月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚

浦出卓郎

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第一部

第三十九話 超男性(8)

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 勢いよく塞いでいた岩石にぶつかり、粉々に吹き飛ばす。

 明かりがさっと差し込む。

「どうだい? あなたがやったら朝まで掛かってたな」

 パンパンと身体に付いた粉塵を払い、ズデンカを見詰めながら、ヴィトルドは言った。

 だが、ズデンカは感心するどころか白けていた。

「その程度ならあたしだって出来るが。お前みたいに品がないならすぐに思いついた」

「ふん、強がりを言うなよ」

「はぁ」

 ズデンカは長いため息を吐いた。さすがに喧嘩をする気にはなれない。

「戻るぞ」

 ズデンカはルナが心配だった。

「まだだ」

 ヴィトルドは首を振った。

「なぜだ」

「この崩落、人為的に起こされたものだ」 

「なにっ?」

 ズデンカは急いでトンネルを抜け、外から落ちたところを観察した。

 確かにケーキをナイフで切り落としたようにざっくりと半円形に山肌が崩れてしまっている。

 これは自然現象ではないだろう。

「俺は頭も普通の男を超えているんだよ」

 と頭を指差しながらヴィトルドは言った。

「誰がやったんだ?」

 それは無視してズデンカは訊いた。

「さあそこまではわからん」

 ヴィトルドは首を振った。

 だが、ズデンカにはピンときた。

――これは、確実に元スワスティカが絡んでいる。

 特にそう言うことをやりそうな人間が思い浮かんだ。

 ルツィドール・バッソンビエール。

 新特殊工作部隊『詐欺師の楽園』席次二。

 執拗にルナ一行を付け狙ってくる小柄な人物だ。

 人物という表現を使わざるをえない。外見は少女のようなのだが、ズデンカは相対してみて骨格が男性に近い気がした。

 長年の経験で解剖学の基礎ぐらいは心得ている。

 短い交戦の時間では普通、相手に対して男か女かなどは訊かないので、長いこと気になっていた。

――だが、こんな時にあいつが出てきたら大変だ。

 汽車に攻撃を加えてきた場合、ルナやカミーユを含む多くの乗客が被害に遭う。

――それまでに何とか撃退しないと行けない。

 ズデンカは決意した。

 索敵を開始する。全神経を傾けて、近付いてくる相手を探す。

 一つ。

 影が近付いて来たのがわかった。

――おい、ヴィトルド!

 ズデンカは叫んだ。

――ああ、わかってるよ。

 ヴィトルドは余裕で腕を組んだ。

 ひゅん。

 何かが、その肩先に当たる。

 いや、当たる前にヴィトルドは避けたのだ。

「チッ!」

 隧道の闇に紛れながら、ルツィドールの声が聞こえた。

 とはいえ、ズデンカはその顔をすっかり確認することが出来る。その目には耳から帯で結んだ不思議な筒がはまっていた。

「しつこい奴だな」

 ズデンカは吠えた。

「いい加減ハウザーさまの言いなりにならないお前らがしつこいんだよ!」

 何度もルナ誘拐に失敗しているので、腹を立てているようで、唇を歪めている。

「なぜ、ハウザーのようなやつに従う必要がある?」

 ズデンカは怒鳴った。

「知らなくてもいい! さっさと!」

 言葉も最後まで吐かずにルツィドールは向かってきた。

 その動きは正確で鋭い。ズデンカはメイド服ごと肩の肉を吹き飛ばされた。

 まあ、ただちに再生するが。

「今度は聖剣は持っていねえようだな」

 だがあの動きの速さをこの暗中でもされると厄介だ。

「なんなんだよあの眼に付けてる筒は?」

「暗視鏡だろうな」

 ヴィトルドが言った。

「暗視鏡?」

「普通の肉眼を持つ人間でも暗中を自在に見ることが出来る眼鏡だ」

「そんなものがあるのか?」

 ズデンカは驚いた。
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