370 / 526
第一部
第三十五話 シャボン玉の世界で (8)
しおりを挟む
やがてすぐにオドラデクの姿が見えてきた。
ボナヴェントゥーラが睨み付けてくるのを前に、上半身を乗り出して突っかかっている。
「おいおい、何してくれやがっちゃってんですかぁ!」
ボナヴェントゥーラは例の輪っかをオドラデクに向けるが、二度同じ手は喰わじと身を遠ざけた。
「どんな妖術を使ったか知りませんけどねぇ、ぼくを馬鹿にした罪、受けてもらいますよ!」
――お前、そんな性格じゃなかっただろ。
フランツは突っ込みたい気になったが途中で呆れて黙った。
オドラデクは片手をくるりと一回転させる。たちまちそれが糸に姿を戻し、輪っかへ絡みついた。
輪っかはきれぎれになってバサリバサリと砕け落ちた。
それを見てボナヴェントゥーラは目を見張った。
「貴様……よくも!」
顔を真っ赤にしてオドラデクへ突撃していく。
だが、こう言う勝負ならオドラデクは負けない。
ひらりとかわして、ボナヴェントゥーラの足に糸を巻き付けた。
――殺すなよ。
フランツは思った。
ボナヴェントゥーラはただこっちが輪っかを勝手に使っていたことに怒っただけだ。
それに対してこちらが殺したり手足を切り落としたりするのは間違っている。
でも、オドラデクを止めて人道主義者ぶりたくはないフランツだった。
――俺は猟人なのだから。
だがオドラデクはそんなことはしなかった。
ボナヴェントゥーラを糸でグルグル巻きにして地面に横たえさせたのだ。
「お前、そんなことも出来るんだな」
ファキイルとともに咫尺《ちかく》に降り立ったフランツは言った。
「もっ、ちろん!」
オドラデクは威張った。
「じゃあ俺も助けられたはずだよな。それなのになんだ、輪切りになるとか」
フランツは声に険を含ませた。
「てへっ。ぼく、そんなこと言ったんですね。忘れちゃいました」
オドラデクは舌先をちょっぴり見せて、自分の頭をコツンと叩いた。
その頭をどれほどフランツは撲りたくなったことだろう。
「ところで……こいつどうするんだ?」
「まあお仕置き……と言いたいところですが、ここに残しておきましょ。やり返してこないならいいんです」
オドラデクは先が糸になっている腕を引いた。
途端に糸は途切れ、ボナヴェントゥーラを縛めているものと、オドラデクの五本の指の形に戻ったものとに分かれた。
「ぼくは糸を各地に残しているんですよ。前言いましたよね。これもその一つってだけで」
「貴様ら、何者だ?」
ボナヴェントゥーラが叫んだ。
「知らなくて良い。だが、俺がやったことは謝る。本当にすまなかった」
フランツは頭を少し下げた。
「……」
ボナヴェントゥーラは黙っていた。
「大事にしてた輪っかも壊してしまった。金なら幾らでも払う」
「いらん。家に幾らでもある」
やっと答えが返ってきた。
「お前はここで何をやっているんだ?」
「俺は公園の番人だ」
大男は観念したように目を瞑り、静かに言った。
「公園って……ここがそうなのか」
フランツはやっと気付いた。特にそれらしい囲いも壁もなかったように思えたからだ。
「そうだ」
ボナヴェントゥーラの答えはシンプルだった。
「シャボン玉で遊んでいるのか?」
「遊びに来ている子供たちを喜ばせるためでな」
意外に思った。
この男、ずいぶん兇暴なようで、そんな一面があるのか。
「子供を中に入れて飛ばしたりするのか」
「そんなことしない。する訳がないだろう」
ボナヴェントゥーラの声に怒気が籠もった。
フランツはまたしまったと思った。
ボナヴェントゥーラが睨み付けてくるのを前に、上半身を乗り出して突っかかっている。
「おいおい、何してくれやがっちゃってんですかぁ!」
ボナヴェントゥーラは例の輪っかをオドラデクに向けるが、二度同じ手は喰わじと身を遠ざけた。
「どんな妖術を使ったか知りませんけどねぇ、ぼくを馬鹿にした罪、受けてもらいますよ!」
――お前、そんな性格じゃなかっただろ。
フランツは突っ込みたい気になったが途中で呆れて黙った。
オドラデクは片手をくるりと一回転させる。たちまちそれが糸に姿を戻し、輪っかへ絡みついた。
輪っかはきれぎれになってバサリバサリと砕け落ちた。
それを見てボナヴェントゥーラは目を見張った。
「貴様……よくも!」
顔を真っ赤にしてオドラデクへ突撃していく。
だが、こう言う勝負ならオドラデクは負けない。
ひらりとかわして、ボナヴェントゥーラの足に糸を巻き付けた。
――殺すなよ。
フランツは思った。
ボナヴェントゥーラはただこっちが輪っかを勝手に使っていたことに怒っただけだ。
それに対してこちらが殺したり手足を切り落としたりするのは間違っている。
でも、オドラデクを止めて人道主義者ぶりたくはないフランツだった。
――俺は猟人なのだから。
だがオドラデクはそんなことはしなかった。
ボナヴェントゥーラを糸でグルグル巻きにして地面に横たえさせたのだ。
「お前、そんなことも出来るんだな」
ファキイルとともに咫尺《ちかく》に降り立ったフランツは言った。
「もっ、ちろん!」
オドラデクは威張った。
「じゃあ俺も助けられたはずだよな。それなのになんだ、輪切りになるとか」
フランツは声に険を含ませた。
「てへっ。ぼく、そんなこと言ったんですね。忘れちゃいました」
オドラデクは舌先をちょっぴり見せて、自分の頭をコツンと叩いた。
その頭をどれほどフランツは撲りたくなったことだろう。
「ところで……こいつどうするんだ?」
「まあお仕置き……と言いたいところですが、ここに残しておきましょ。やり返してこないならいいんです」
オドラデクは先が糸になっている腕を引いた。
途端に糸は途切れ、ボナヴェントゥーラを縛めているものと、オドラデクの五本の指の形に戻ったものとに分かれた。
「ぼくは糸を各地に残しているんですよ。前言いましたよね。これもその一つってだけで」
「貴様ら、何者だ?」
ボナヴェントゥーラが叫んだ。
「知らなくて良い。だが、俺がやったことは謝る。本当にすまなかった」
フランツは頭を少し下げた。
「……」
ボナヴェントゥーラは黙っていた。
「大事にしてた輪っかも壊してしまった。金なら幾らでも払う」
「いらん。家に幾らでもある」
やっと答えが返ってきた。
「お前はここで何をやっているんだ?」
「俺は公園の番人だ」
大男は観念したように目を瞑り、静かに言った。
「公園って……ここがそうなのか」
フランツはやっと気付いた。特にそれらしい囲いも壁もなかったように思えたからだ。
「そうだ」
ボナヴェントゥーラの答えはシンプルだった。
「シャボン玉で遊んでいるのか?」
「遊びに来ている子供たちを喜ばせるためでな」
意外に思った。
この男、ずいぶん兇暴なようで、そんな一面があるのか。
「子供を中に入れて飛ばしたりするのか」
「そんなことしない。する訳がないだろう」
ボナヴェントゥーラの声に怒気が籠もった。
フランツはまたしまったと思った。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
勇者パーティーを追放された俺は辺境の地で魔王に拾われて後継者として育てられる~魔王から教わった美学でメロメロにしてスローライフを満喫する~
一ノ瀬 彩音
ファンタジー
主人公は、勇者パーティーを追放されて辺境の地へと追放される。
そこで出会った魔族の少女と仲良くなり、彼女と共にスローライフを送ることになる。
しかし、ある日突然現れた魔王によって、俺は後継者として育てられることになる。
そして、俺の元には次々と美少女達が集まってくるのだった……。
悪役令嬢の居場所。
葉叶
恋愛
私だけの居場所。
他の誰かの代わりとかじゃなく
私だけの場所
私はそんな居場所が欲しい。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※誤字脱字等あれば遠慮なく言ってください。
※感想はしっかりニヤニヤしながら読ませて頂いています。
※こんな話が見たいよ!等のリクエストも歓迎してます。
※完結しました!番外編執筆中です。
転生したらチートすぎて逆に怖い
至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん
愛されることを望んでいた…
神様のミスで刺されて転生!
運命の番と出会って…?
貰った能力は努力次第でスーパーチート!
番と幸せになるために無双します!
溺愛する家族もだいすき!
恋愛です!
無事1章完結しました!
転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~
りーさん
ファンタジー
ある日、異世界に転生したルイ。
前世では、両親が共働きの鍵っ子だったため、寂しい思いをしていたが、今世は優しい家族に囲まれた。
そんな家族と異世界でも楽しく過ごすために、ユニークスキルをいろいろと便利に使っていたら、様々なトラブルに巻き込まれていく。
「家族といたいからほっといてよ!」
※スキルを本格的に使い出すのは二章からです。
美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます
今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。
アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて……
表紙 チルヲさん
出てくる料理は架空のものです
造語もあります11/9
参考にしている本
中世ヨーロッパの農村の生活
中世ヨーロッパを生きる
中世ヨーロッパの都市の生活
中世ヨーロッパの暮らし
中世ヨーロッパのレシピ
wikipediaなど
婚約破棄されなかった者たち
ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。
令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。
第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。
公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。
一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。
その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。
ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。
料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します
黒木 楓
恋愛
隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。
どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。
巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。
転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。
そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる