
いやいやながら応じた。
だがズデンカはその自分語りを無視した。
「面倒なもの作りやがって。それだけじゃない、奴は……」
「何か武器を持ってるな」
ヴィトルドはくるりと優雅に一回転した。ルツィドールの攻撃を避けたようだ。
「二人いようが、まとめて相手してやるよっ!」
さきほどズデンカの方を切り裂いた長い鉄の爪が見えた。闇の中でもわずかに輝いているようだ。
「何か暗器の類いかも知れないね。君の連れに詳しい奴がいるだろ」
カミーユのことだ。
ヴィトルドが言った。
「なっ……なぜそれを」
「何となくだ。鉄の臭いがしたからね。武術を身につけた人間には前も会ったことがある」
――こいつ、油断も隙もねえな。
さすが、超男性を称するだけはあるとズデンカは警戒心を高めた。
ルツィドールが繰り出す斬撃は幾らでも避けられ、仮に当たったとしてもズデンカなら再生できるので大丈夫なのだが、問題は汽車がそろそろこちらに迫ってくると言うことだ。
十分、いや数分。
早く決着しないと、狭い隧道に入ってきた汽車と線路の上で激突してしまう。
「悔しかったらついてこいよ!」
ズデンカは挑発して走り出した。
だが、ルツィドールは闇から一歩も動こうとしない。
「その手は食うかよ! こっちの狙いはルナ・ペルッツだけだ。お前がどうなろうと構わないよ!」
ルツィドールは闇の中を跳ね躍りながら叫び続けた。
「ややこしい嬢ちゃんだなあ」
ヴィトルドは呆れるように言った。
「うるせえよクソオヤジ!」
鉄の爪を振るって、ヴィトルドに攻撃するルツィドール。
だが、さすがにヴィトルドは怒らず、冷静にその爪へ拳を送り込んだ。
たちまち崩れ落ちる。
「俺の身体は鋼より硬い! はっはっはっはっはっ!」
ヴィトルドは大音声で笑った。また突進してくるルツィドールを避け際にもう片方の爪を弾き壊した。
「もたもたするな! そいつを何とか線路から出せ」
ズデンカは怒鳴った。
「はいよ!」
ヴィトルドは乱妨に声を上げると、ルツィドールへ突進し、腰を勢いよく抱え上げてトンネルの外まで走りだした。
ズデンカも急いでそれを追う。
ルツィドールは線路脇の地面へと投げつけられもんどりを打った。
「力じゃ俺には叶わないな」
ヴィトルドは勝ち誇った。
「くそっ!」
起き上がったルツィドールは隧道の中へ戻ろうとするが、その度にズデンカと
ヴィトルドに阻まれた。
「お前はここにいて貰う!」
轟音とともに汽車が迫ってきた。
「どうする?」
ズデンカはヴィトルドに訊いた。正直癪ではあったが、こういう場合軌を一にしなければならない。
「簡単なことだ。通過した際に急いで汽車に飛び乗ればいい」
「こいつはまだ動けるぞ?」
ズデンカはルツィドールを指差した。暗視鏡を付けたままでは逆に昼の光の中を歩き辛いらしく、帯を引きちぎって取り外していた。
「力を合わせれば何とかなる! 愛の共同作業というやつだ」
ヴィトルドは自慢げに言った。
正直ズデンカは虫酸が走ったが、今はそれでもやるしかない。
「わかった」
いやいやながら応じた。
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