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第一部
第三十七話 愛の手紙(7)
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「クソッ、なんかむしゃくしゃするぜ!」
ズデンカは思わず車室の壁を叩いてしまいそうになった。
「そんなもんさ。綺麗にオチが付く話なんて、この世の中にはそうはない」
ルナはパイプを吸いたそうに掌をヒラヒラと動かした。
「なんとかしようはねえのか」
ズデンカは言った。
「騙した当人が死んでるんだから、文句は言えない。ヨハンナさんとその犯人の面識があれば、それを実体化することぐらいは出来るけど、今回はそんなこともない。街で見かけて一目惚れしたとかいう文面はきっと誰に対しても送っていたものだろうさ」
「じゃあ、ヨハンナはいつか現実に気付かされるのか」
「そういうことになるね。仕方ないよ。彼女が見ているのは夢以外の何物でもないんだから」
「でも夢を見続けられる人もいます! 本人の心がけしだいで!」
いきなりカミーユが言った。
「お前は夢を見たい年頃だしな」
ズデンカはカミーユに少女小説を薦められたことを思い出した。
「そうじゃないですよズデンカさん! おばさんになっても、夢に生きられる人もいます。ヨハンナさんはきっとそうですよ!」
「じゃあ事実が明らかになっても、あいつは夢の中で生きられるのかよ?」
ズデンカは腕を組んでカミーユを睨み付けた。
「そ、それは! でも、きっと良いように解釈して……」
取り方によっては物凄く辛辣にも聞こえる言葉をカミーユは口にしていた。
「そうだよ! 解釈しだいだ。本人が絶望しなければ良いんだよ」
「本当のことを知ったら絶望するだろう。自分がいもしない人間に金を払い続けていたなんてな」
ズデンカは飽くまで現実的だった。
「でも、お金を払い、信じ続けることで幸せな時間が送れるようになったって思えば」
ルナの弁解には明らかに焦りの色が見えた。
「お前、あいつの話をちゃんと訊いてたのか? あいつは親の介護を何年もやってたんだ。はっきり口に出してはいなかったが、相当な苦労だったと思うぜ。単純に幸せな時間を送ったって訳じゃない」
ルナは脱帽した。
「ブラヴォ! 君の方がそう言う言葉の裏を読みとる力は高いようだ」
「褒めなくてもいい。ヨハンナを何とかフォローできるよう、それだけを考えろ」
ズデンカは内心むず痒い思いを抱いていた。
「って言っても実に無理難題だよ……あ、とりあえず向こうに行ってみるか!」
「向こうってどこだよ」
「わたしが幻想で作った車室さ」
ルナは自慢げに言う。
「大丈夫なのか?」
ズデンカは不安だった。
「まあわたしが近くにいるうちは大丈夫だろうさ」
ルナは立ち上がった。
「今回は私も行かせて貰いますよ! 待ちぼうけを食わされるなんてこりごりですから!」
カミーユも続いた。
「勝手についてこいよ」
やれやれと思いながら、ズデンカは先頭に立って歩いていった。
――さて、その車室とはどこにある?
「真っ直ぐに進んで」
とルナ。
長い廊下を通り抜けて、車輌の前方側に移動していった。
「あそこだよ」
ルナは一室を指差した。
「何でわかる」
「わたしは記憶力が特別良い方なんだ。通ったときに全て頭の中に入れてるんだよ。それによく見て。あのドア、不自然でしょ?」
ズデンカはぱっと見ではよくわからなかった。
だが等間隔でドアは配置されているはずなのに、そこだけ一マス分程度詰まって並んでいるのだ。
確かに変だった。
ズデンカはノックした。
ズデンカは思わず車室の壁を叩いてしまいそうになった。
「そんなもんさ。綺麗にオチが付く話なんて、この世の中にはそうはない」
ルナはパイプを吸いたそうに掌をヒラヒラと動かした。
「なんとかしようはねえのか」
ズデンカは言った。
「騙した当人が死んでるんだから、文句は言えない。ヨハンナさんとその犯人の面識があれば、それを実体化することぐらいは出来るけど、今回はそんなこともない。街で見かけて一目惚れしたとかいう文面はきっと誰に対しても送っていたものだろうさ」
「じゃあ、ヨハンナはいつか現実に気付かされるのか」
「そういうことになるね。仕方ないよ。彼女が見ているのは夢以外の何物でもないんだから」
「でも夢を見続けられる人もいます! 本人の心がけしだいで!」
いきなりカミーユが言った。
「お前は夢を見たい年頃だしな」
ズデンカはカミーユに少女小説を薦められたことを思い出した。
「そうじゃないですよズデンカさん! おばさんになっても、夢に生きられる人もいます。ヨハンナさんはきっとそうですよ!」
「じゃあ事実が明らかになっても、あいつは夢の中で生きられるのかよ?」
ズデンカは腕を組んでカミーユを睨み付けた。
「そ、それは! でも、きっと良いように解釈して……」
取り方によっては物凄く辛辣にも聞こえる言葉をカミーユは口にしていた。
「そうだよ! 解釈しだいだ。本人が絶望しなければ良いんだよ」
「本当のことを知ったら絶望するだろう。自分がいもしない人間に金を払い続けていたなんてな」
ズデンカは飽くまで現実的だった。
「でも、お金を払い、信じ続けることで幸せな時間が送れるようになったって思えば」
ルナの弁解には明らかに焦りの色が見えた。
「お前、あいつの話をちゃんと訊いてたのか? あいつは親の介護を何年もやってたんだ。はっきり口に出してはいなかったが、相当な苦労だったと思うぜ。単純に幸せな時間を送ったって訳じゃない」
ルナは脱帽した。
「ブラヴォ! 君の方がそう言う言葉の裏を読みとる力は高いようだ」
「褒めなくてもいい。ヨハンナを何とかフォローできるよう、それだけを考えろ」
ズデンカは内心むず痒い思いを抱いていた。
「って言っても実に無理難題だよ……あ、とりあえず向こうに行ってみるか!」
「向こうってどこだよ」
「わたしが幻想で作った車室さ」
ルナは自慢げに言う。
「大丈夫なのか?」
ズデンカは不安だった。
「まあわたしが近くにいるうちは大丈夫だろうさ」
ルナは立ち上がった。
「今回は私も行かせて貰いますよ! 待ちぼうけを食わされるなんてこりごりですから!」
カミーユも続いた。
「勝手についてこいよ」
やれやれと思いながら、ズデンカは先頭に立って歩いていった。
――さて、その車室とはどこにある?
「真っ直ぐに進んで」
とルナ。
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「あそこだよ」
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「何でわかる」
「わたしは記憶力が特別良い方なんだ。通ったときに全て頭の中に入れてるんだよ。それによく見て。あのドア、不自然でしょ?」
ズデンカはぱっと見ではよくわからなかった。
だが等間隔でドアは配置されているはずなのに、そこだけ一マス分程度詰まって並んでいるのだ。
確かに変だった。
ズデンカはノックした。
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